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世にも奇妙な将棋の話  作者: 時雨丹波
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第四章

感想戦は短かった。

おそらくは殺到しているマスコミメディアたちへの早く藤江のコメントを取らせてあげたいという孤爪の配慮だったのだろう。

マスコミメディアの砂糖菓子に集る蟻の如き矢継ぎ早の質問に悄然としてぽつりぽつり答える藤江。

孤爪の7年連続しての降級の回避というのもなかなかの快記録なのだがマスコミの質問は藤江にのみ向けられていた。

ひとしきり質問の波状攻撃が落ち着いた頃、藤江の師匠の杉崎七段が昇級を逃した弟子を労うべく傍らに近寄った。

「残念やったな」

と杉崎がぼそりと言う。

藤江の口から出た師匠への言葉は意外なものだった。

「孤爪さんってどんな方なんですか?」

という昇級を逃したことへの忸怩を予想していた杉崎の想定外のものだった。

将棋の内容とかではないのかと杉崎は一瞬の沈黙のあと口を開いた。

「わいにもよう分からんのよ、、簡単に言うと横のつながりの無い人やなぁ、研究会とかにも一切参加せんようだし、また誘うやつもおらなそうや、孤爪の孤は孤独の孤や、、」

「そうなんですか、、」

「今日の将棋なぁ、終盤まではモロたな、来期はC級1組で当たるかもななんて考えとるうちに気が付いたらおかしくなってたやんか?お前にしてはかなり珍しいな、得意の終盤で」

「かなり良いかなと思ってたんです。プラス1000くらいは少なくともあるかなって、それがあの垂れ歩、あれでなんか急に分からなくなって後は、、」

「あれなぁ、OMEGAでも候補手に一度も出てなかったんやで」

「そうだったんですか、、確か孤爪さんがトイレに行って帰って来てからの手でしたよね、、トイレ長いなぁ思ってたんです。終盤で残りも一時間切ってたでしょ?」

「まさかなぁ、カンニングは昔の騒ぎがあってから端末やらは全部金庫に預ける規則できとるからなぁ、通信機器やその類も同じ扱いやしな」

「カンニングなんて!疑ったりしてませんよ、でもあの手からまるで催眠術にでもかかったみたいに手が見えなくなっちゃって、それで何となく顔を上げて見た孤爪さんの目が、、」

「目が?どうかしとったんか」

「それまでとは違ってたんですよ。うまく言えないんですけど草食動物みたいな優しい目だったのがまるで変わっちゃって、ん~ん、、そうだ!狐ですよ、キツネ!前にテレビで見たドキュメンタリー番組で見た狐の目にそっくりな」

「そう言えばあいつの昼飯はいつもけつねうどんやんなぁ、、ってお前何が言いたいんや?」

「、、、狐とかが憑依したってこと無いですよね?」

「漫画かよ」

と杉崎は笑ったあと真顔になり

「まあ、覆水盆に返らずやからなあ、時間を逆行出来んのは物理学でも証明されとるようだし、負けたんはしゃあない来期は全部勝て、順位的にも全勝なら99%上がりや」

「はい!今夜からまたトレーニング再開です」

「ほなわいは先に帰るけんの、気いつけて帰りな」

藤江が答えようと口を開きかけたその時だった。

どたどたと慌てた足音とともに連盟の職員の一人が現れて言った。

「孤爪さんはまだ帰られていないですか?!」

杉崎は視線を10メートルほど離れたところで帰り支度をしている孤爪に向けて示した。

職員は一体何があったのかという慌てぶりで孤爪の側へ向かって行った。

「孤爪さん!」

大きな勝負だった対局後の放心状態だったのだろうか、孤爪はぼんやりと息せき切っている職員に目をやり無言で次の言葉を待った。

「今、警察から電話があって、、息子さんが、、、」

孤爪の表情は一変した。遠目に見ていても血の気が一瞬で引いたのが分かるほどだった。

「息子が、!何が、ありました?!」

「車にはねられて重体でK病院に救急搬送されたって、直ぐに親御さんは病院に来て欲しいと、、!」

その言葉に雷にでも撃たれたように硬直したのも一瞬に孤爪は答えた。

「分かった!、車呼んでください!N区のK病院だね?!」

「車は呼んでおきました!直ぐに来ると思います!」

「ありがとう!助かるよ!」

強張った表情そのままに孤爪は対局室のある四階からの階段を転げ落ちるように駆け降りて去って行った。

残された中のひとり杉崎が違和感を覚えたのは

「何が」という孤爪の言葉だった

「どうして「何が」なんだ?まるで何か起きることを予期していたみたいじゃないか?動転して助詞を間違えたのか?」

心に引っかかるものを残しつつ杉崎は家路につくことになった。

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