おっさんと精霊の交流
「ハァ…ハァ…」
2回目以降は1回目に比べればまだスムーズにいった。
何度かヒールライトをかけたところで魔力が枯渇。
少女が荒く息をしている。
「だ、大丈夫?」
心配して気休めの言葉をかけると
彼女は心底絶望した顔で言った。
「さっきよりは少しマシになりました…
でもなんですいきなり…地獄ですかここは…
私が何をしたって言うんです。か、か、
帰りたい…帰りたい………
助けてよぉ。お母さぁん。お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん。」
初日の職場環境が強烈過ぎていきなりブラック認定されてしまった。
このままでは彼女と友好的な協力関係を築いていくのに支障が出る気がする。
そこまで思い至ってふと気づく。
「って言うか痛覚あるんだ!?
君さっきまでどうしてたの?」
儀式の前にヘルメスは普通に馬に乗ったりしていた。
光と闇で性質が違うんだろうか?
「私はマスターの影…
あなたに付き従うためならばどんな苦難も耐えてみせましょう。」
まさかのやせ我慢純度100%! 根性すごいなこの子!!
「ガルル! ニャァ! フギャァァァァ!!」
しばらくの間。彼女は決して我々とコミュニケーションをとろうとしなかった。
近づこうとするとビクッと体を震わせ、四つん這いで威嚇してくる。
どうしたものかと悩むが、置いていく訳にもいかないので
ひとまず一旦保留にして朝ごはん兼昼食をとる事にした。
鞍の鞄から携行食を取り出して腰を下ろすと、切り株の影からジトっと視線を感じた。
「マスター」「わかってる」
干し肉を手に取って近づくと、同じ歩数だけマナが後ずさる。4つ足で。
どうやらまだ手渡しで受け取ってもらえるほど信用されてないらしい。
俺は彼女から決して目線をそらさないようにしながら
ゆっくりと膝をつき、切り株の上に干し肉を置いて慎重に後ろ歩きで離れる。
「フシィ…ハッ! ハッ! ハッ!」
俺が6メートルほど離れたのを確認して、
マナは切り株に飛びついて干し肉をむさぼりはじめた。
ジャンプ力ぅ…ですかねぇ…
それを何度か繰り返すと手渡しでうけとってもらえるようになった。
干し肉がすっかりなくなる頃には俺たちはマナと話が出来るようになっていたんだ。