二人人狼
「貴方は人狼ですか?」
「いいえ、違います。」
彼女は顎に手を当てて、何やら考え込むポーズを取っている。
沈黙が続いた。
僕はため息をつく。
「...やっぱりさぁ...ゆうな」
「...これはおかしなことが起こっているよ。たーくん」
「うん。そうなんだ。これはおかしいと思うよ。ゆうな」
「だって、私が人狼じゃなくて、たーくんも人狼じゃないってことは、、」
"ゆうな"は真っすぐと僕を見つめた。
「...ここに狼はいないってことになるよ」
「いや、そうはならないよ。ゆうな」
僕は話す元気がどんどん無くなっていく。
「僕が人狼じゃないんだから、ゆうなが人狼しかありえないよ。。というか」
「...二人で人狼ゲームは無理があるよ」
"人狼ゲーム"とは、パーティーゲームの一種である。
プレイヤーには"村人", "占い師", "狩人", "人狼"といった役職が当て振られ、
村人陣営(村人,占い師,狩人 等)は、この"人狼"となった人間を推理して、見つけ出すことを目的とする。
逆に"人狼"は自分が人狼であることがバレないように振舞い、自分以外の人間を排除していくことを目的とする。
まあ詳細は省くが、大事な点だけは説明しておきたい。
このゲームは"4人"以上でしかプレーすることが出来ないのだ。
なぜなら、少人数では推理するまでもなく、誰が狼であるかすぐに分かってしまう。
これでは"ゲーム"として成り立たない。
しかし、今回僕は"ゆうな"の強引な誘いを断ることができず、
たった"2人"で人狼をやる羽目になってしまった。
僕の発言を一切聞く気がないようで、"ゆうな"は尚も何か推理をしているようだが、
推理するようなことは一切ここには存在しなかった。
僕はどうやったらこの不毛な時間を終わらせることが出来るのかを考えた。
"ゆうな"が設定した議論の時間は"30分"だった。
僕は勿論、長すぎることを主張したのだが、ゆうなは断固として譲らなかった。
僕と"ゆうな"を挟んで中央にあるスマホの画面は残り時間が"26分23秒"であることを示していた。
僕は一秒ずつ時間が減っていく表示を見ながら、一秒って結構長いんだなぁと思った。
このままでは不毛だ。不毛すぎる。
僕にはやらなければならないことが山の様にあるのだ。
僕はゆうなに仕掛けていくことにした。
「じゃあさ、ゆうな。もし僕が狼でないとするよね?」
「うん」
「そしたら、誰が狼だと思う?」
「うーん。。その場合はここに二人しかいないわけだから...」
ゆうなは言いよどむ。
「...私しか考えられない」
「うん。だよね。じゃあゆうなが狼ってことかな?」
「ううん。違うよ。。ゆうな狼じゃないもん」
ゆうなは悲しいような怒っているような表情を見せる。
「でも、たーくんが嘘を吐くわけないから...」
「もしかしたら、ここには"人狼"はいないのかもしれない...」
ゆうなは薄っすらと涙を目に溜めている。
オーケーオーケー。ここまでは想定内だ。
僕はやれやれと肩を落とすポーズを取った。
「ゆうな...実を言うと、僕が人狼なんだ...」
「えっ...」
「さっきは嘘を吐いてごめん。。でも仕方なかったんだ。。」
僕は"ゆうな"から目を逸らす。
「僕も初めは善良な村人だったんだ。。しかし、ある夜、魔女の呪いを人を食べる狼となってしまった。」
「それが今から、30秒前の出来事さ」
「だから、"ゆうな"がさっき質問した時点では市民だったんだけど、」
「今は狼となってしまった。。だから僕の負けさ」
我ながら苦しいと思ったが、ゆうな相手なら乗り切れることを確信していた。
ゆうなは一瞬考える素振りを見せたが、すぐに表情が明るくなった。
「そっか!じゃあたーくんが狼だから、たーくんを倒せばいいんだね!」
「そうだ!ゆうな!そういうことだ!」
僕の顔面に次の瞬間右ストレートが飛んできた
どうやら"ゆうな"はこのゲームのルールを知らなかったらしい
二人人狼 -終-