表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

影の正体

本部の作戦司令室に出向いていた少尉が持ってきて開口一番に、

「帰って来たばかりですまんが、もう一度出撃だ。三好軍曹は日下部に横田を指揮してくれ。俺は令を指揮する。部隊の役割は戻ったばかりと言うことで後方支援だ。前衛部隊の後に従っていれば良いはずだ」


 三好が珍しく真面目な顔をし、

「それで化け物の情報は?」


「それが影らしいのだ?!」


「影? ですか? 影って、何なんです?」


「何でも影が襲ってくるらしい。俺もよく理解できていないんだ」


 絶句している軍曹も隊員も固まってしまっている。その中でぼーっとしている令だけがまともに見えたらしく隊長が、

「期待しているぞ!」


 だが、令は能力を使い果たし普通の人間以下となっていた。


 本部からの作戦通り配置についた里中隊だったが、どうも令の様子がおかしいと思い、

「誰か令の様子が変な理由を知っているか?」

 と、とりあえず聞いてみたのだ。


 それに悪びれずに日下部が、

「それ私の所為かも、ちょっと装備に魔法を掛けてもらったの」


「馬鹿! それでどれくらい残っているんだ?」


「スッカラカンだと思う。だから私の装備は一級品!」


 それにショックを受けた隊長は仕方なく二班に分かれていたものを取りやめ、五人で一班組にした。

「それでは全員で纏まっていくぞ」


 里中隊長が励ましている側から、里中隊が所属している中隊が、その影なる化け物に襲撃されだした。


 たちまち悲鳴が至るところから聞こえてきた。


 そこで何を思いついたのか、横田が、

「影って、真っ暗になれば見えなくなるんじゃ無いの?」


 里中隊長も感心し、

「そうだな。それなら化け物も襲ってこれないかも?」


 それには令が呆れて、

「影とか言っても、化け物は化け物でしょう。人の影、木陰、いろんな影の中に隠れることが出来ると言うわけです。存在そのものは確かにあるのですから、見つけなければやられますよ」


 それを聞いて日下部が激怒し、

「ちょっとあんた! 寝ている場合じゃ無いのよ! 起きなさいよ!」

 と言っては令にビンタの連続をお見舞いする。


 あまりの激しさに、隊長の里中が、

「もう起きているって! それ以上は……」


 そこにも食いつく日下部が、

「あんたにこの窮地を抜け出す策でもあるって言うの? 私は嫌だからね、こんな所で死ぬのなんてまっぴらごめんだったの!」

 と言っては休めていた手の平をまた動かし、景気の良い往復ビンタをかます。


 と、さすがに痛いのであろう、腫れ上がった頬をさすりながら令がなにやら言い出した。

「それなら……」


 日下部がもの凄い剣幕で、

「あるんだったら早く言いなさい!!!!」

 と、ビンタの往復をとりあえず取りやめた。


 多分、幾分顔が腫れ上がっている令だが、

「見つけるというか、早速、自分の影に潜んでいないか、攻撃すれば良いじゃないですか。いたら、化け物を退治できるし、いなくても地面がへこむだけだしね」


 それを聞いて納得した日下部が

「なるほど、それなね! でもね、分かってたんなら早く言いなさいっての! これは言わなかったあんたが悪かったんだからね!」

 と、どうあっても令が悪者にしたいらしい。


 各々が自分の影を攻撃しだしたから、そこに自分の影も忍ばせたのは令だった。


 その情報が本部経由で客体に知らされ、至るところで地面に向かって攻撃しだし、その発砲音とか、爆発音とか、様々な激音が鳴り響いた。


「これで良いのか?」

 と、里中隊長が聞いている。


「後は、そこら辺の影に? ですかね? 出来たら弾は勿体ないから、刀か何かで突き刺した方が良いのでは?」


 そこから影狩りが始まった。

 と、少しすれば影の化け物もいる場所が無くなり、炙り出されたように発見されだした。その数、数匹もいた。


「こっちだ!」

 と、叫ぶところもあり、

「逃げたぞ!」

 と、警告音を発する所もあった。


 しかし、令の脳裏に一抹の不安が生じていた。それは、

「これって人型ですかね?」


 それを聞いて皆がぞっとし出した。確かに人型だ。と、すれば本物の人型の化け物も出てくるかも知れかった。


 そこで横田が、

「この影の化け物って強い方なんですかね?」


 しかし、希望的観測で言った横田に、日下部が、

「そんなわけないでしょ。強かったら隠れる必要なんてないでしょ」

 と、今度は強気になっていた、が、続けて、

「で、令君! 効果的にやっつける方法ってのを言いなさい!」


 みんなの視線が令に注がれる。


「地道にやるしかないよね? それか、元の大ボスを仕留めるとかかな?」


「大ボス?」


「なんだか、その影の化け物って仕留めても死体が実体化してないだろ?」


 日下部が思わずに、

「そう言われてみればやった後って消えちゃうわよね」


「だろ、送り込んでいる奴をやらねば切りが無いかな」


 で、再び込み上げてきたのか日下部が、令の胸ぐらを掴み上げ、

「また叩かれたくなければ、今、すぐに大ボスの場所を言うのよ!」


 顔が引き攣った令だが、

「だったら影の化け物を生きたまま捕獲し、それに糸を付けて返せば良いじゃないか」


「ほうほう! そんなことが出来るのね!? で、やるのよ!!!! そうよね、里中隊長! 令君にやらせても良いわよね!」

 言葉遣いは聞いているようだが、イントネーションは断定的だ。


 里中は致し方なく、

「そうだ、令君! 君がやり給え」


「えぇ……、だったらそいつを捕まえてくださいな。僕は疲れ切ってて無理っすから」


 日下部がよくよくみると令がへたばっている、が、彼女にしたら気合でなんとかなるレベルと思える、で、そこで、

「捕まえたら令君がやるんだよね! いいや、これは命令ですからね、そうですよね、里中少尉殿!」


「おぉ、そうだ、命令だ」


 と言ってる側から令はスヤスヤと寝息を立てている。


 軍曹の三好と横田が、影を追い立て、ついに捕縛に成功した。


「やったぞ!! 捕まえた。げ、何だ? こいつ! へなへなしてるし!」


 里中が、

「中身が無いからそうなっているんだろう。それより早く令を起こせ!」


 ニタッと笑った日下部が、勢いよく、

「起きろぉ!!!」

 と言ってはビンタの連続をしこたま食らわした。


「あぎゃぎゃ!!!」

 と言って起き上がった令は、

「起きた起きた、起きましたって!」

 で、そのまま令は、打たれた頬をこすりながら、

「お前に怨みは無いんだが、手を出してきたのはお前の方だからな。あんじょうよく死んでくれ!」


 その影が口を開いた。

「馬鹿野郎奴が! 死ぬのはお前だ!」


 その影が開けた口に、令は自分の霊糸を送り出し化け物の体に同化させていると急に実存在にたどり着いた。


 その瞬間、大ボスがその影を引き戻したのだ、が、当然の如く霊糸で繋がっていた彼までも引っ張ることになった。


「うん? お前か? なにやつ?」


 その問いに疑問を感じた令は、

「だから、さっき話していただろう。その相手さ。覚えているだろ?」


「うぬぬ、そう言う意味じゃ無い。どうして付いてきたんだ!??」


 令が連れて来られた場所は湿度が高く陰鬱な、そうナメクジが好きそうでうじゃうじゃいそうな神無城町という所に非常に似ていた。

 そして令が周囲を観察すると、おぞましいことにナメクジがわんさかといる。


「なんだ! このナメクジは?? これこそ下手物!」


 巨大なナメクジはヌメヌメしている。体中からそのへばりついてくる粘着質が拭き出しているかのようだ。そして匂いがもの凄い悪臭だ。


 その大ボスが急に激怒しだし、

「ナメクジ? ちゃんを付けろちゃんを! そしてナメちゃんに謝れ!」


「燃やし尽くしてやる! こんな下手物は火をつけ干物にすべきだ!」


「おのれ! 我慢してやれば調子にのりおって! 逝け!!!」

 そう言うと大ボスは雨を降らせ、ナメクジに力を付け、

「よしこちゃんに、みつこちゃん、そして大好きなよもぎちゃん! 総出できやつを舐めなくってやれ!!!」


 それ、『舐めまくれ』と言う言葉を聞いた時、ショックで失神しそうになった令がだ、ここで気を失ったら間違いなくナメクジの腹に収まってしまうと覚醒し、必死になって意識を正常に保つと、

「燃え上がれ煉獄の炎!!」


 だがしかし、この雨と霊力が枯渇している令では炎もついと消え去った。


 火を見た瞬間にはビクッとした大ボスだが、風前の灯火の如くに消え去って情けない煙だけとなったのを見て、

「馬鹿者め!!! 俺様のナメちゃんはそんな炎には負けないのだ! それいけ!」


 令は、大ボスが言う、『ナメちゃん』と言った言葉に滅茶苦茶腹が立ち、

「出でよ。大雨蛙!!!」


 雨に紛れて巨大なアマガエルが降ってきた。


 大ボスはそれを見て腰を抜かし、

「ナメちゃんが危ない!」

 と、ボスはボスなりに、

「出でよ! 八岐大蛇!」

 と、召喚するのだ。


 令は大ボスが三竦みのつもりで召喚したのだろうと読み、

「馬鹿だな、お前!」


「何が馬鹿だ! お前こそ大蛇に食われちゃえ!」


「それだから馬鹿だと言ったんだ。その八岐大蛇ってナメクジの大好物なんだぞ!」


「え???」

 と、ビックリしている大ボスが振り返って見れば、自分の巨大なナメクジが大蛇に群がり食い尽くしていく。

「馬鹿馬鹿! やめろぉぉ!!!」

 と言うも、八岐大蛇は七転八倒しナメクジから逃れようとしている。


 それを遠目なから眺めている雨蛙、大ボスが降らせている雨に大喜びで蛙の歌を歌っている。


 その歌がいかにも小馬鹿にしていると聞こえたのだろう、怒り心頭で、

「巫山戯るな! 殺してやる!!!」

 と、令に襲いかかろうとした瞬間に、


 自分が召喚した八岐大蛇が襲いかかってきた。


「へ??? なんで?」


 と、大ボスがよくよく見ればナメクジは雨蛙に食べ尽くされ、蛙と八岐大蛇しかいなくなっていた。では、どうして自分に大蛇が向かってきたのか不思議に思っていると、


 令が冷静な言葉遣いで、

「お前が召喚した大蛇なんだろうけど、ナメクジに襲わせたのがいけなかったな。それで大蛇様がお怒りになったというわけさ。さぁ、さっさと大蛇に食われちまいな!」


「へん! 召喚したものなら元に戻せば良いだけの話! 戻れ! 八岐大蛇!」


 と言っても大蛇は戻らない。


 頭の半分を八岐大蛇にかじられながら、

「どうして? 戻れ! 八岐大蛇!!!」


 だがしかし、戻らない。


 それで大ボスが頭を食われながら、

「お前何をしたんだ?」


「八岐大蛇に名を変えてやったんだよ!」


「名を変えた!??」


「そう、だからもうお前では元に戻せない」


「ぎゃぁぁぁ!!!!」


 と、ついに大ボスが八岐大蛇の腹の中に入っていった。食われたのだ。


 それを見て、令は、

「哀れ大ボスさん、自分が召喚した化け物に食べられちゃった、本当にお可哀想に!」

 そう言ってから気を取り直し、

「八岐大蛇さん、お帰りなさい!」

 と言って大蛇を元に戻していった。


 大ボスもナメクジも八岐大蛇も消え去ったこの場所にとどまっていると、疲れからか一気に眠くなってきた令は、睡魔に勝てず、その場で眠りこけてしまった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ