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第4話 絶望の中での出会い

「はあ、はあ、はあ......」


 私の背後に迫り来る感染者の群れ。作戦が失敗し、仲間が散り散りになる中で取り残された私は一人、一件の商店の中に隠れることにした。不法侵入で悪いと感じてたが、背に腹は代えられない。

 外に響き渡る悲鳴を耳にしながらも私は声を押し殺して感染者共が過ぎ去るのを待った。

 商店に潜んで三日目。店内にあった僅かな水と食料が尽き、感染者のうめき声が聞こえなくなったのを見計らって私は外に出ることを決意する。

 しかし、すぐにそれは間違いであったことに気づく。


「あああああ」

「おおおおお」


 ぎこちない動きながらも私を追いかける感染者の足は予想以上に早い。それでも陸上部出身の私にとって相手にならないスピードだが、武器を持っている手前体力は徐々に落ちてきている。


「畜生!!」


 感染者はなぜ疲れないんだ!!痛覚や疲労を麻痺した生物なんて存在するのだろうか!?

 こんなおかしなこと学の無い私だって気付く。


「うああああああ!!」


 逃げきれないことを悟り、私は振り返ると同時に小銃を構えて狙いを定める。

 防衛作戦で分かったことだが、奴らに普通の人間のような痛覚は存在しない。感染によって生体構造に変化があったのかは分からないけど、某名作映画のゾンビと同じく感染者は頭部を破壊するしか息の根を止める手段がない。それ以外は正直言って無駄な攻撃だ。

 私は確実に仕留めるため切替レバーを3にする。俗に言うスリー・ショット・バーストの名の通り、引き金を引くと同時に放たれた3発の銃弾は狙い通りに感染者の頭部に命中して頭蓋骨を打ち砕く。弾倉が空になった時には、私を追っていた感染者共は全て地面の上に倒れていた。


「はあ、はあ、はあ......」


 助かったことに安堵し、私は民家の壁に背中を預けてしゃがみ込む。銃を持っていなかったら間違いなく死んでいた。 


「くそ、くそお!!」


 首都防衛作戦の中、逃げ惑う人々を救おうと私達は必死で戦った。しかし、救助した人々の中に奴らに噛まれていた人がいて、後方の医療所から急速に感染が拡大してしまい、前後から挟まれる形になった私達は孤立した挙句一人、また一人と奴らの餌食になってしまった。


「あはははは」


 もうどうでも良くなってきた。追ってきた感染者の中には私と同じ自衛官の姿もあった。一生懸命戦ったのにこの結果なんて神様はなんて不公平なんだろう。

 そんな私を嘲笑うかのようにあちらこちらの物陰から感染者共が姿を現す。どうやら銃声を聞きつけてまだ獲物がいると感じたのだろう。こちらの武器は弾切れで残っているのは9ミリ拳銃しかない。


「つまんない人生だったな~」


 最後を覚悟した私はポケットを探って煙草を取り出す。

 平和な時はお洒落をして仲のいい友達と一緒にカラオケに行ってたっけな。失恋した時なんか男なんてくそくらえって叫んで夜通し飲み明かしてたっけ。

 みんな無事でいるのかなあ。

 

「ギャアアアア」

「最後の一服くらい吸わしてよ......」


 煙草をくわえ、ライターを取り出して火をつけようとしたけど、私の気持ちとは裏腹に感染者共はお構いなしに襲って来る。

 九ミリ拳銃で3体程倒したところで私は弾の無くなった拳銃を放り投げ、一個だけ残していた手榴弾を取り出す。


「もう...いいや......」


 噛まれて奴等の仲間になるのは真っ平御免だ。最後の一服を諦めた私は手榴弾での自決を決意する。もうこんな地獄とはおさらばだ。


「死ぬってどんな感じかな...... 」


 生きることを諦め、手榴弾のピンを抜こうとした瞬間、複数の銃声と共に目の前にいた感染者共が倒されていく。


「大丈夫か!?」


 失意にくれていた私を俗に言うネイビー迷彩を着た男性が声をかけてくる。


「あ、あ......」

「死にたくなければ立て!!まだ、お前は生きてるんだ!!」


 そう言いながら彼は事態が飲み込めていない私の顔をはたく。


「く!?」

「痛みが感じるうちはまだ狂ってない証拠だ!!」


 彼はそう言いながら目の前に迫る感染者の頭を撃ち抜く。


「この近くに仲間のトラックがある、走れるか?」

「う、うん、大丈夫!!」


 彼の言葉を受けて意識を取り戻した私は小銃を杖代わりにして立ち上がる。


「弾は残ってるか?」

「ない」

「じゃあこいつを使え」


 彼はそう答えると同時に、ホルスターから九ミリ拳銃を取り出して渡してくれた。

 服装と階級からすると恐らく3等海曹であろう彼を追いかけ、私は最後の気力をふりしきって走る。さっきと違って生きる希望を見つけたからか足取りも軽い。

 しかし、辺り構わず銃声を撒き散らしたからか感染者が集まり、気がつけば私達の背後から集団で追いかけてきた。


「くそ、やっぱり集まってきたか」

「伏せて!!」


 私は咄嗟に握りしめていた手榴弾のピンを抜いて感染者に向けて投げつける。爆発事態は大した威力もなく感染者を仕留めることは難しいけど、ダメージを受けて倒れた感染者の存在によって一時的にしろ動きを止めるのには役立っていた。


「早く行きましょう!!」

「あ、ああ......」


 私達はしばらく一本道を走り続けると目の前に大型タンクローリーが道を塞ぐように横向きに停車し、背後から後続車が追突して放置されている光景を目にする。


「凄まじいな」

「タンクから漏れていないのが奇跡ね」


 事故の影響からか、生前のまま運転手は息絶えておりピクリとも動かない。私達は慎重に車両の隙間を通り抜けてその先へと向かう。しかし、前へと進もうとした矢先、民家から出てきた感染者が正面から迫り、背後を振り替えると道を塞いでいた放置車輌の隙間から這い出そうとする複数の感染者の姿もあった。

 そう、派手にやっていたせいか、私達は奴らの注目を浴び周囲を囲まれようとしていた。


「まずいな......」

「後ろは私に任せて正面に集中して!!」

「あ、ああ!!


 私は咄嗟に彼を正面に向かせて目の前の感染者に対処させ、背後にまわって放置車両に銃口を向ける。狙うならあそこしかない、私は残りの九ミリ弾を全てタンクローリーに狙って撃ち込む。タンクにはガソリンがそこそこ残っていたようで、私の開けた穴からどくどくと漏れていき道路に溜まっていく。


「何をやってるんだ!?」

「良いから集中して!!」


 放置車輌の隙間から強引に抜け出そうとする感染者を無視し、私はポケットから愛用のジッポを取り出し火を灯す。


「地獄に落ちな!!」


 ジッポを漏れたガソリンに向けて投げつけるとそれは勢いよく着火すると同時に、爆発音とともに放置車輌全体に一気に燃え広がっていく。


「「「ギャアアアア!?」」」


 感染者の悲鳴か雄叫びかの区別がつかないような声が響くとともに、背後から追ってきた感染者は総じて火だるまになり、息苦しさを感じてかその場で倒れこんでしまった。これで当面は大丈夫だろう。


「やっぱり汚物は消毒に限るわ」

「まじかよ...」


 私がしたことに対し、彼は驚きつつも目の前にいた最後の感染者の頭を撃ち抜く。


「あんた、大した奴だな」

「あなたこそ、良い腕をしてるわ」


 私はそう答えつつ、彼から新たな弾倉を受け取り拳銃に装填する。


「この隙に一気に行くぞ」

「うん」


 お互いの健闘を称え合うも、不意に私達の耳に何処からか聞き慣れた銃声が響く。


「しまった、入江達も見つかったか!?」

「どうする?」

「このまま行くぞ、あいつらだけじゃ逃げ切れないしな」

「なら急ぎましょう!!」


 私はそう答えると同時に、彼の背後から噛みつこうとした感染者を撃ち殺す。


「今でおあいこよ」

「あ、ああ、やるもんだな......」

「後ろは私に任せて!!」


 私達は再び背中を預け合い、トラックのある場所へと向かおうとしたが、県道に差し掛かったあたりで猛スピードで走り抜けるトラックを目にしてしまう。


「早く乗って下さい!!」


 そのトラックの荷台には彼と同じネイビー迷彩を来た若い隊員の姿があり、私達に声をかける。しかし、その遥か後方にはそれを追いかける無数の感染者の姿があった。


「「「ギャアアア!!」」」

「くそ、まじかよ!?」

「うおおおお!!」


 停車する余裕も無いため、私達は全速力でトラックを追いかけた。その間にも荷台にいる彼の仲間が64式小銃で私達の背後から追ってきた感染者に銃弾をお見舞いする。

 何度となく背後から迫り来る感染者に捕まりかけたけど、私達は最後の力を振り絞ってトラックにしがみつき、荷台へと転がることに成功した。


「はあ、はあ、はあ......」

「はあ、はあ、はあ......大丈夫か?」

「......うん、なんとか」

「飛ばせえ!!」


 私達を乗せたのを確認したトラックは一気にスピードを上げて感染者を引き離していく。


「まさか陸さんに生き残りがいたなんてな」

「あなたは......」

「海自横須賀警備隊の生き残りだ」


 彼はそう言いながら水の入ったペットボトルを渡してくれた。

 さっきまで走っていた手前、喉が渇いていた私はそれを一気に飲み干して大きなため息をつく。

 ああ、また生き残ってしまったな。


「俺の名前は村田良平、3等海曹でこの部隊の指揮をとっている」

「有坂美鈴、貴方と同じ3等陸曹でここを防衛していた陸自の生き残りよ」

「あんたの他に陸自は生き残ってそうか?」

「さあ、私もさっきまで一人で隠れてただけだし」

「そうか、俺達と一緒だな」


 彼はそう言いながら、胸ポケットから煙草を取り出して火を付ける。


「吸うか?」

「うん、火だけ貸して」


 そう答えながら、私はさっき吸いそびれた煙草を口にくわえ、良平から借りたジッポで火を灯す。久々に生きている仲間に会えた安心感からか、私は生きていることの喜びを噛み締めつつ大きく煙を吐く。


「助けてくれてありがとう、お陰で一服できたわ」

「ははは、お互いこうして出会えたのも何かの縁だ、あんたは頼りになりそうだしな」


 そう言いながら彼が差し出した手を私は強く握りしめる。

 3日ぶりに生きている人とお互いの手を握り締めたことにより、ようやく私は生きていることを実感できた。どうやら神様は私をむざむざと死なせる気は無いみたいだ。

 いいだろう、ここまで来たからには何としても生き残って人類の最後を見届けてやろう。

 感染者に支配された町を横目にしつつ、私は新たな決意を胸に秘めた。

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