おっさんと現金の調達
さて、街に入れたのはいいのだが
とにもかくにもヘルメスちゃんに機嫌をなおしてもらわないと始まらない。
と、思っていたのだが…
「す、すいませんマスター。私が言い出した事なのに…」
あっけなく向こうから謝ってきた。
いいんだよ。いいんだよヘルメスちゃん。
だからそんな出来もしないのに無表情作ろうとしながら
顔真っ赤にしてもじもじしなくていいんだよ。
だから、その…どさくさに紛れてふとももサスサスしたり
お尻の割れ目に鼻先ツンツンしたりしてごめんね?
心の中でマナが何か抗議しようとしてドフドフと爆発が起きる。
肺の中で爆竹を鳴らしたようなゲップがゴフゴフと漏れるが
30年以上に渡る孤独と恐怖に塗りつぶされた心の闇は
新米の光の尖兵などに決して負ける事はない。
「差しあたっては今日の宿をなんとかしないといけないのだが…」
いまだロクな自己紹介すら済んでいないのだが今の俺たちは一文無しである。
当然酒場で飲みながら語らいあうような身分ではない。
冒険者ギルドに行こうにも身分証を発行してもらうための保証金がない。
見受け引受人もいないどころか、少女の顔を知ってる人間にでもあったらまずいはず。
髪の色変わってるしローブで隠れてるから別人って事で通らないかな…
あとついでにローブの下全裸だし。
金がない…どうしてこうなった…
そうだ、マナが6メートルくらいジャンプして馬に飛び乗ったからだ。
で、あれば…
「マナ」
「な、なんですか?!」
名状しがたい何かがびくりと精霊体を震わせる。
俺は心の中の彼女の固有領域を漆黒の恐怖で浸食するかのように
有無を言わせない態度で彼女に告げた。
「お前に頼みたい仕事があるんだが…」
(とある酒場。3人称視点)
「っかぁー! 今回、ばかりは!
ほんっと死ぬかと思ったぜぇ!!
アーハッハ、イテ、イテテテ。」
そう言って彼はうまそうに酒を飲みほした。
「おーい! もう一杯くれぇ!」
顔の左と左手にはまだ痛々しい包帯が血を滲ませているが、
彼の懐は温かかった。
彼は冒険者であり、依頼先でモンスターを討伐し…今日帰還したのだった。
この世界には精霊そのものを使役したり、
何かに憑依させたりする事が出来る精霊術師と言うものは公には存在しない。
だが、自然発生した精霊そのものの存在は
一部の高位の魔導士や学者達によって解明が進められ、
それらがモンスターの発生源になっている事が知られていた。
この世界では火や風の力が概念として一か所に溜まり続けると
精霊の元となる実体を持たないエネルギー体が発生する。
彼らは自らの目的や意志を持たず、それ自体に善悪の概念はない。
それらはただ空を漂うだけであれば無害であったが、
生物の強い意志に引き付けられ、同化してしまうと言う性質があった。
精霊と同化した生物は自我を崩壊、融和させ超自然的な力を持つが
問題はそれがどのような意思によって吸い寄せられていたか、だ。
一部の探求者を除いて、
衣食住、仕事、人間関係に満足している状態では
人は自我の崩壊すら顧みないほどに何かを欲したりはしない。
自然、精霊と同化したものたちの力は戦いへと使われた。
自分が憎むものへ。また自分が愛する者を傷つけるものへと。
さらに、この世界で最も生き物たちを殺していたのは人間だった。
ゆえに、動物達の怒りの矛先の多くは人間に向いた。
そして、精霊と同化した人間の怒りの矛先もまた人間に向いたのである。
「ねぇ、おにぃさん」
腹も膨れて冒険者の男がそろそろ戻ろうかと勘定を済ませると、
見知らぬ少女がテーブルに腰かけてきた。
ローブから覗く顔は白銀の髪の美少女。
冒険者の男は思わず息をのんだ。
こちらにもたれかかるように上半身を傾けてくるその姿。
ちらりと見えた肌が、ローブの下に何も着てないのではないかと思ったからだ。
少女が耳に顔を近づけて吐息をかけるように呟く。
「へやでぇ。気持ち良いこと、しない?」
評価、ブクマしてくれた方ありがとうございます!
よろしければそちらの(作者さんですよね?)ページにも伺わせていただきますので
URLだけでもいいんで書いていってください!




