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おっさんとおやすみ(2)

「目をつぶってんのに強制的に神経をざわつかせんのをやめろぉ!”」


 俺の魂の叫びに応えて壁から床からドンドンと音がなり、うるせーのはてめぇだ! とか頭おかしいのか! などと罵詈雑言がとんでくる。

 でも一番びっくりしたのは間違いなく同じ部屋にいたヘルメスだろう。


「お願いします。死ぬほど疲れてるんです。森の中を歩きっぱなしだったのもあるけど、館での一件が精神的に響いてて本当に限界なんです。お願いします! お願いします!」


 まるで交際を求める握手みたいに頭を下げて右手を突き出す。

 相手に説明するべき言葉と自分が今強く思っている言葉と言うものは必ずしも一致しない。


『マナが心の中にいるとうるさくて眠れないんでかわってください』


 なんで俺はその一言を付け加えられなかったんだろう。


「え、えっと…その…」


 ヘルメスがまるで頭のおかしい人を見るような目つきで俺を見てくる。

 心配そうにして辺りをキョロキョロと見回すそれはきっとお医者様を呼ぼうかどうか迷っていたのだろう。


「お願いします! お願いします!」


 なおも右手を突き出す俺。圧倒的に説明が足りなかった。


「あ、あの…はい…」


 だがなんと言う奇跡。

 彼女はまるで意味がわからないと言う難儀な事実に目を瞑って、ただ「なんとかしてあげたい」と言うたったそれだけの理由で行動を示した。


 おずおずと右手を差し出す彼女。

 世の中がこんな女性で溢れていたら俺はとっくに童貞を卒業していただろう。

 魂で抱き寄せるように、俺はそっと彼女の存在を心の中にひきいれた。


 目を瞑ってベッドに身を投げ出す。そこには生まれて初めて見る永遠の闇が広がっていた。

 

 目を瞑っていても眼球はまぶたの裏を見ている。だが今はそれすら感じさせない。静か過ぎて耳が痛くなる感じもない。全ての雑念を沈めて包みこむ完璧な闇。


「すっごいなこれ! きんもちえ~!」


 いつからだろう。人と話すのが苦手な俺は頭の中で声を出さずに独り言を繰り返すようになっていた。

 日常的に習慣づいたそれは常に俺の脳を刺激して決して休ませようとはしなかった。

 でも今はそれがすべて闇の中に溶けていく…


「はえぇ~。癒される~」


 そして俺は速攻で寝入ってしまった。


「……むうぅぅ!」


 その時、俺はマナがうなり声を発するのを聞き逃してしまった。

 出会ってから間もなかったが。彼女がどういう性格で行動していて、彼女が彼女なりに一生懸命やってる事を知っていたはずなのに全部無視してしまった。


 このあと、俺たちは取り返しのつかない事になり俺は彼女の身に起きた事を一生後悔する事になる。

 ただ、この時もう少しだけ彼女の事を気にかけてあげればよかったのに…

 他の人の作品を何作か読ませてもらって、改行の仕方とかが基本に沿ってなかった事に気が付きました。既に投稿した分も順次改稿していきます。

 5話までを改稿しました。3~5話を書き直しました。

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