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6月華の君

 美麗たちは卓球に興じていた。

 浴衣で。

「あ! また、ホームラン」

「もう、美麗、いい加減にして。美麗のは卓球じゃない」

「美麗さんは、一人で壁打ちでもしていたら良いんじゃありませんの?」

 卓球のような何かに興じていた。

 いい感じに、開けた浴衣で。

 開けているのは、美麗一人だが。

 ゲーム開始から5分。

 サーブ以外は全部ホームラン。

 コントロールもないくせに、全力で打ち返してしまうため、全部ホームラン。

 相手をしているルナは、今さっき着付けしてきたばかりですと言った風情で、結構胸が大きいわりに胸元一つ崩れていないのに。

 美麗の方はと言えば、胸元はチラチラしているし、動くたびに太ももが露になって、そろそろパンツが視えそうな有様だ。

 だが、美麗は全く気にしていない。


 なぜなら。

 ここは、男子禁制の乙女の楽園だからだ。

 この世界の女王であるQ様以外は、女の子しか存在しない世界なのだから。



 女の子が大好きな美女Q様のために神様が創ってくれた、乙女の楽園。

 神隠しにあった女子高生美麗が、この楽園に連れてこられてから、早一週間が経とうとしていた。

 Q様は女の子とお喋りをしたり、女の子たちを鑑賞したりするだけで十分満足らしく、特にエロいことや酷いことをされることもない。

 衣食住は足りているし、基本的に女の子たちは、ここで自由に暮らすことを許されていた。

 普段の生活では、決してお目にすらかかれない高級スイーツが食べ放題だったりすることや、来て早々に、絹姫やルナと知り合えたこともあり、割合呑気に過ごしていた美麗も、さすがに少し焦り始めていた。


 そろそろ、何とかしないとマズイ。

 遊び過ぎた。

 と。


 ルナは今一つ何を考えているのか分からないのだが、絹姫は最初から、一緒に元の世界に帰る方法を探そうと言っていたので、美麗が乗り気になったことをとても喜んだ。


 喜んで、早速。

 お茶を飲みながらの作戦会議を開いたのだが。

 これと言っていい案もなく、ただの雑談になったところで、絹姫がキレて立ち上がり。

「ここでこうしていても、埒があきませんわ! 外に出て何か手掛かりを探してみるべきですわ。何か、私たちが知らない情報を持っている方に出会えるかもしれませんし!」

 と言うので、みんなで根城にしている湖畔のホテルの外に出て、周囲をフラフラしている内に、美麗が発見したのだ。


 銭湯を。

 特徴のある煙突が付いた、ちょっと古めかしい建物を。

 所謂、スーパー銭湯の類ではなく、昔懐かしな感じの銭湯を。


「行ってみよー! 誰かいるかもー!」

 と言う美麗に引きづられるように銭湯に突進し、ちょっと熱めのお湯を堪能し、いつの間にやら用意されていた浴衣に着替え、湯上りのフルーツ牛乳で喉を潤し、流れるように館内の遊戯施設に向かい、卓球に興じ始めたのだ。


 お湯につかってほっこりしている内に、三人とも当初の目的をすっかり忘れた。


「はー、疲れたー。・・・・・体育で卓球があった時もいつも思うんだけどさー。こう、終わったら、建物を斜めに傾けてザーッと散らばった球を一か所に集めてから拾えば楽だと思わない?」

「考えたことありませんわ」

「普通は、こんなに打ち放たないから」

 対戦相手を変えながら、何ゲームか楽しんだ後、三人は遊技場内のあちこちに散らばった球を集めていた。

 散らばしたのは主に美麗だが、他の二人も文句を言いつつも手伝っている。

「終わったら、もう一回お風呂行こうよ。汗、流したいしー」

「賛成」

「異議なしですわ」



 片づけを終えて脱衣場へと向かうと、先客がいた。

 ノースリーブの白いワンピースを着た、ショートカットの女の子。

 美麗は息をするのも忘れて、少女に見とれた。

 神様の趣味によって、この楽園には美少女ばかりが集められているのだが、その中でも、彼女は別格だと美麗は思った。

 何というか。

 独特の雰囲気の持ち主だった。

 月の光を編んで創った女の子。

 今は、昼間のはずなのに、ここだけ夜になってしまったかのように感じる。

 闇の中で、彼女だけが、月明かりに照らし出されている。

 そんなイメージ。


 少女はチラリとだけ美麗たちを見た。

 一応、美麗たちのことを認識はしたようだが、瞳には何の感情も感じられない。

 一瞥しただけで、少女はツイと視線を戻した。

 言葉一つ発しない、目礼すらない。

 パサリ。

 少女の足元に白い布が落ちた。

 無駄なものが何一つない華奢な体が露になる。

 控えめな胸元だった。

 同じように控えめな絹姫のお胸には同情しか感じなかったし、可哀想だからあまり見てはいけないと思っていた美麗だが、少女の胸元にはなぜか惹きつけられた。

 彼女はあれでいいのだと思った。

 あのサイズだからこそ、彼女の美は完成されているのだと。

 そう、完成されている。

 真っ白で染み一つない体は、どこか作りものめいている。

 著名な人形師の最高傑作。

 月の光を浴びて魂を得た人形。


 美麗たちの視線をまるで気にすることなく、少女は惜しげもなくその裸体を晒した。

 大事なところを隠すこともせず、スタスタと浴場へ向かい、カラカラと音を立ててドアを開けると、湯煙の中に姿を消していった。


「月華の君。久しぶりに見た。超レア」

「月下の君、と仰るんですの?」

「下じゃない。月に華やかで月華の君。ボクが名付けた。本名は知らない」

「そうなんですの? でも、確かにそんな感じの方でしたね。雰囲気のある・・・・。月明かりの下でだけ咲く、一輪の花のような方でしたわね」

 ルナと絹姫の会話を聞きながら、美麗はほうとため息を洩らした。

(月華の君か・・・・。いい・・・・・)

 どこかの変態オヤジのようだった。



 湯船の中で、美麗はのぼせそうになっていた。

 二度目の入浴。

 運動後。

 それももちろん理由にあげられるが、一番の要因は目の前の美しい一輪の花だった。

 美麗の目の前。

 三メートルほど先で、月華の君が湯につかっていた。

 背中を向けているので、残念ながら顔は見えないが、代わりにバッチリと項を鑑賞することが出来た。

 白い肌に、ほんのりと朱がさしている。

 どうやら、人形ではないようだった。

 瞬きすら忘れて、美麗はただひたすら項を見つめ続ける。

 もうすでに、のぼせ上っているのかも知れなかった。


 ルナと絹姫は、人、二人分の間隔をあけて、美麗の両サイドに控えていた。

 気持ち悪いから、あまり側には寄りたくない。

 でも、もしもの時には、直ぐに美麗を湯に鎮められるところにいなくては。

 そんな葛藤の末の、この距離感だった。


 さぱり。

 と、音が聞こえた。

 月華の君が立ち上がったのだ。

 キュッとくびれたウエスト。

 その下の、ほんのり朱を帯びた二つの丸い膨らみ。

 大きすぎず、だが決して、貧相ではない、程よい加減の膨らみが、湯から姿を現す。

 すべすべしていそうな、白くて細い太もも。

 余分なお肉は何一つついていない、細くて綺麗な太もも。

 そして。

 その、隙間。

 美麗は、ハッと息を呑む。

 この世の真理に到達したと思った。


 隙間。

 そこに美麗が見たものは。


 まだ若い、茂みだった。

 その茂みを、神秘の滴が伝う。

 茂みの先から、滴が伝い落ち。


 伝い落ちた滴が湯船の落ちる前に。


 美麗は意識を失った。


「きゃ、きゃー!! お風呂が、お風呂が、鼻血風呂にー!? は、早く、早く掻き出さないと!」

「シルク。掻き出すより先に、元を何とかしないと。引き上げるから、そっち、持って」

「わ、分かりましたわ!」


 かなり騒々しい背後を振り返ることなく、月華の君はさぱさぱと湯の中を進み、お湯から出ていった。

 美麗の引き上げが完了した時には、月華の君の姿はどこにも見当たらなかった。



 楽園の施設は基本的のどこも無人なので、美麗が銭湯から出入り禁止を喰らうことはなかった。

 だが、代わりに。

 ルナと絹姫によって、銭湯禁止令が発令された。


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