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カラス退治

 令は午前中に学校に行き、午後からは国防軍、首都防衛隊の一員として働かされた。


 隊での扱いは雇用形態ではなく、一個人の事業主として仕事を請け負うという、なんとも胡散臭い形態にさせられていた。

 何でも年齢的なものがあるらしく、労基法に抵触しない抜け道らしい。


 その隊での令の評価はかなり高いのだが、年齢が年齢だから隊員から重宝がられているというか、便利屋的に働かされていた。


 その日は新宿御苑に化け物と化したカラスの大群がでたとかで招集がかかった。


 このカラス、化け物化したと言っても大きさは普通のカラスと変わりなかった。もし巨大化していたら、(攻撃が通用すればの話だが)始末するのは簡単だったと思われる。何しろ的が大きければ当たる確率は高くなるのだから。

 ただ、怪獣映画のようにこちらの攻撃が無効化された場合には、話が違ってくる。大きければ大きいほど物理的被害は拡大してしまう。


 もっとも今のところだが、隊員達の攻撃が無効化されるような状態にまで化け物の防御力が高くなかった。通常兵器に魔力を込めさえすれば十分通用する現状だ。

 それでカラスの大きさが問題となった。普通サイズのカラスが、化け物化したことで動きが尋常にあらざる早さになり、狡猾さにおいても人並みになっているのだ。


 小さな化け物カラスが、俊敏に動き回り、人間並みの知力を持って攻撃してくるのだ。


 その動きに対応しようと、隊長の里中少尉が盛んに指示を出している。

 この編成は五名で一チームを作っていた。

 人数が少ないように思えるが、これ以上増えれば同士討ちの危険が増すためだ。


 隊員の攻撃には魔法が使われるからだが、遠方攻撃なら尚更、同士討ちの危険が増す。前方に出て戦っていると、後ろから範囲魔法攻撃を撃たれでもしたら目も当てられない。


 この魔法というのは科学的な現象と同じで、炎魔法であれば、火が出る。しかし、その火は術者をも丸焼けにする場合もあれば、チーム員をも丸焼けにしてしまう事もある。


 だから、安易に魔法を発動してとか、確認ミスでのとか、一番多いのが範囲が思った以上に広がってとか、敵と思ったら味方だったとか、とにかく人的ミスでの誤発動を極力ゼロにしようと、隊長が攻撃指示を出すのが普通の戦法だった。


 発動した魔法攻撃は、途中で止めることが出来ないからだ。


 この指示を里中隊長が出していた。


「三好軍曹、一度、広めの範囲魔法を撃ってみよう」


「はい、令にやらせます。令、範囲魔法だ! 景気よくやれ。他の者は範囲が当たらないように纏まっていろ!」


「軍曹、そんなへまな魔法は撃ちませんよ」

 と、かなり慣れてきている令のようだった。


 その令は無表情でいながら、タイミングを見計らい飛行機のようなスピードで襲いかかってくるカラス目掛け、炎の、かなり長い鞭のようなものを出して、自身がグルグルとその場を何度も回り出した。


 その炎の鞭は螺旋を描きだし、そして何周も回ったために炎の円盤のようなものまで出現した。

 令は、その炎の円盤で空から襲ってくるカラスを牽制するのだった。


 もう一度隊長が指示を出す。

「よし良いぞ。次、狙い撃ちを、日下部と横田。バックアップは三好軍曹」


「了解! 日下部に横田、しっかり狙って撃つんだぞ」


 グルグル回っている令には、

『三好軍曹って、言うだけは立派なんだよな』

 と、愚痴を零したくなるほど、実際には暇していた。


 それで令はつい、

「この化け物カラスって、どうして化け物になったんでしょうね?」


 口数が多い三好軍曹は、

「そんなの決まっているだろ。カラスは化け物になりやすかったんだよ」


「しかし、なるカラスとならないカラスがいますよ?」


「面倒くさい奴だな。それはなりやすいカラスと、なりにくいカラスがいたんだよ」

 三好は持っている小銃に魔力を込めながら単発攻撃を仕掛け出す。


「何故です? それに僕らだって魔法が使えたり、使えない人間がいたりと、おかしくありませんか?」


 隊長の里中少尉が、

「興味深い話だな。もっとも、その話は後回しだ。今は、カラス退治が最優先だな」


「はい!」

 令は、グルグル回るのを止め、刀を抜きツバメ返しでもやるつもりで構えた。


「ほう! 居合いみたいだな」

 と、里中が感心している。


「いえ、斬撃波ですよ」

 と言って令は刃に斬撃を乗せ放つ。

 化け物カラスが一羽二羽三羽と真っ二つになって落下していく。


「それ良いな」


「何言ってるんですか。隊長には銃があるじゃないですか。子供の僕には銃は無理で持たせてもらえませんがね」


「致し方ないだろう。何しろ反動が子供では無理だからな」


「それに僕はひ弱ですから!」


 そこに唯一の女性隊員の日下部が話し出した。

「子供なのに一人前の仕事はするのよね」


 横田も気が楽になったらしく、

「そうそう、今度、ヒットポイントでも競い合いましょうか?」


「それ良いわね。隊長がご褒美を用意してくれたら、皆やる気が出るのでは」


 それに異を唱えるのが軍曹だ。

「俺は反対だぜ。任務は遊びじゃ無いんだぜ」


「まぁ、やる気になってくれるのは賛成だがな。それで勇み足になっては元も子もない」


 隊長の正論で事は収まったのだが、日下部が令の話を持ち出した。

「それはそうと、化け物化したカラスについて調べてみない?」


 隊長の里中も、

「そうだな、我らの任務はカラスの駆除だから、残党カラスの討伐と言うことで捜索しようか。二班に分かれるとしようか、俺と令、軍曹は残りだ」


 二手に分かれてすぐ軍曹チームから悲鳴が上がった。


「なんだ?」


 驚いた少尉を令は走って行くと、目にしたのは巨大化した化け物カラスだった。


 すぐさま乱射攻撃したのだが、羽毛によって弾かれてしまう。


「令、さっきの斬撃をやってみろ!」


 少尉の命令で斬撃波を撃つ令だが、その攻撃もはね飛ばされてしまった。


「少尉駄目です。それだったら延焼系魔法の方が良いのでは?」


「しかし、木々に火が燃え移ったら始末では済まないぞ!?」


 そこは軍曹が、

「俺たちが死ぬよりは御苑が丸焼けになった方が良いでしょ!」

 この本音は、『俺が死によりは』と言った感じなのだろう。


 それに同調した横田も、

「そうですよ。周りの草木まで燃えれば他のカラスだって死ぬでしょう」


 こうして全員での火炎魔法を放つことにした。


「一斉放射だ!」


 化け物カラスは火を見た瞬間に飛び立とうとしたのが見えたため、令は、頭上に岩石落とし魔法を発動し、上から押さえつけた。


 岩に頭を押さえつけられたカラスは、その岩に刃向かおうと必死にもがき羽をばたつかせている。


 その間にカラスの周囲は火の海となり徐々にだが羽毛が焦げだしていく。が、岩石を振り払うことに成功したカラスは、その場から飛び立とうと羽を広げる。


「令、カラスを飛ばせるな」


 今度は、里中少尉の命令で、

「円筒クリスタルウォール!」


 そこに出現したのは巨大なガラスコップのようなもので、カラスを囲っている。


「どうしてカラスは飛び立たないんだ?」


 こう少尉は不思議がった通り、カラスはガラスビンの中で羽をばたつかせるだけで、一向に浮揚してこない。


 それに気が付いた日下部は、

「周囲から空気が入り込まないから浮き上がれないんですよ。羽が上下しても空気が上下するだけってことです。しかし、そうなると燃えるものも燃えなくなるわね」


 と言った側で、軍曹が、

「おい、令、これじゃ焼き鳥にならないじゃ無いか!」

 と大威張りしている。


 それで令が、

「だったら、上から蓋をしてくれないか? そうすれば窒息しするよ」


 軍曹がまたしても、

「分かっているんなら令がやれば良いだろうに!」


「いえ、お手柄を軍曹殿に立ててもらおうと思って」


「おぉ? そうか。それならって、どうやったら蓋が出来るんだよ!?」


「フォールストーンでもクリスタルウォールでも、それとも燃焼魔法で酸素を消費させるのも手ですよね」


 そこで軍曹が選択した魔法は、燃焼だった。


「おい、お前らもやれ!」


 全員で燃焼魔法を発動すれば相当大がかりな火柱が立った。そこで令もウォールの高さを幾分上げると、中のカラスが酸欠で苦しみだした。


 それを見ているとやはり良い気はしてこない。それが化け物化したカラスといえども、もがき喘ぐその声を聞くのは耳には辛いことだ。


 しばらくすればそのカラスも地に伏せて動かなくなった。


「死んだかな? 軍曹、みてこい」


 少尉の命令に軍曹がどうしようかと迷っている所に、令が助言的に、

「軍曹、今中に入ったら酸欠で死にますよ。それより壁を取り除きますから、カラスの首を切り落としてください」


 なんとも酷いようなことを言いだした令だが、里中少尉は乗る気になって、

「では、全員で斬首しようか」


 そう言っている間にも令はクリスタルを消滅させていた。


 もっとも死んだカラスの防御力は普通のカラスに戻っていて、隊員達の攻撃で楽に首が切り落とされた。


「あれ? わりと楽でしたね!」

 こう日下部が嬉しそうに感想を述べた。


 が、このことで用心深くなった少尉は、

「では、ここで撤退することにする。みな良いな!」


 本部に戻っても令は謎に執着していた。

『どうも吉永彩佳の存在が、この化け物騒動に関わっている気がしてならないんだが』

 そんなぼやきをしていると、


「どうした? 婚約者のことでも考えていたのか?」

 と、日下部がからかいにやってきた。


 この時には寄宿舎で暮らし始めていた令だった。

 だから、仕事が早く終わっても寄宿舎に帰らず、この本部で時間を潰していた。何しろ寄宿舎に帰ると、煩わしい奴らが大勢いたからだ。


「令君、暇だったらトレーニングに付き合ってよ」

 こう言い出したのは日下部だ。


「またやるんですか?」


「防御力を高めたいからね」


「それなら革の鎧に手を加えた方が良いんじゃないですか? 魔力を前もって込めるとか。簡易盾を装備するとか?」


「そうしたいのはやまやまなんだけど費用がね。かなりかかるじゃないの。それとも令君がやってくれるとか?」


「やっても良いけど、その日一日無気力状態になっちゃうよ? それで良ければ」


「もう、今日の任務は無いんでしょ? だったら!」


「了解!」


 そんな話の後、令は日下部の装備一式には物理的と魔法的な防御を、武器には最大爆裂式魔法力を込めてやった。


 その反動からか令はぼーーっとした状態になってしまった。そして、本部の別室で寝転んでいると非常ベルが鳴り出した。これは今までに無いレベルの警戒警報だ。


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