プロローグ~ひもじさとせつなさと心細さと~
※初投稿です。3/20日 5話まで改稿しました。
5話あたりまではちょっと雰囲気が暗いので苦手な方はとばしちゃってください。
「ほれ、今週の分だ。おつかれさん。」
お給金の代わりに支給された豆やら穀物やら野菜やらの食糧をもらう。なんのかんのと理由をつけられ下がる事はあっても、予想外の収入なんてものにはとんと縁のない世界。
それはわかりきってとっくに通り過ぎた話。なのにどうしても最近は考えてしまう。
……イノシシの肉が食べたい……
俺の名はゲオルグ。山の近くの村に住む冴えない小作農。
いい年して独身なのだがそれはこんな村ではそう珍しい事じゃない。
この世界では容姿に自信のある子は10才にも満たないうちに親戚や村のコネやらを使って街へ出稼ぎにいく。大抵は酒場や商店の売り子をしながらお相手を探すものだが中には稀にお貴族様に囲ってもらえる子もいる。
村に戻ってくるのは大抵適齢期を過ぎてからなのだが、子連れの場合も多い。到底村でくすぶっているような小作農には養えないので村には独身のおっさんがあぶれているのだ。
先に述べた事が言い訳になってしまうが、そんな村でも当然結婚するやつはする。出来るやつはいる。
同じ村の年下の知り合いが、まぁまぁ年の近い村の中では可愛いと評判の奥さんをもらったのだ。やつはそれなりに顔も良かったし、狩人をしていて収入も俺たちより良かった。
いつもはウサギや鳥。たまに鹿を狩ってくる程度だったのだが、嫁さんの前で奮発したかったのだろう。様々な罠を駆使して果敢にもイノシシに挑み、見事にこれを仕留めたのである。
なん十キロと言う肉が結婚式でふるまわれ、村はお祭り騒ぎ。それもイノシシの肉は鹿やなんかのボソボソの赤身と違って脂身が…とろけるのだ。
豆や根菜のスープで空腹をごまかすだけのひもじい日々の中にあってそれは麻薬…胸やけを通り越してガサガサの食道が満たされる衝撃。
しかしそれは結婚式でふるまわれたご馳走と言う儚き一夜の夢。
どれだけ恋焦がれようとも再び口にする事など叶わない。けれどひもじい。考える事も忘れた普段の食事がやけにみすぼらしく見える。
眠れない夜にふと思う事がある。
孤独には慣れた。結婚などとうに諦めた。
けれどどうしてだろう。ひもじさをかかえて寝転がると、しんしんと寂しさに包まれるのだ。
孤独と空腹は関係のない全くの別問題。
けれどどちらかをかかえているともう片割れを呼び込んでくるような感覚がある。
「もしも空腹の精霊と寂しさの精霊なんてものがあるのだとしたら、二人はきっと仲が良いのだろうな。」
そんな益体もない事を浮かべつつ、また明日の仕事に備えて眠りにつくのであった…