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世にも奇妙な将棋の話  作者: 時雨丹波
3/5

第二章

藤江聡太五段(彼は既にデビュー以来の累積勝数で規定により五段に昇段していた)のこの年度の順位戦C級2組最終10ラウンドの相手は、

その名を知るものはコアな将棋マニアしかいないような冴えない中年のおっさん棋士だった。

名を孤爪竜生という。

歳は40代後半だろう。どこにでもいそうなサラリーマン風の白髪が目立ち始めた年頃といった風情の存在感は限り無くゼロに近いような棋士。それが孤爪だった。

在会を許される年齢制限ギリギリで奨励会の三段リーグをなんとか抜けてプロ四段に上がり二十年余り、彼はC級2組に苔のように定着していた。

棋戦優勝などはあるはずは無く、タイトル戦の挑戦者決定の為の決勝リーグやトーナメントに彼の名が連なることは唯の一度も無かった。

その存在感の薄いはずの彼について注目を集めたことが一つあった。それは良いことではなかった。

「あいつ、カンニングでもしてるんじゃねえか?」ということだった。

C級2組は、年度成績の下位四人に『降級点』が付きそれが三つ重なると順位戦からは締め出されるシステムだ。

棋士たちの隠語で『黒玉』と呼ばれる降級点は忌わしき玉である。黒玉は規定の年度成績をクリアすることで消すこともできるが、なかなかそのハードルは高い。しかも、最初に付いた黒玉は基本的に消せないルールになっている。消えるときは昇級するときないし降級するときである。

サッカーで言うところのイエローカード2枚でレッドカード扱いになり退場になるようなものだと思ってもらうと分かり易いだろう。

「あなたは弱い。だからフリークラスで食いつないで下さい。足りなければ指導のアルバイトするなりして下さいね」という将棋連盟の肩叩きだ。

しかし、孤爪はそうはならなかった。幾度も『黒玉』付きで新年度に臨み最終ラウンドで負けると三つ目の黒玉を食らい締め出しになるという一番になると不思議と勝った。彼の年間勝率は精々三割なのに。

一年おき二年おきくらいだった崖っ淵の最終ラウンドも歳を重ねるうちにいつしかそれが毎年のこととなり、遂には六年連続の崖っ淵という不名誉記録、その悉くを彼は凌いで生き延びた。

しかし、今年こそは駄目だろうと皆が思ったのは無理も無い。

相手は14歳1ヶ月という史上最年少でプロデビューしてから勝ちまくりいきなり30年以上破られていなかった公式戦の連勝記録29まであっさり塗り替えていたし、勝率は驚異の88%を超えていた。

当然、順位戦C級2組では全勝で突っ走り最終ラウンドを迎え勝てば自力でのC級1組への昇級が決まる。

その藤江の最終ラウンドの相手が孤爪だった。

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