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令に降ってわいた災難


 次の日の学校で、あまりの落ち込みように榊原も吉野も心配し、しつこく迫ったためお昼休みの自白する事となった。


 その昼休み、令曰く、

「女の人のおっぱいを服の上から触ったら、結婚させられることになった」


 それは爆弾並みの叙述だ。だから、反応するまでに数秒を要したあと、榊原が、

「なんですって? おっぱいを触った?」


「春代ちゃん、服の上からだってば! でも、不可抗力なんでしょ?」


「そうなんだ、向こうが無理矢理、僕の手を取って触らせたんだ。僕は抵抗も出来なくどうしようも無かった」


 そこまで聞いていると、この令という奴がどこまで腐った男なのかと思うほどなのだが、彼女たちにはそう見えないようで、

「それなら逆に警察にでも訴えれば良い。令君ってまだ十五なんだし、青少年育成条約とかなんとかで守ってもらえるとおもう」

 こう冷静に分析したのは吉野だ。


「しかし、その相手がこの国の総理の娘なんだ」


 絶句する二人だが、吉野が素早く回復し、

「それなら今すぐにでも一緒に逃げましょう。私たちで結果を出せば向こうだって無茶をしないでしょ?」


「結果って?」

 と、恐る恐る聞く令に、


「勿論子供ですよ。二人の子どををつくれば向こうだって?」


「あの一家は、その無茶をしてくるんですよ。それに子供って? 僕はまだ……」


 しかし、榊原が同意し、

「そうね。それしか手はないかも。なら、いっその事三人で逃げましょう。しばらく抵抗した辺りで子供でも出来ていれば、向こうも諦めると思うの。これなら吉野ちゃんも納得してくれるよね?」


 しかし、令は手を振って遮り、

「いやいや、その思考にはついて行けないから、それに僕はヘタレだし」

 と、即行でその場をお後にする令だが、もうすでに学校中に知れ渡っていた。

 どうやら総理が手を回し、教職員に祝賀の命令を下したようだ。


 それで教室に戻れば、黒板に大きくと

『令君、ご婚約、おめでとうございます!』

 などと、書かれていた。


 これ以上は学校にいられないと、令は脱走兵の如くに校舎から逃れていった。


 しかし、その先に待っていたものがいた。薫だ。


 薫はおもむろに車から降りれば、手招きする。


 その姿は彩佳と瓜二つ。

 だから令が間違えても仕方のないことだった。

 彼は、なにやら嬉しくなって駆け寄っていく。


「あぁ、良かった。許してくれる、のかな?」


「許す? って、また、あなたは何かしでかしたのですか?」


「え?」

 と、令ははっきり自分の愚かさを悟った。


 その表情を読み取った薫は突き放すように、

「良いから乗りなさい。買い物があるんだから」


『買い物か!??』

 と、安堵している令だが、ここは全力で逃げるべき所だった。


 車は静かに走ってゆく。

 が、落ち着かないのは令だ。

 だから、そわそわしっぱなしで薫を苛立たせた。


 扇子で扇いでいると、運転席側から、

「お嬢様、空調の温度を下げましょうか?」

 と、室内マイクで聞いてきた。

 ルームミラーで気が付いたのだろう。

 薫は、素っ気なくマイクのスイッチを入れ、

「いえ、結構よ。それより後どれくらいかしら?」


「はい、後、十分以上はかかりますね。お急ぎでしたら先導車を付けましょうか?」


「そうして頂戴」


 令は何事かと思っていたら、パトカーに白バイがサイレンを鳴らしながら先導車として前を走り出した。おまけに信号が全部青になっているのだ。

 それで令は驚きつつ、

「信号が青なんてラッキーですよね?」


 それを聞いて薫は笑いだし、

「だから貧乏人は蔑まれるのよ。こんなの裏があるのに決まっているでしょ。お金持ちはそうやって暗に自分たちに有利なような社会作りをしているのよ」

 その後も複数の実例を挙げ令を驚愕させていった。

 もっとも、彼女にしたら目的地につくまでの暇つぶしでしか無かったのだが。


 そうこうしているとどこかの高層ビルで降りるように言われた。

「ここで?」

 と聞く令に、

「ここでヘリに乗るのよ」

「へ? り?」

「ヘリ、ヘリコプター」

 そう言って薫はどんどん先に進んでいく。

 高層ビルには受付カウンターがあるのだが、彼女はそれを全く無視し、自分のエレベーターが如くに一カ所の前で立ち止まった。


 そうするとどこからか走ってきた警備員が、申し訳なさそうにエレベータ横の操作パネルを開き、そこに鍵を差し込みエレバーターを稼働させた。


「遅くなりまして、申し訳ありませんでした」


「事前連絡があったはずよ! ここで待っているほどの気概を見せなさい」


 その警備員、帽子を床に落とすほど頭を下げ、

「誠に申し訳ありませんでした」


「言い訳は?」


 薫は開いたドアに体を半分中に入れ、返事を待っていた。


「思わぬ不審者がありまして、その応援に行ってまして?」


「化け…… それで片づいたの?」


「はい、すでに処理は完了しております。単なる浮浪者でした」


「そう、それなら良いのだけれど、手が足りなかったら貸すわよ?」


「大丈夫でございます。お心遣い感謝申し上げます」


 その後、高層ビルのヘリポートでヘリに乗り込む時、薫はスカートの裾をしっかりまとめ上げていた。

 そして機内で、

「ノーパンなの」

 と、ウインクして見せた。


 令は数秒の後、理解したのか真っ赤になった。

 薫はそれを具に観察し、

「嘘に決まっているでしょ」

 と言っては心地よさそうに笑った。


 その時、令には気にかかることが一つあった。薫が言った、『化け……』だ。

 それで聞いてみたのだが、薫は簡単に時々出るとしか教えてくれなかった。


 ヘリの目的地は通称海ほたるだった。


「ここで何を買うんです?」


「エンゲージリングよ!」


「え? 僕、お金なんて持ってません」


 大爆笑する薫と、笑いを堪えている護衛官だ。


「そんなの私の父親が払うに決まっているでしょ。でも、私のために払う気になってくれて嬉しいわ。でもあなた方の稼ぎでは百年経っても無理でしょうね」


 そう言われた時、自分が何を言ったのかが理解できたらしく、慌てて、

「いえ、そんな……」

 と言い訳しだした時には、薫から頬にキスをされていた。


 売り場へは直行のように、店長直々のご案合いとあいなった。


「お気に入るのがあると幸いなんですが」


「大丈夫よ。あなたを信頼してますから」


 そんな会話を聞いていると、館内から警報のようなアナウンスが流れていた。

 令は聞き取れなくて、

「店長、あれはなんですか?」

 と、中学生らしく問い掛ければ、


 店長が鋭い視線で令を見た後、目つきを変え、和やかになりながら、

「お連れのお方は? もしや?」


「そうよ。顔を覚えておいて損は無いわね」


 それを聞いて視線まで変え、

「お客様、あれは何時もの注意書きみたいなものです。海に危険な海洋生物が出たのでしょう。海に入れば危険ですが、海に落ちる人はまずいないでしょうから」

 そう言って店長はカラカラと笑った。


 それに付け加えるように薫が、

「れいの化け物の類いよ」

 と、素っ気なく答えた。

 彼女の注意はすでに買い物にあった。


 店の中で最高級品の宝石商に案内されると、薫がどんどん奥に進んでいく。


 それを不安そうに付いていく令といった構図だ。

 本来、ここまで来てはいけないのだろうが、逃げるという意識がまだこの時には働かず、最後のリング選びにまで来てしまった。


「これなんて素敵ね」

 と言う薫は値段を気にしていないようだ。

 それで令がちらっと見れば、単位が億になっている。


 それでビックリして顔が引き攣っていると、薫の方から、

「ちょっと大丈夫? それより、これって似合うかしら?」

 と、彼女は指に填めている。


 それで令が小声で、

『ちょっと値段は見ましたか? 億ですよ!』


 そんなことかと薫は指輪を填めた手を顔の横に持ってきて、

「これ気に入ったんだけど、これより良いものって他には無いのよね?」


 店長は満面の笑みを見せ、

「はい、そのお品が最高級品でございます」


「あなた、これで良いかしら?」

 と、こちらも満面の笑みで薫が左手を少し振ってみせる。

 そうしてから薫が粛粛と、

「これにします。後のことはよろしくお願いしますね」


 そう言って会計所に行きカードとかサインをしているのを、令は遠目から眺めている。


 どうも自分事のように思えない令だ。


 そこに現実世界に引き戻すかのように薫が腕を組んできた。

「それじゃ行きましょ!」


「今度はどこにです?」


「用事も済んだし、デートしましょう!」


 なんとなくだが、令の気持ちに、『この時だ!』と言った感情が発生した。


 それを察したのか、

「でも、言っておきますけど、海は危険ですからね。くれぐれも海に落ちないようにね」


 令は逃げ場が無いと感じたのだが、それ以上にこのままいれば身の危険と覚悟し、

「ちょっとトイレに」

 そう言って駆け出した令だ。


 それを見送る薫に、護衛官が、

「よろしいので? 追いかけましょうか?」


「良いのよ。今日の所はね! 上から様子を見てみましょう。でも、化け物化したお魚さんって数が多いのでしょ?」


「はい、ピラニア化したボラの大群、サメ化したハゼの群れを確認してあります」


「そう、じゃ、かなり危険なのね!??」


「はい、並の能力者では数に太刀打ちできません」


「それは楽しみだわ。急いで行きましょう」


 トイレに行く振りをして外に出た令は、そこに海を見たのだが、やはり怖さが浮き彫りになってくる。

 第一に泳げるか、と自信など無きに等しい。

 次に、化け物魚をどうするかと、迷っている。


 と、そこに薫の声で、

「あそこよ! 捕まえて!」

 と、大声で叫んでいるのが聞こえた。


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