表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

おっさんと精霊術

「うわぁっ!?」

自分の事をマスターと呼ぶ少女に連れられ

屋敷を出る事にしたのだが…

エントランスを通り抜けようとして

地獄のような有様に驚いた。


死体。死体。おびただしい数の死体。

重装備に身を固めた男は口や鼻と言わず、

目から耳からよくわからない液体を垂らして

どうすれば人間がここまで苦痛を浮かべられるのか

常軌を逸した顔をしていた。

真っ黒なミイラになった男も恐ろしい顔をしているし、

破裂して原型をとどめていない死体がいくらかマシに見えたほどだ。


比較的損傷の少ない死体を見れば、

彼らは質のよさそうな装備を身に着けていて、

どう見ても夜盗のそれではない。

あの松明の明りが彼らのもので、

これをやったのがシルヴァリオン卿だとすればやはり彼は…

だが今は少女の後をついていくのに精いっぱいで

それ以上は何も考えられなかった。


屋敷の周囲には相変わらず濃い霧が立ち込めていた。

付近には何頭も馬が繋がれている。

彼女はそのうちの一頭の鞍に括りつけられた鞄から何かを取り出し、

簡単な応急処置をほどこしてローブなようなものをまとった。


「乗ってください。」

彼女は短剣を使って素早く馬たちを解放すると、

先ほどの1頭に乗って手を差し出してきた。

当然俺は馬になんて乗った事がないので後ろに乗せてもらうしかないのだが…

「掴まって。落ちないように。」

そうは言っても腰に手をまわしてちみどろの腹部を掴める訳がない。

一瞬手を上にまわそうかと思ったが、

思い直して自分のふとももをぎゅっと掴み、必死で馬にくらいつく。


霧を抜けて急に明るくなった視界に目がくらむ。

思わず後ろを振り返って疑問に思う。

なにせ朝日が昇っていた事にすら気づかなかったのだ。


「少しお待ちください。」

そう言うと彼女はいったん馬をとめ、

近くの大きな木に向かって走りだしたかと思うと

タタタっと手もつかずに駆け上がった。

「うわぁ…すっごいんだなぁ。」

「木登りが出来ると便利ですよ。今度お教えしましょう。」

いや、教えてもらっても人間にその動きは無理だと思うよ…


「こっちです。」

再び馬を走らせてしばらく。

道に馬をとめて藪の中をしばらく進むと、

日当たりの良い開けた場所に出た。


「すっごい! なにここ? なにこれ?」

日はすでにかなり高いところまで昇っていたが、

それにしてもポカポカと気持ちの良い場所だった。

草は芝生のようにふわふわで

真ん中にはなぜか切り株と祠のようなものがある。

誰か手入れでもしているのだろうか?


「ここでいいでしょう。」

少女はこちらに振り向いて言った。

「先ほども言った通り、私はあなたが生み出した精霊です。

ですが今はまだその真偽について話し合うのは後にしてください。

どうか…」


少女が不安そうな面持ちで見つめてくる。

だが俺はもうとっくにそのそのつもりだった。

「大丈夫。よくわからないけどとりあえずは君に従うつもりだよ。

少なくとも敵って感じはしてない。」

そう言うと少女はホッとした顔を浮かべる。可愛い。


「ではマスター。続けさせていただきますね。

私は今この少女の体を借りて話しています。

ですが肉体がひどく損傷しており、

このままでは私は大きく活動の自由を阻害されてしまいます。

ですので、マスターにはこの場所の陽気を感じ取っていただいて

光の精霊と契約して欲しいのです。

光の属性であればこの体の持ち主が生前開いていた魔力回路を使って

回復魔法が使えるはずです。」


「ふむ、なるほど。」

なるほど。わからん。

俺がわかったフリをして頷くと少女が続けた。

「本来であれば祭壇、儀式、器の3つが必要になりますが、

この体は非常に丁寧に魔力回路が開かれており、

常に周囲から微弱な魔力を取り込んでいます。

私が魔法陣を構築し、この体を器として降臨させるのであれば

必要な手順はほとんど必要なくなるでしょう。

ただし、闇の精霊である私がこの体の中にいると光と反発してしまいます。

ですので儀式の間、私はマスターの中に移らせていただきます。」


「俺の中に…移る?」

「手を握って。」

少女が手を差し出してきたのでにぎにぎさせてもらう。

少しひんやりしてしっとりした肌が気持ち良い。

「接触を通してマスターの中に移ります。

以降は儀式が終了するまでこの体を動かせなくなりますので

マスターの中から直接語りかける形になります。

途中で絶対に手を離さないでくださいね。」


少女は手を握ったまま仰向けに体を横たえると、目をとじた。

「あの屋敷には非常に濃い闇が漂っており、

マスターに会う前から私にはすでにうっすらと自我のようなものが芽生えかけていました。

ですが今回は自然の陽気だけを頼りにほぼゼロから精霊と契約しなければなりません。

マスター。まずはまだ生まれぬ彼女に名前をつけてあげてください。

この肉体が器となりますのできっと女の子でしょう。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ