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第1話 死者に囲まれたこの地にて

 某地方都市にある大型ショッピングモール。普段なら多くの買い物客で賑わうこの店の周囲には通常では見られないほどの黒山の人だかりが出来ていた。


 開店十周年記念の赤字覚悟の出血大型バザール? ......いや違う、人だかりの中にはバザーに興味の無さそうな男どもも大勢いる。 


 某国民的アイドルの大型コンサート? ......お爺ちゃんお婆ちゃんまでもがわざわざ見に来ると思うか?


 食品偽装による抗議活動? ......いや、あいつらは正直言ってそんなにグルメではない。


 開店時間になっても閉まってるから待ちぼうけしてるの? ......そうそうそれだよ!! あいつらはいつまでたってもお店が開かないからそうとうイラついてるんだよ!! イライラしてるからこそ「あ~」とか「う~」って言ってるんだよ。


「子供相手に何言ってんの!!」


 俺が子供達となぞなぞをしているのをよそに女は目標に狙いを定めると甲高い銃声を響かせる。


「あいつでしょ?」


 女の指差す先を双眼鏡で覗いてみると頭部を5.56ミリ小銃弾で撃ち抜かれて地面に倒れこむ感染者の姿があった。


「あ~確かにあいつだ、よく分かったな?」

「ヤモリと同じグラサンしてるからすぐに分かったわ」

「これで「笑っていいかも」は放送終了だな」

「いいかも~」


 俺のジョークに対し、女は89式小銃を片手に笑い声を上げる。 

 歩く死者に囲まれた狂った世界に取り残された俺達がまともな精神状態でいるためにはこういったジョークが欠かせない。俺達の立てこもるこのショッピングモールの周囲には本能からか何千という感染者共が集まっており、奴らの腐敗臭は屋上にまで立ち込めてきやがる。

 ダクトを通じて建物内にも入ってきやがるもんだからファブをはじめとした消臭剤が欠かせない有様だぜ。


「次はあんたよ、この中に岡田紳助みたいな奴がいるわ」

「おし、どこにいるかな~」


 俺は64式小銃を立てかけ、双眼鏡で目当ての芸能人を探し始める。

 屋上の見張りと訓練を兼ねて俺達は3時のおやつのチョコレートを賭け、建物を囲む感染者集団の中に混じっている芸能人に似た奴を10分以内に探して撃ち殺すというゲームをしていた。今のところお互いの対戦成績は3勝3敗のイーブンであった。

 さっき先攻の彼女が撃ち殺すのに成功したから俺がここで外すと彼女の勝利となってしまう。


 俺の名前は村田良平、海上自衛隊の3等海曹だ。海の人が何でこんなところで孤立してるかって?

 話がちょっとややこしくなるが、元々俺は海上自衛隊の基地警備を担当する警備隊に所属していた。

 仕事は単純明快、毎朝歩哨に立って目の前を通り過ぎるお偉いさんに敬礼して所属部隊に出勤を報告する。 

 身分証を持たないやつを通せんぼしたり変な一般人の侵入を防ぐお仕事だ。


「5分経過~」


 腕時計を見ながら俺のチョコレートが自分の腹に収まるのを待ち遠しく感じているこの女。

 名前は有坂美鈴、可愛い名前をして童顔で巨乳という体格でありながらも体力徽章1級を持つ陸上自衛官である。

 感染者制圧作戦が失敗し、部隊が壊滅した影響で一人彷徨っていたところを崩壊した基地から脱出した俺が拾ったのが縁で一緒に行動している。


「まあだかな~♪ まあだかな~♪」


 美鈴の言葉を無視し、俺は一体の感染者に狙いを定める。

 今や俺の愛銃となったこの64式小銃。美鈴の89式と比べて色々と目劣りするが、口径が大きい分、与えるダメージも大きい。

 部品が取れやすいもんだからあちこちをビニールテープでぐるぐる巻きにしているためボロっちくも感じるが、こいつに何度も命を救われた俺にとってはそんなことどうでもいい。

 甲高い銃声音と共に俺が狙った獲物は頭部を破壊されて地面に倒れてしまう。


「どうだ?」

「ん~惜しい!!」


 美鈴はそう言いながら別の方向を指差す。


「あいつだよ」

「どれどれ.....ち、確かにそうだな」

「「仰天できる法律相談事務所」は存続が決定したね」

「ていうかあいつは既に引退してるだろうが!!」


 俺達の会話が面白かったのか子供達の間から笑い声が響いてしまう。


「じゃあ早くオヤツのチョコレートをよこせ~」

「ち、ほらよ」


 俺は床に置いていたバックの中から板チョコを取り出して美鈴に放り投げる。


「毎度有り~♡」


 美鈴は満面の笑みでキャッチすると袋を開けて中身を細かくちぎって子供達に配る。

 欠片を受け取った子供達は美鈴にお礼の言葉を述べてその甘さに頬をほころばせる。

 子供達の笑顔を見ながら美鈴はニコニコと小さくなった欠片を口の中にほおばる。

 ここにいる子供達の多くが家族が亡くなるか行方不明になっており、寂しさを紛らわせるために俺と美鈴は暇があれば一緒に遊んであげるなどしてメンタルケアに務めるようにしている。

 それ以来、美鈴はこの子達の母親代わりを務めていた。


「やれやれ、明日はクリスマスだってのに全くときめかねえな」

「みんな、そろそろ日が暮れるから早く中に入りなさい」

「「「はーい」」」


 美鈴の言葉に従い、子供達は笑顔を見せながら屋上から去っていく。ここに立てこもって早、3ヶ月。当初はいつバリケードが破れるか恐れていたが、補強が完了した現在ではその心配はなくなり、感染者共のうめき声や腐敗臭さえ我慢すれば日がな一日を送れるようになった。

 電力に関しては太陽光発電による充電とモール内に出店していたホームセンターの発電器材や充電式乾電池のおかげで贅沢言わなければ不自由するものではない。

 ここには今のところ警察や消防関係者を含め、50人ほどの一般市民が避難しているが東京ドームが1個丸々入る広い店舗のおかげで悠々自適な生活が送れている。


「雪まで降ってきやがった」


 チラホラと雪が降り始め、寒さが一段と厳しくなっていく。燃料になりそうなものは極力節約する方針のため、地下水を組み上げるポンプの電源や冷蔵庫、一部の空調を除いて俺達にはストーブすら割り当てられていない。

 ホッカイロぐらい欲しい気がするが、こいつは電力と燃料が無くなった時の最後の手段だ。

 孤立している手前、焚き火で使う薪ですら入手困難な有様だしな。


「冷えるわあ......」


 美鈴もまた、寒さを口にして身を震わせる。夏が異常に暑かった反面、今年の冬は寒さに堪える。


「んじゃあこうするか」


 俺は持ってきた毛布を大きく広げると同時に、美鈴の背後から抱きついて上から羽織る。


「暖かい......」

「だろ? 映画でもこんなシーンがあったしな」

「ロマンチックね」


 視線の下には感染者共がうじゃうじゃといる前で、俺達はお互いの身体を暖めあう。暖房用の燃料を節約するにはこうして抱き合うのが一番良いな。


「もうこの国には生きている人はいるのかな」

「さあな、政府も北海道すら放棄したみたいだし、無事に離島に機能を移動してれば良いんだが」

「いつまでここにいなくちゃいけないの?」

「来年には脱出計画を考えないとな」


 二人きりだと自然に弱音も吐いてくる。助けが来る見込みもなく、無数の感染者に囲まれている中で精神を保つのはかなり難しい。うちみたくコミュニティーが未だ正常に機能してるのだって奇跡的なことに違いない。


「あの子達のためにも私達がしっかりしないと」

「そうだな、俺達にとって最後の希望だからな」


 美鈴の温もりを感じつつ、俺はここ3カ月あまりの出来事を思い起こしてしまう。

有名人当てのくだりは好きな映画から引用しました。個人的にはショーンやロンドンみたいなコメディ系の方が好きです。過去に龍4のにハマってたりもしました。

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