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第10話 暴徒鎮圧

「メリークリスマス!!」


 アーケードの中央には倉庫から引っ張り出した大きなクリスマスツリーが飾られ、それは子供達の手によって色とりどりに飾られていた。


「みんなー、サンタさんだよー」

「ほお、ほ、ほ、ほー、みんなよいこにしてたかなあ?今日はトナカイさんもやってきたよー」

「わーい!!」

「サンタさんだー!!」


 その下ではサンタクロースの衣装を着た安浦さんの姿があり、雪だるまの着ぐるみを着た青年と一緒にプレゼントを子供達に配っている光景があった。

 その隣ではトナカイの被り物をし、子供達の乗るソリを引っ張る良平達の姿があり、台車を改造したためかそれはゴロゴロと変な音を立てていたが、子供達は大ハシャギであった。


「ママ~」

「ん、どうしたの?」

「何でパパと一緒にいないの?」

「え、え~とね......」


 エントランスで久しぶりの和やかな光景を見ていたものの、小百合の言葉に私は返答に困ってしまう。

 家族を目の前で失った心の傷からか、この子は私を母親と誤認しているばかりか良平を父親と認識していた。

 彼とは道すがらの成り行きで出会い、助け合って生き延びこの子と出会い、今はこうしてお互い恋人として付き合うようになったものの、まだ世界は感染者によって支配されており、予断は許されない現状だ。武器も限りがあり、戦える人材が10人もいないこのコミュニティを維持する上でも、私はまだ自衛官として国民を守る任務を放棄するわけにはいかない。


「パパとママはみんなを守るお仕事があるからね。安心してお外に出れるようになったら一緒に過ごせるようになるわ」

「......うん、分かった」


 良平と親子三人での家族団欒を夢見ていた小百合がガッカリする姿を見つつ、私は良平と結ばれることになったここに来たばかりのことを思い出してしまう。


「ここから下に降りると食品売場になります」

「ふむ、見張りはいないようですね」

「用件がある場合はここのベルを鳴らすように指示されてます」


 モールに到着した私達は、安浦さんをはじめとした避難民を救うべく、亡くなった仲間の死を弔わずに暴徒鎮圧に向かうことにしていた。安浦さんに案内され、暴徒が占拠する食品売場に続くエスカレーターに着くと、そこには小さな机と金属製のベルが置かれていた。


「このベルを鳴らすと連絡役の青年が現れ要件を聞いてきます。こちらが言う条件を青年が持ち帰り、協議した上で必要な物と交換する手筈になってます」

「必要な物?」

「私達は食料、彼らは若い女性を求めてきました」


 その言葉が出た瞬間、温厚な安浦さんの目から怒りが感じ取れた。元自衛官の手前、その正義感から容認できなかったんだろう。


「当初、彼らは一階のエントランスで私達を集めて銃で脅してきましたが、竹井さんと山中さんが対抗したことで敵わぬとみたのか人質をとって立て籠ることになりました」

「全ては私が力不足なのが原因です、人質となった彼女のためにもご協力願います」

「それはそうと、竹井さんの拳銃一つでよく対抗できましたね?」


 良平の言う通り、見たところここにいた避難民は安浦さんを除き、皆ただの一般人だ。警察官とはいえ、若い彼女が一人で暴徒に立ち向かったのは大したものだ。


「貴方は悪くありません。あの時、竹井さんは私達のために銃を向けてきた彼らに発砲してくれました。貴方の勇気に私達は人としての良心を守るべきだと勇気づけられたんですよ」

「安浦さんこそ、私が来るまで皆さんを守るため一人立ち向かってくれました」

「僕達が来たとき、安浦さんは一人で連中を怒鳴ってましたよ。「今は皆が助け合うときだ!!愚か者が!!」と言って。銃口を前にしたあなたの命がけの言葉には、孤立して憔悴していた僕達に公僕としての使命を思い出させてくれました」


 連中の手口は分かった。だけど、ただ一人の警察官である竹井さんの拳銃一つで対抗したのには驚くしかない。彼女だけでなく安浦さんや山中さんがいたからこそ辛うじて連中に対抗できたに違いない。なんとしてもこの人達を助けないと。

 良平もまた三人の気持ちに同調したのか、入江君に命じて武器を運ばせる。


「安浦さんにはこれを、定年退職されましたが、今は貴方のような実戦経験のある方に使っていただきたいです」

「懐かしいですね」


 安浦さんは手渡された64式小銃を手に持ち、感触を確かめる。


「連中は私達が対処します、皆さんはもしもの時のために残って下さい」

「いえ、ここは私も......」

「駄目です、連中には猟銃があります。あれは熊をはじめとした野生の動物を確実に仕留めることを目的としており、その威力は私達の小銃よりも高く、かするだけでも致命傷になります。ここは専門家である私達に任せて下さい」

「でも......」

「竹井さん、貴方は避難された方々の支えです、命がけで来た彼らを信じましょう」


 警察官故の職責からか竹井さんが志願するも、良平はそう答えて説得する。竹井さんはなおも食い下がろうとしたけど、安浦さんが間に入って説得してくれた。


「では行ってきます、こちらから合図があるまで降りないで下さい」


 良平は私と入江君と矢尻君を連れて気づかれないよう、静かに降りて行く。


「入江と矢尻はエスカレーター付近から背後を警戒しろ」

「了解」

「俺達がやられても躊躇するなよ」


 二人を背後の警戒に当てがい、私と良平は暴徒の元へ向かう。

 まだ発電所の送電体制が維持されていたため、地下の食品売り場は明るく照らされていたものの入口はショッピングカートによってバリケードが築かれていた。

 既にここにたどり着くために部下を二人失ったばかりだが、良平は怖じ気づくことなくバリケードの前で暴徒達に向かって声を上げる。


「皆さん、我々は自衛隊です!!付近の感染者は私達によって掃討されました、もう出てきて大丈夫ですよ!!」


 その言葉を受け、ざわざわと話し声が聞こえた後、物陰から一人の青年が姿を現す。まだ10代だろうか、幼さの見える顔に不釣り合いな派手なスカジャンを身につけ、首にはネックレスをかけて髪は金色に染めていた。恐らく彼が安浦さんの言っていたメッセンジャーなんだろう。


「ほ、本当なのか?」

「本当です、もうここに立てこもる必要なんてないですよ」


 若い彼の目は明らかに怯えていた。武器を持っていないことから恐らく暴徒の中で下っ端なのであろう。目を凝らしてみるとあちこちの物陰からこちらを覗く複数の影があった。


「お、俺達のことを、つ、捕まえる気か?」

「何のことです?私はただあなた方を救出するよう上から仰せつかっておりますが」

「そ、そうなんですか?」


 良平の説明を受けつつ、彼はチラチラと物陰に視線を移す。恐らく缶詰コーナーの後ろにいる奴が親玉だろう。 


「わ、分かった、ちょっと待ってて下さい」


 口調が敬語になり、怯えつつも私達の姿を見た青年は売り場の奥に引き下がり、何やら仲間達と話し始める。 


「動揺してるわね」

「ああ、後ろめたいことがある手前、いざ救助が来てみると自分達のやったことが明るみになるのを恐れてるな」


 良平と私の後ろでは入江くんと矢尻くんが私達の合図を待って控えている。感染していない人を相手にするのは初めてだけど人質のことを考えるなら背に腹は代えられない。

 話し合いが終わったのか、先程話をした青年が怯えつつもゆっくりと姿を現し、私達に近付いていく。


「あ、あ、あの......」

「どうしましたか?」

「に、逃げてください!!」


 彼がその言葉を発した瞬間、奥の棚の影から別の男が猟銃を向けてきた。

 ち、やっぱ降参する気はないか。


「しゃがめ!!」

「はいいい!?」


 良平はすぐさま彼の身体を押さえつけ、身を屈めると近くの棚に銃弾が当たり派手に撒き散らす。


「いてえ!?」

「くそ、散弾銃か!!」


 良平はすぐさま反撃すると男は棚の奥へ隠れる。

 幸いにも私達に怪我は無かったけど、危険を知らせた青年は散弾の破片を足に受け、血を流していた。


「あああ!?」

「何人だ、答えろ!!」

「よ、四人です!!」

「よし、そのままでいろ」

「た、頼みます......」


 青年はそう言い残し、意識を失った。良平は彼の身体を引きずりアイスのショーケース裏に身を潜める。


「やれやれ、これだから男って奴は」


 私はすぐさま小銃を構え、暴徒の姿を探す。さっきの感じからして暴徒は散弾銃を持ってるなら厄介ね。此方の小銃の一般的な有効射程は400メートル、向こうは30メートルくらいだけど、棚が密集してる食品売り場は視界も制限されていて、ましてや散弾なら連発ができないことを除けば命中率は高くこちらが不利だ。散弾銃は塹壕戦で絶大な威力を発揮すると教えられたけど、まさか撃たれる方になるとは。


「村田3曹!?」

「お前達は出るな!!」


 良平はそう言いながらも物陰から拳銃を向けてきた暴徒の頭を正面から撃ち抜く。


「後ろ!!」


 彼の言葉を受け、私はナイフを手に背後から掴みかかってきた暴徒の足を払うと共に銃床で殴りつける。

 あと二人......


「く!?」


 あっさりと仲間がやられたためか、男が私達に向かって無作為に発砲する。私達はアイスのショーケースを盾にし、身を屈めて向き合う。


「無駄弾を使いやがる」

「武器があるからってすぐに強がるのよねえ」

「どうする?」

「引き付けて」


 私はそう言いながら、気付かれぬよう身を屈めたまま、ほふく前進の要領で移動する。その間、良平は隠れたまま男達に声をあげる。


「どうする、まだやるつもりかこの変態野郎!!」

「ウルセー!!自衛隊がなんだってんだ!!」

「あー?どうせ弾が無けりゃ、しょんべんちびるカマ野郎だろ!!ママが泣いてるぞ!!」

「なんだとー!!この税金泥棒が!!だいたい、てめえらが弱ええからこんな目になったんだ!!」

「はあ?てめえなんぞ、入隊したばかりの二等兵よりもみそっかすだ!!俺がてめえのヘドロな脳ミソとタマを教育しなおしてやろうか?歯磨きまで丁寧に教えてやるよ、このネクラ野郎!!金持ち爺にカマでも掘られてろ!!」

「てめえ、もう許さねえ!!死にさらせえ!!」


 よくもまあ、こんな悪口を思いつくもんだ。良平の言葉に逆上したのか、男は同じ場所に向けて散弾を撃ち続ける。完全に私のことを忘れてるなあ。

 私はバレずに上手く隣の商品棚に移動し、床に顔をつけて隙間から覗くと僅かだが、相手の足が確認できた。


「大人しくしてなさい」


 狙いを定め、引き金を引くと放たれた銃弾は狙い通り、男の足に命中する。


「あああああ!?」


 突然の痛みに奴は散弾銃を手放してジタバタして助けを求める。


「くそお!!」


 隣にいたであろうもう一人の男は仲間がやられたのを前にし、慌てて食品売り場の奥へと走っていく。


「待ちなさい!!」

「ま、待て、一人で行くな!!」


 良平の制止する声を無視し、私は男のあとを追いかけることにした。

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