おっさんと回復魔法
(宿屋の個室にて。3人称視点)
「光を浴びて命が栄える。
愛と喜びの奔流よ。光の精霊マナの名において権限せよ。
ひぃるぅぅぅぅぅっらいとぉっ!!」
「あひゃぁっ! き、きんもちえぇぇぇぇぇえ!」
金髪の少女が拳を突き出すと光が漏れる。
「す、すげぇや! 本当に傷が治っていく!」
「でしょでしょ?」
冒険者から驚愕と賛辞の混ざった顔を向けられ、
少女は満面の笑みで得意げに胸をはった。
「まさか本当とは思わなかったぜ…こんなお嬢ちゃんがなぁ。」
「あ、包帯はまだとっちゃダメですよ。
しばらくは怪我してるフリしててください。
私がここで回復魔法を使った事は内緒ですから、ね?」
少女が口に人差し指をたててシーっと見せると、男が頷いた。
「あ、あぁ。どこで誰が見てるかわかんねぇからな…
そら。約束の金だ。教会の正規料金には届かねぇが少し色付けといたぜ。」
「うへへ。まいどありー♪」
少女は金を受け取って踵を返すと、扉の前で再び冒険者に振り返った。
「ナ・イ・ショ・だよ?」
指をチッチッチと3回左右に振って、最後に小首をかしげる。
冒険者の男は思わず頬をニヤつかせてしまいそうになり、ポリポリと後頭部をかいた。
(おっさん視点)
「まぁぁぁぁぁぁっす!」
待ち合わせの場所で待っていると
マナがすげぇデカい声で叫びながら走ってくる。
やめなさい! こら! めっ!
ローブが捲れるでしょうが! めっ!
だが考えている暇はない。
ジャンプだ。上だ。こいつ絶対飛び込んでくるつもりだ。
だが俺は全てを包み込む漆黒の闇。光陰の精霊術師!
絶対に避けない。絶対にガードしない。絶対に投げとばさない。
全てを受け入れる覚悟で短く息を吐くと、力を抜いて両腕を広げた!
「たぁぁぁぁぁ(たぁぁぁ(たぁぁぁ」
マナがジャンプする。相変わらず無駄にジャンプ力だけが高い。
ドハゥっ!と肺の中の息を全て絞り出す衝撃。
上半身をそらして可能な限り柔らかく受け止めたそれを
左足をひいて勢いを殺さないよう回転するエネルギーへと変換する。
ブォン、ブォン。上半身を抱きとめて逆ジャイアントスイング。
そのままゆっくり減速させて俺は優しくマナを地に降ろした。
「やりましたよマスター! お金!
褒めて、褒めてください!」
両腕をひろげてピョンピョンとジャンプしてくる。
この子ちょいちょいやらかすけど悪気は無いんだよなぁ…
純粋に褒めてもらいたくてたまらないのだろう。
で、あれば今回は無事に現金が入って素直に嬉しいし
ここはもう四の五の言わずに誉める一択である。
「ヨーシヨシヨシ! ヨーシヨシヨシ! イイゾォコレ!」
ガッと首に腕を回して頭をガシガシと撫でる。
ちょっと乱暴だったかな?とも思わないでもなかったが
撫でられている本人は満更でもなさそうな顔。
だからだろうかなぁ…ちょっと調子にのっちゃったんだよねぇ…
「お手!」
パシ!
「おすわり!」
シュタッ。
「ちんちん!…なーっんって、うっ!?」
そ。の文字は言えなかった。
お座りの体制から両手をあげたもんだからローブが捲れあがる。
「あ…」
俺の視線が下に向いてしまう。
「あ…」
マナの視線が俺に向く。
「あ…」
顔を上げたら目線が合ってしまった。
「な、なにやらすんですかぁぁぁぁぁぁ!!!」
バッシィィィィィン!
頬に強烈なビンタ。綺麗なモミジが咲いた。




