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短編小説

ヒーローなら君を幸せにすることくらいできるはずだ。

作者: 藤冨 幹臣/六畳間主義者

小学五年生のぼくはヒーローに憧れている。

 そう、ヒーローだ。真っ赤なマントを靡かせ、素顔は決して明かさずに、名前は『六畳間主義者』で通すのさ。名前の由来は六畳間でしか眠ることのできないぼくに父さんが言った「お前は重度の六畳間主義者だな!」という言葉さ。

 その時―――というか今もだけど、あんまり理解できていなかった。けど、なんとなく格好良いからぼくは正義のヒーロー『六畳間主義者』さ!


 今日から夏休み。今学期も山本先生との戦いに勝った翌日という記念すべき日さ。


 ぼくは仲間1号のメロスを連れ、家の近くにある小さな公園『六角公園』にやって来た。メロスはわんわん!と吠えてやる気満々だ。

 言うなれば『やる気満々マン』。逆から読むと『ンマンマンマキルヤ』だね!! なんで逆から読んだか? えへへ、ぼくにもわからない。


 でも、なんだか寂しいかも。友達のたつのりもみちよちゃんもみんな『田舎』に帰っちゃった。お土産が楽しみだったりもするけど、なんだかなあ。


 いいや、たつのりもみちよちゃんもいい。どうせ「まだヒーローごっこ?」とか冷たい目で見られるんだ。人の個性も許してやれない心の狭い奴に構ってる暇はない。そんなことをしている暇があったらぼくはホワイトハウスを六畳間に変えて六畳間の素晴らしさをアピールするさ。


 その時、メロスが「ワン!!」と鳴きながら僕の服の裾を噛んで引っ張ってきた。


「一体何をするのさ、メロス」

「ワンワン!」


 メロスが茂みに向かって走っていく。あそこに何かあるのかな? これは、ヒーロー六畳間主義者の出番かもしれない。


 しかし、現実はそうも阿呆ではなかったみたい。そこに落ちていたのは眼鏡ケースで、中には黒縁眼鏡が入っていた。


 眼鏡ケースには付箋が貼られていた。


『拾ったら、どうか交番へ』


 ぼくは素直なもんで『届けなくちゃ(使命感)』と思い、メロスを引き連れ交番に眼鏡ケースを届けた。お巡りさんは百円玉をくれた。


 浮かばれぬ表情だったのが、唯一の気がかりだったけどぼくはあほなもので自動販売機でいささか体に良いとは言えない緑色の飲料水を購入し、こきゅこきゅと流し込み喉を潤した。


「ワン!」

「どうしたのさ? そろそろ帰ろう?」

「ワン! ワンワン!」


 メロスは頑なに帰路につこうとしない。時計を見ると、もうお昼ご飯の時間だ。醤油ラーメンが食べたくなってくる。


「ワン!」

『うひゃっ!?』

「!」


 メロスが公園のドーム状のあれ、名前なんだっけ……たしか……忘れた! まあ、ドーム状のあれに吠えたの。そしたら、女子みたいな男子みたいないささか中性的な声が聞こえてきたのさ。


「君は……」

「あ…あ……」


 そこにいたのはクラスメートの由良さんだった。

 由良さんは、いつもボロボロの服を着てギトギトの脂の染みた髪をした『事情ありけり』な女子だ。それでも、勉強が出来たのでぼくはよく教えてもらっていた。


 他の男子からは『そんな貧乏神と一緒にいたら、ヒーローになれなくなるゾ』と囃し立てられたしもするがこんなものでなれなくなるヒーローならぼくは信用するに値しないものだと思っているので『FU〇K OFF』といって、蠅叩きかくやはらっていた。


「由良さん? どうしたの?」

「えと……その…あ……」


 由良さんはうつ向きながら去っていった。その足の早さは甲斐の武田軍のようでもあった。


「ンワン!」

「ん? これは…」


 小さなリュックサックが落ちていた。落ちていたというよりは置いてあった、というべきか。由良さんの忘れ物のようだ。うっかりさんめ。


 ぼくはリュックサックを由良さんの家に届けることにした。家は知らないから道中道行く人に訊ねることとする。


      ○


 教えてもらいたどり着いたのは、近所でも『お化け屋敷』で有名なあったがぼくは迷わずインターフォンを押下した。


 ピーンポーン・・・。


 誰も出てこない。お母さんは働いていないとの話なので、家にいるか用事に出ているか…後者だね。また時間は改めさせてもらおう。


「そうだ、直接由良さんを探した方が早いね!」


 それは名案じゃボケェ!!というかのごとくメロスが「ワン!」と鳴いた。


 探すにしてもどこにいるのだろう? ぼくは考えた。由良さんはいっちゃ悪いけど小心者な性格だから…あそこかな。


 ぼくは走って、家に帰り自転車に乗った。


 たどり着いたのは、裏山をゆねりくねりと抜け、時々二転三転した先にある幻想的な開けた場所で、小さな池もある。


「はぁ…はぁ……」

「ひっ…田辺くん…」

「由良さん、やっぱりここにいた」


 膝を抱え座りこむ由良さんの隣にぼくは並び立った。

 由良さんは居づらそうにもじもじとした。


「ほら、リュックサック。忘れてたよ?」

「え…うん…ありがとう……」


 由良さん、清潔感が職場ニートしてるよ。とは言えるはずもなく、どうしようか迷ったあげく、ぼくは口を開いた。


「うち、今日拉麺なんだけど食べていく?」

「えっ!?」

「本音を言うと、人数が増えると一玉二玉増えるから多く食べられるんだよね」


 これは正直なところのはなし。今ものすごくお腹が減っている。メロスはご飯の時間なので家に置いてきた。


「どうする?」

「あの……そのっ…えと……お言葉に甘えます」


 ありゃ、さっきの言い方は強制しちゃったな。ヒーローたるもの口には気を付けなくちゃ。


 何はともあれ連鎖的に綺麗な由良さんの出来上がりも近いだろう。由良さんは今も可愛いけど、綺麗な方がもっと可愛いからね。

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