lightning bug can't tell my heart to him is burning with love for you
「鳴かぬ蛍が身を焦がす」
口に出して言うよりも、じっと黙っていることの方が、心の中での想いは痛切なのだということの例え。
伝えたい想いほど、上手くは伝えられなくて。
届けたい想いほど届いてはくれないものだ。
「何にも言わないからって、何にも想ってないなんて思うなよ。」
先週のことだ。
同じクラスの男友達の
光希が言った。
「本当に想ってたら軽々しく好きなんて言えないと思う俺は。別に、どっちを信じるかは亜優の勝手だけど。」
私がいま片想いをしている3年の先輩は、私と瞳が合う度に好きだと言ってくれる。
私はそれをただ単純に、想いを素直に伝えられる素敵な人だなと思っていた。
だけど先週の光希の言葉で思った。
私はもしかしたらただ舞い上がっていただけなのかもしれないと。
先輩はもしかして私を想ってくれてはいないのかもしれないのだと。
きっと知らなくて良かった。
こんな現実、気が付かなければ良かったなぁと思う。
先週以来どうも光希と気まずい。
あの言葉は一体どういう意味なのだろうか?
光希はもしかして私のことを…?
「…ねぇ、光希!あのさ〜…」
もしかして光希、私のことが好き?なんて聞けるはずない。
もし違っていたら、単なる自惚れたナルシストになってしまう。
でも気になって仕方がない!!
あんなに想っていた先輩よりも、この一週間は光希のことで頭がいっぱいだった。
「鳴かぬ蛍が身を焦がす。」
「え…?」
ずっと黙っていた光希がぼそっと呟いた。
「ことわざでさ、そういうやつがあるんだ。」
「そうなんだ。どういう意味なの?」
「それが俺の気持ちだから…」
家に帰って私は、早速辞書を開きその言葉を一心に探した。
「…あった!えっと、口に出して言うよりも、じっと黙っていることの方が、心の中での想いは痛切なのだということ。注釈?鳴くことの出来ない蛍がまるで身を焦がすように光っていることから…鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がすとも言う。」
この世の中には、どうして重なる想いと離れる想いがあるのだろうか。
どうして相思相愛の想いと一方通行の片想いがあるのだろう。
プルルルル〜♪
深夜2時、先輩から電話が鳴った。
相変わらず先輩の軽快な話し方に包まれて気が付いたらもう、4時近くになっていた。
だから私は全身の勇気を振り絞って先輩に聞いてみることにした。
「ねぇ…どうして先輩はいつも私のこと好きって言ってくれるんですか?」
一秒、いや三秒くらい間があって先輩はこう言った。
「だって…ただ想ってるだけじゃ何にも伝わらないと俺は思うから、かな?そう思った時にそうだって相手に伝えなきゃ、本当に伝わって欲しい時にもう伝えられないかもしれないじゃん!」
先輩の言っていることは正しかった。
だから私の胸にきつく突き刺さっていた。
私は、ただ一心に身を焦がす蛍だ。
「俺、亜優ちゃんのこと好きだよ。俺たち付き合おっか?」
先輩はその後私にこう言った。
「俺はさ、ただ黙って想い続けてます〜みたいなの苦手っつーかさ。ぶっちゃけだるいみたいな?だから、亜優ちゃんも思ってることはちゃんと言葉にして伝えてね?」
「…はい。分かりました。」
ずっと想っていたって、伝わらなければ意味はないんだと改めて確信していた。
次の日。
私は、先輩と付き合い出したことを光希に伝えた。
そうしたら、光希は微笑っていた。
切ない微笑みだった。
だけど、とても綺麗な微笑みだった。
先輩と付き合いだして二週間が過ぎた頃─
「つーかさ言いたいことはちゃんと言ってって俺言わなかったっけ?」
「でも…私は先輩とは違うから、思ってることを上手に伝えられないんだもんッ…」
「まじめんどくせー…」
「ごめんなさい…。」
せっかく、付き合うことが出来たのに。
これからは、ちゃんと思ってることを伝えていこうと思ったのに。
「謝ることないよ!!」
「光希…ッ」
「誰?亜優の友達?」
私は光希にひどいことをした。
光希を傷付けたのに。
それなのに、光希は来てくれたのだ。
「亜優は…良い子なんです!!本当に優しくて、先輩のことだってずっと前からすげー想ってて。ただ自分の気持ちを上手く相手に伝えられないだけってゆーか…」
普段は照れ屋で黙っていることの多い光希が、今日だけは必死で伝えようとしてくれていた。
「想いは伝えなきゃ意味がない。ただ想ってたって伝わらないし、想いは言葉にしてくれないと相手だって分かんねーよ。」
「…俺は、そんなことないと思います。みんながみんなそんな器用には生きられない。俺だって、不器用だからただ想ってることしか出来ないけど同じだけの価値はあるよ。言葉になったって、ならなくたってその想いの価値は変わらないっすよ!!」
先輩が正しいのは分かっていたけど、私はどうしても光希から瞳が離せなかった。
この時の私には、もう光希しか映っていなかった。
「私、先輩のことがずっとずっと大好きでした!!先輩は、想いを言葉にする大切を私に教えてくれたけど…伝えられない胸の奥の想いを分かろうとはしてくれなかった。」
不器用な胸の奥の想いにも、気付いて欲しかった。だけど、光希なら分かってくれそうな気がした。
ただ一心に身を焦がしていた私に気が付いて守ろうとしてくれた。
それだけで、私は十分だ。
「光希。私、光希のことが好きになっちゃったみたい。もう遅いかな…私じゃ、ダメ?」
「ダメなんかじゃない。良いに決まってるっしょ!俺も亜優が好きだよ!!一回しか言わないからッ…!」
本当に、それ以来君は一回も好きなんて言ってはくれなかったけど、大丈夫。
私たちはお互い分かっているからだ。
鳴かぬ蛍が身を焦がす♪




