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桜舞う少女の正体


 こうして無事にその日、午後の四時には桜花女子大付属の校門前にたどり着いた。

 が、来てみて驚いた。どこかの男どもが列をなして待機している。


『どこかのアイドルでも来ているのか?』

 と、令が錯覚するほどだ。それで、

「あの? どなたかが来ているんですか?」

 と、素直に聞いてみた。


 そうしたらその男が腕章を見せながら、

「お前、見たことのない奴だな? もしかして潜りだな?」

 そう言うと男が振り向きざまに大声で、

「おい、こいつ潜りだぞ! 誰か幹部を呼んできてくれ」


 その叫び声に反応した男たちがゴキブリが如くにゾロゾロとやってきた。


 その男たちに、令はたちどころに身柄を拘束されてしまった。


 そこに腕章どころか制服もどこぞの軍服のような奴が、

「こいつか? とりあえず所持品チェックをしてみろ。どこかに隠しカメラがあるかもしれないからな。念入りに調べろよ!」


 体中をくまなく触れられ、悶絶してる令は、

「止めてくれーー! お婿にいけなくなる」

 と懇願するのだった。


 そんな騒ぎを起こしていると、桜花親衛隊検閲部隊が颯爽とやってきた。


「こいつか? 不審者ってのは」


 令を拘束していたものが、

「はい、そうであります!」

 と、敬礼までして見せた。


 令は令で、

『おいおい、マジなのか!?』

 と、即行で立ち去りたくなっていた。


 が、その検閲部隊の隊員が、

「お前、名前を言って見ろ。確認してやる」


 拘束していた男が、なんだか悔しそうな顔つきをし、

「え? そんなの無駄ですよ。絶対こいつは変態の盗撮魔ですって」


「良いからお前は黙っていろ。で、お前の名前は?」


「令ですが? 僕はこのまま帰りますから、開放してください」


 令にしてはすこぶる流暢に話していた。


 その隊員、何かの送り状か何かを調べてから、驚いたように、

「令って言うんだな?」


 拘束していた男も驚いて、

「え? あったんですか? 一体どなたが?」


 しかし、隊員はそれには答えず、

「放してやれ。それに謝っておいた方が良いぞ。どう言うご関係かは知らないが、許可者は中等部の吉永嬢だ。ご機嫌を損ねたら大変な目に遭うぞ」


 その一言で拘束していた男が震え上がり、

「いや、すまんかった! ほら、この通りだ」

 と、九十度以上にまで頭を下げる。

 周りにいた男達も同上に謝罪しだしだしたのだ。


 それを嫌な思いをしながら、

「別にもう良いですから、頭を上げてください。僕が何も知らずに来たのが悪いんですから」


「おぉ、そう言ってくれるか。それはありがたい」と言いつつ男が、「それで吉永様とはどういったご関係なんですか?」


 そんなことを聞かれても答えようが無い令が悩んだ顔をしていると、


「彼氏と彼女の関係ですよ」

 と、誰かの声がした。


 それはまるで『こんにちは』と挨拶するように極々軽めに言い切るのだ。


 令が振り返れば、そこに声の主、あの時の少女が立っていた。


「なに面食らっているのですか。時間を有効に使いましょう。行きますよ」


 午後の斜陽の時間だとは言ってもまだ日があり日差しが彼女を浮き立たせている。


 その容姿についつい見とれている令に、追い打ちが襲ってくる。


「こんな所に何時までもいるとあの人が来てしまいます」


『あの人って?』

 などと思っている側から、


「あ~~ら、あの人って私の事かしら?」


 令が見るには少女と瓜二つなんだが、どこかが違う。


「あの? お姉さんですか?」


 令の間抜けな問いかけにも応じず、その人は、


「彩佳さんの様子がこの頃おかしいと思っていたら、こんな男を作っていたのね。お父様に報告しなければならない案件よね」


 令が今まで見たこともない困惑した少女の表情がそこにあった。


「お父様には言わないで!」


「だったら、分かるわよね? 私にも一枚噛ませなさいよ」


「一枚噛むって、これは私たちの間柄です。お姉様には……」


「それなら報告するわよ?」


 少女が令に視線を送ったのだが、令にはその意味が分からなかった。だから、令は何のリアクションも取らずにいると、


「分かったわ。お父様には言わないで頂戴」


 なんだか話が纏まったようで、このまま解散かと思っていたのだが、


「では、まいりましょうか」

 と、姉の方が迎えに来た車に乗り込みながら手招きしている。

 それには少女の方が、

「いえ、私たちは自分の車に」


 そう言いかけた時、姉の方が遮り、

「彩佳さんはそれに乗れば良いのよ。そこの殿方に言っているのですから。早く、お乗りになりなさい。私の忍耐を試そうなんて思わない方が良いわよ」


 令にはその言い方が命令に聞こえたのだが、判断の迷い、周囲の表情を確認すれば、誰もが皆、命令だと納得している。

『これは従うしか無いのか?』

 などと軽く考えていると、


「それなら私も乗ります」

 と、少女の方から動き出し、令を後ろから押すような感じで迎えの車に乗り込んだ。


 今まで令が乗ったことも無い対面式の高級車だ。彼は当然の如くに後方向きの座席で、彼女たち二人は前方向きの左右の席に座った。


「あの、どこに行くのでしょうか?」

 と、彩佳が心配そうに聞く。


「あら?」と、姉の方がそう言いながら扇子を取り出し、二三扇ぐのだが、それが何とも言えない良い香りがしてくる。


「彩佳さん、やはりこの一件はお父様に報告しましょう。意義は認めません。それに後々になってこの人が突然消息を絶つなんてことは嫌でしょ!」


 令にはその言い方が問いかけでは無く確定事項のように聞こえた。


 それは事実のようで、姉がサイドにあるスイッチを押しながら、

「お父様の所に行きます。連絡もお願いします」

 と、運転席側にいる二人に告げたようで、すぐさま、

「畏まりました、お嬢様」

 幾分緊張した声色に聞こえている。


 その理由も分からない令は、二人の前でさほど張り詰めてはいなかった、が、その前に姉が話していた、『突然消息を絶つ』が気になりだした。

『消息を絶つって、僕のことだよな?!』

 そこまで考えれば、自分が相手にする人物がどれほどのものなのか察しが付いたようで、いきなりそわそわし出し、

「この辺で降ろしてもらえませんか。ちょっと急用を思い出しまして」


 その令の申し出は完全にスルーされ、姉妹でなにやら話し合っている。


『それでこの人はどこまで知っているの?』

 これは姉の言葉らしい。


『理解はしていないと思うわ』


『理解はしていないけど知ってはいるってこと?』


『少しだけ体験してもらっただけだってば!』

 と、これは彩佳なんだが少し声高になる。


『あれを体験させたって事ね。で、成功したの? それとも見た目通りにギブ?』


『お姉ちゃん、それってかなり酷いよ。ちゃんとクリアしたってば』


『どうせあんたのことだからあれを使ったんでしょ!』

 姉がガツンと言い切るように語尾を強めた。


そうしていると永田町の料金所を降りていく。

 それでかなり不安になる令は、無謀にも、

「あの、この先ってもしかして?」


 姉の方が令の鈍さに少しイラッとしたようで、

「妹の名前を聞いても分からなかった? 吉永彩佳!」


 令は遅れ気味に、

「よ・し・な・が、総理のお嬢さん?」


「そこで様をつければ合格点にしてあげたのに、『さん』じゃ、ね。落第点ね」

 もちろん姉の言葉だ。


「お姉ちゃん、様は付けすぎだよ」


 姉の方は笑いながら、

「まぁ、父より祖父の方が怖いから、あんた、名前なんて言ったっけ?」


「令ですが」


「令君か、忠告していくから覚えておきなさいよ。父より祖父、祖父より曾祖父。この意味が分かるわよね? 今日は父に会うわけだけど、心しておきなさいよ!」


 はっきり言って令は非常に帰りたかった。目の前の彩佳がこれほどの美形であっても、優しさに包まれていても、こればかりは願い下げといったフラグが立ちすぎている。


「辞退は出来ないでしょうか?」


「出来ると思う?」


「やっぱり出来ないですよね?」


「あんたはもう一本橋の中間まで進んでしまったの! 退くも地獄、進むも地獄って状態なの。だったら進んだ方が良いでしょ? それとも彩佳さんでは満足できないとか?」


 真っ赤になりながら彩佳が、

「お姉ちゃん!」

 と、聞いたことも無い声高の反応と共に両腕で反応する。


 その彩佳の両手を軽く受け止めると、

「でもね、それは彩佳さんが決めることじゃないからね。はっきり言って私にだって権利はあるわけだし、そのことだけは覚えておきなさいよ」


 彩佳の目に涙が光ってみえるが、令にはなにも口出しできない。


 で、それを確信した姉の方が、

「ほら見なさい。令君だってあなたの味方が出来ないでいるでしょ。私と彩佳とこの人の三人しかいないというのに、よ。これがお父様とか、お母様がいたら、どうなるんでしょうね。きっと、ハムスターのように観覧車を回して戯けてみせるのが精一杯よ」


 令はハムスターと同一視されたのだから怒っても良いのだが、彼には怒る道筋が出来てはいなかった。

 まだ、この時には彩佳への気持ちが固まっていない、と言う理由もあった。


 総理官邸に到着すると、有無を言わさずに令は車から降ろされ、続いて彩佳、一番最後に姉と言った順番だった。


 官邸内部に入り込めば、令は用人から色々な記帳書に記入させられた所為か、遅れ遅れになり彼女たちからはぐれてしまった。


 令の中では、

『官邸なんだから、生きて出られない、と言う事は無いだろう』

 的な思惑も働いていた。


 が、それは正確では無かった。

 この時代、そんな平和呆けした認識では明日をも知れないのだ。

 それを身をもって知る羽目になる会談がすぐに始まった。


 まるで官邸に常駐しているかのような警視総監が出向いてきた。

「この者が令・君、と言うのか? 総理のお嬢様に近しいご関係とか?」

 用人がはきはきとした返答をしていた。


「それで実践済みなんだな?」


「そう、聞き及んでいます」


「となれば編成チームに加えるしかあるまい」


「しかし、その前に実践形式での能力テストをしませんと?」


「うむ、規定通り? だが、その前に総理の許可をもらった方が良いだろう? よし、わしから話を通しておく。総理はあちらだな?」


「はい、すでに!」


 総監に連れられ、奥の部屋に通された令は、そこにテレビでしか見たことのない総理とご対面した。


 総監が小声で、『ご挨拶!』と催促するものだから令はお辞儀をしながら、

「どうも、令です」


 そこにはすでに両姉妹が座っていて話が付いていたようだ。


 で、総理が、総監に、

「総監の気が済むようにしてください。依怙贔屓があっては後々の為になりませんから、彩佳、それで良いな?」


 泣いていたのか、泣いているのか、彩佳はハンカチを使いながら頷く。


 そこに姉が余計なことを、

「総監、一番きついのでお願いします」


「きつい部類ですか? 生存率がコンマになりますが?」

(それは千人に数人か、万人に数人という生存率のことらしい)


「コンマですか、その上は無いのですか?」


「ありますとも、それでよろしいので?」


「それでお願いします。まだ、彩佳も出会ったばかりのようだから、この際、はっきりしておいた方が良いでしょう。なまじ期待させた後でのしくじりなんて、悲劇が拡大するだけですからね」


「は! では、最上段の仕様で望ませます」


 こうして令は有無を言わさずに試験場に連れて行かれた。

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