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500年目のメンター冒険者  作者: ハヤブサ
第3章 決戦編
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決戦④

「私をぶっ倒す、ですか……。ふふ、本当に面白い人たちだ」

 魔王は楽しそうに俺たち二人を眺める。一方こちらはやる気を一笑に付されて怒り心頭だ。

 アンジュも同じ気持ちらしく、魔王に向かって一歩踏み出す。


「そのヘラヘラ顔、いやらしいったらないわね。今からその顔めがけてまた思いっきりぶん殴ってやるから、覚悟しなさひ、よ……?」


 しゃべりながらも徐々にろれつが回らなくなるアンジュ。ついには膝をついてしまった。ぜいぜいと肩で息をする彼女に駆け寄る。俺は彼女を助け起こしながら、その疲労の理由に遅まきながら気が付いた。


「お前、さっき手甲付けて魔王のやつ殴ったから……。もう体に力なんか入らないだろう」


 装備した者の命を代償に絶大な威力を発揮する呪いの手甲。

 魔王の血の効果で何発も撃てていた俺と違い、アンジュには何の細工もない、「寿命を削って放った一撃」だった。いくら若くて健康な冒険者とはいえ、その呪われた武具は、たったの一発でこの少女の命を絞りつくしていた。


「ま、まだまだ大丈夫よ。これ位のことでへばってたら、リオンと冒険なんてしてられないわよ」


 強気を装ってはいるが、言葉とは裏腹にその表情には辛さがはっきりと刻まれている。息が上がるなんてものじゃない、まさに死にかけているのだ。しんどくないわけがない。


「さてさて? そんな様子でどうやって私をぶっ倒すというのでしょう? できれば早く立ち上がって、挑んできてほしいものですがー?」


 魔王の煽りにアンジュは悔しそうに顔を伏せる。気持ちは萎えていない、だが体がそれに応えられないでいる。


「もういい、アンジュ。少し休んでいてくれ、後は俺が何とかする。」


「リオン……」


 俺はアンジュの肩をぽんと叩き、彼女の隣にしゃがみ込む。そして彼女の手にそっと自分の手を重ね合わせる。

 期せずして発生したロマンチックな空気に、アンジュの目は少しうっとりとしている。TPOを考えてほしい。今お前死にかけているんだぞ?いや、死にかけだからそういう思考になるのか。


「……ん?あれ?おっかしいな、取れねえ」


「リオン……?ちょっと何してるのよ」


 俺はロマンチックたっぷりに(?)重ねた手をガチャガチャといじるが、アンジュの手にはまった手甲はがっちり身について離れない。


「さ、さすが呪われた武具。ちょっとやそっとじゃ外れてくれねえな」


「は、外れてくれねえな、じゃないわよ!どうすんのよ、てかさっきリオンするっと脱げてたじゃない!するっと!」


「多分あれだ、さっき諦めてもう死んでもいいかーなんて思ったから外れたんだ。よしアンジュ、あいつを倒すのは諦めていっそ死んだ気になってくれ」


「無理。体さえ動くならもう一回殴りかかりたい……」


 なんて闘争心。勇者ってこういう奴にこそふさわしい称号じゃないのか?死にかけてもヤル気満々なんだぞ。


「さて、どうしたもんか……」


 俺は立ち上がって顎をぽりぽりと引っかく。店から持ってきたとっておきがまさかここにきて使えなくなるとは。どうやってこれから魔王の野郎と一戦やらかせばいいのか。その辺に転がってる剣では明らかに力不足だ。

 そんな俺の悩みを知らず、いや十二分に知っているからこそ、魔王は愉快そうにつぶやく。


「武器ならそこのお嬢さんが持っているじゃないですか」


「あ?だから手甲は外せないんだって」


「いえいえ、そんな玩具みたいな物じゃなく。お嬢さんの腰に、ね?あるでしょ?とっておきのが」


 アンジュの腰には、ディムの店から城に運ばれ、ジェーンが魔王に渡すことを拒んだ聖剣が納められていた。

 500年前……俺を戦いの旅に誘い、多くの仲間と出会わせ、そして別れさせ、今は俺の意思に何も反応を示さないただの金属の塊。

 仲間たちの命を救えなかった俺には、太陽が照らすその剣の光が、あまりにも鈍く映っていた。


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