第二語 思い出屋台
皆様、こんにちは、語部です。
おや、あなたが見ている時間は真夜中かも知れませんね。
改めまして、こんにちは、こんばんは。
皆さんは、忘れられない思い出ってありますよね?
でも、中にはそれがない人もいると思います。
今回の話は、そんな人への話となります。
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ある時、ある所に、ある男がいました。
男はある日、事故に遭い、記憶喪失となってしまいました。
しかし、男は今までの記憶が知りたいと、以前、知り合いだったという人に聞いて周り、思い出の場所を探しました。
もちろん、男の思い出の場所はすぐに見つかりましたが、男の記憶は元には戻りませんでした。
男が途方に暮れ、地元だと周囲の人間が言っていた地方の大きな商店街をほっつき歩いていると、ふと商店街の路地裏から、鈴の音のような綺麗な音が聞こえます。
男はそれにつられて、路地裏に入りました。
そこには、怪し気な雰囲気の路上販売があったのです。
しかし、その路上販売の屋台は寂れていて、ボロボロなことこの上なく、古ぼけて錆びた鈴がついているだけでした。さらに、何の店かという看板さえないという始末でした。
男は、店主かと思われる、年配の男に声を掛けました。
「この屋台は何を売っているんだ?」
店主は答えます。
「人の記憶、思い出だよ」
その言葉に、男は目を輝かせ、すぐに商品を見ました。
そこには、瓶があり、中には雲のような何かが入っていました。
男は、良さ気な記憶を手に取ると、店主に向かって、
「これはいくらだい?」
と、問いました。
「代金は頂いてないよ、代わりに持ってく時はワシに言ってな」
嗄れた声で店主は答えました。
男は、一瞬驚きましたが、すぐにこう言いました。
「じゃあ、この記憶を貰っていくぞ!」
店主が頷くと、男は手に取っていた瓶を大切そうに抱えて、路地裏を出ました。
その路地裏で屋台の店主は、ボロボロの手帳を出して、
「男、残り29」
と、記していました。
それからというもの、男は鈴の音が聞こえたり、屋台の影が見えたりすると、ひとつずつですが、思い出を持っていくようになりました。
しかし、ある時を境に、その屋台にぱったりと会えなくなってしまいました。
男は探しに探してついに見つけたその屋台の店主に思い出のひとつを持っていくと言いました。
すると店主が、
「ダメだ。お前はもうないだろう?帰った帰った」
と断られ、追い払われてしまいました。
男は渋々帰り、その後、屋台によることはなくなりました。
そして男には、新しい思い出が刻まれることもなくなりました。
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どうでしたか?今回の話は。
ただより高いものはないという言葉がありますが、この話は、その言葉の意味を如実に表していますね。
皆様も、タダという言葉に騙されることがありません様に。
それでは皆様、次の語り部まで、
Au revoir。