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4美少女こそがモブである

  チーズオムレツにトマト多めのサラダ。焼きじゃけに納豆に白ご飯。あと肉じゃが。ワカメと豆腐の味噌汁にコーンスープ。クリームと蜂蜜がたっぷりのワッフルとカフェオレ。それから、オレンジジュース。

 目についたものをとりあえず乗せみてみました感たっぷりのトレーを前に、美麗は両手を合わせた。

「いただきまーす」

 コーンスープを一口飲んでから、早速、ワッフルに取り掛かる。

 デザートじゃないんかい?

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 同じテーブルに同席している絹姫とルナは、無言で美麗の食事風景を見つめている。絹姫は微妙に顔を引きつらせて。ルナはポカンと口を開け、目を見開いている。

 絹姫も、昨日の朝はこんな顔をしていた。

「いただきます」

「いただきます・・・・」

 やがて二人は、ぎこちない動きで美麗から視線を剥がし、自分の朝食に集中することにした。

 絹姫セレクトは、チーズオムレツ、コンソメスープ、サラダ。ヨーグルトをかけたフルーツ。紅茶。

 ルナセレクトは、卵サンドとフルーツサラダとミルクティーだ。

 無難な朝食メニューだ。

 昨日と同じレストランでのバイキングである。

 どういう仕組みか、用意されている食べ物は常に出来立ての状態。女の子が好きそうなものは、大抵用意されているし、たとえなくても、アレが食べたいと言えば、料理の方がやって来てくれる。

 まさに至れり尽くせりだ。



 三人とも、昨日と全く同じ服装をしていた。

 こげ茶のブレザーが立花美麗だ。安っぽい公立高校の制服。ボリューミーなふわふわツインテ。ぱっちり二重に、チェリーピンクのぽってりとした唇が魅力的。外見だけは美少女だった。

 恐らく私立だと思われる、洒落たデザインの青いセーラー服を着ているのは、糸井川絹姫。愛称はシルク。ちなみにこれは美麗が名付けた。腰のあたりまである長い黒髪の左右に、赤いリボンを織り込んだ三つ編みをひと房ずつ作っている。濡れたような黒目がちな瞳につい目を奪われる。華奢で可憐な美少女。胸のあたりのラインが、特に可憐だった。

 それから。

 青月ルナ。水色のパーカーと白いショートパンツ。全体的に小作りな、ゆるふわショートボブのちょっと不思議な感じのする美少女。ゆったりとしたパーカーに隠されてるが、意外と胸はあることを、美麗は昨日のお風呂で既に確認済みだ。

 昨日と同じ服とはいえ、夜寝ている間に見えない小人さんが綺麗にしてくれているので、何の問題もない。


昨日は、『女の子は面倒くさい』なんて言っていたルナだったが、なんだかんだで、三人で行動をするようになった。

 行動と言っても。昨日は、ルナに教えてもらって案内された図書館で一日本を読んでいただけで終わってしまったのだが。

 周囲の散策は、特に何にも進んでいない。

 収穫は、ルナと件の図書館だけだ。

 その図書館での読書も、別にこの世界の謎について調べてみるとか、そういった類の本ではなくて。

 美麗はマンガ。

 絹姫は恋愛小説。

 ルナは、特にジャンルのこだわりなく、気になったものを適当に。

 という具合に。

 本当にただの読書大会となっていた。

 気づいた時には、夕方で。

 元の世界に戻るために、まずは来たばかりの美麗に、とりあえずの根城であるホテル周辺の案内をしようと熱意を燃やしていた絹姫は、自分の体たらくぶりを激しく嘆いた。

 美麗に至っては、当初の目的などすっかり忘れて、もうここに永住してもいいかもと、半ら本気で考え始めていた。



「やー、それにしても壮観だよねー。アイドルの合宿所に潜入しちゃいましたー、みたいな光景だよねー」

 一番、量が多かったはずなのに、真っ先に食べ終えた美麗が、新たにもらってきたカプチーノを飲みながら、おっさんみたいな感想を洩らした。

 丁度いい時間帯なのか、店内はかなり込み合っていた。

 美麗の視線は女の子たちの座るテーブルを行ったり来たりしている。

 可愛い子や、綺麗な子や、可愛くて綺麗な子ばっかりだった。

「それかー、アイドルとかがいっぱいいる会場に、大きい魚とり網とか仕掛けて、ガバーッてやってきたかのような大量ぶりだよねー」

「Q様じゃなくて、全部、神様の趣味で選ばれたらしいけどね」

 フルーツサラダを食べ終えたルナがどうでもよさそうに答える。

「えー? そう聞くと、なんか、神様って、いやらしい感じ」

 美麗が両手を胸の前でクロスさせ、いやんなポーズをした。

 特に色気は感じられない。

「そうですわ。神様がいやらしいのが、いけないんですわ。いやらしい神様が、Q様をそそのかしたから、だから、私たちがこんな目に! 全ては、神様のせいですわ!」

 絹姫がはしたなくも音を立てて、ティーカップをソーサーに戻す。

「そ、そうなの?」

 Q様には何の非もないと言わんばかりの絹姫に聞こえないよう、美麗はこそっとルナに尋ねた。

「んー。まあ、聞いた話の限りでは。諸悪の根源は神様? っぽい? Q様の方から願いを叶えてもらうために、怪しげな儀式とかしたわけじゃなくて、神様の方で勝手にQ様を選んだっぽい。ホントかウソかは、不明」

「ふーん?」

 淡々と答えるルナに頷きながら、美麗はレストランのある一角を見る。

 Q様のいる一角を。

「えーと? ここの女子はみんなそう思っているから、あんなにQサマに対して好意的、ってことなのかな?」

 Q様の座るテーブルには、美少女がみっちりと同席していた。本来、四人掛けのテーブルに、無理やり椅子を持ち込み、可能な限りみっちりぎっちりと美少女たちが詰まっている。美少女たちはみな、うっとりとQ様を見つめ、楽しそうに談笑している。

 同席が叶わず、近くのテーブルに陣取る美少女たちも、まあ、そんな感じだ。ついでに言えば、絹姫も。あそこまで露骨ではなく、たまにチラチラしているくらいだが、根底に流れているものは一緒のように思えた。

 美麗とて、あの胸元には、うっかり視線が吸い寄せられそうになったりしているが、それとは明らかに種類が違う。女子高的な意味で、憧れのお姉さまに向ける女生徒の眼差しというか。なんというか。

 そうは言っても、少しはQ様を恨みに思う女子がいてもよさそうだと思うが、みんな気持ち悪いくらいにQ様に秋波を送っている。


「ここ、というのが、このホテルという意味なら、確かにその通りですネ。ま、一部、例外もいるようですガ」

 突然背後から、知らない女の子の声がして、美麗は椅子の上で飛び上がりながら振り向いた。そして、叫んだ。

「な、何時代の人ですか!?」

「平成生まれの平成育ちでス」

「へ、平安?」

「平成。昭和の次の平成でス」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・平成?」

 口をパクパクしながら、背後に立つ、ボブカットのこけし顔少女を見上げる。

 そう、少女はこけしそっくりだった。

 すっきり、さっぱりした顔立ち。

 美麗の認識している美少女とは、何かちょっと違う。好みの問題とかそういうことではなくて、何かがちょっと違う。なので、きっと、美麗の知らない別の時代の美少女かと思ったのだ。昭和とか縄文とかジュラ紀とか。・・・・・・平安とか。

 次第に、衝撃から立ち直ってくると、自分の失言に気付いた。

(ヤバイ! これ、もしかして、フォロームリなヤツ? これは、もう、素直に謝る・・・・のもかえって失礼なようなー!? どうしよう!?)

 頭を真っ白にしていたら、こけし顔はフッと笑った。

「お気になさらズ。気にしてませんのデ。あ、ワタシのことは、モブ子とお呼びくださイ」

「それ、本名じゃないよね!? モブってアレでしょ? 通行人AとかクラスメートBとか、そういうアレの総称でしょ?」

 まさか、本人が自分で名乗っているとも思えない。

 誰がつけちゃったの、そのあだ名!?

 美麗が焦って叫ぶと、絹姫とルナが驚いた。

「え? そうなんですの?」

「そうなの?」

 そんな三人の反応に、モブ子はニヤリとした。

「お構いなク。みなさんも、モブことお呼びくださイ? ふふ、マ、この世界では、美少女こそが真のモブですけどネ」

 言いながらクスリと笑うモブ子に美麗は腹黒いものを感じ、なぜか好感を覚えた。

 嫌いなタイプではなかった。

 美麗は意外と、懐が広いようだった。


「マ、それは兎も角。このホテルはQ様のホームですので、シンパだけが残っているんでス。例外もいるようですガ。あの湖の向こう側に行けば、アンチたちがいますヨ」

 美麗は窓の外に広がる大きな湖に目をやる。

 ぐるりと向こう側まで、街並みらしきものが続いている。

 あちら側にも誰か住んでいるとすると、一体、この世界には何人の女の子が連れ去られてきたのだろう?

 美麗の思考は、少しわき道にそれた。

「現在のところは、Q様に成り代わって新たな女王になりたい派と、この世界の秘密を暴いて元の世界に帰りたい派が二大勢力ですネ。興味があったら、行ってみてはどうですカ? では、ワタシはこの辺デ。また、その内、お会いしましょウ?」

 言い終わると同時に、モブ子は姿を消した。

 美麗の椅子の後ろで、何かが物凄い勢いで通り過ぎていったような風が起き、ボリューミーなふわふわツインテが大きく揺れた。

「・・・・・・・・・・・・忍者?」

「うーん、そうかも?」

「そうですわね。七色子がいるのですから、忍者だって存在してもいいですわよね」

 七色子が存在するのは絹姫の頭の中だけだが、見えない小人さんが存在するらしきこの世界では、忍者くらいいてもおかしくないのかも知れなかった。


「それは兎も角として。元の世界に帰りたい派には、ぜひお会いしてみたいですわ!」

 やる気に満ち溢れた顔で、絹姫はティーカップを両手で包み込んだ。

「お勧めはしない」

「なんでですの!?」

 無表情であっさりと言い捨てるルナ。

 絹姫はミシミシとカップを握る両手に力を入れた。

「前者は、勘違い高飛車女とその取り巻き集団。後者は、日本に帰るとか口先だけで、日本にいた頃の彼氏の惚気話と愚痴ばっかりのめんどくさい集団。お勧めしない」

 感情を消し去った顔で、ルナは繰り返した。

「ええ? どうしてですの? ぜひ、お話をお伺いしてみたいですわ! 私、まだ、男の人とお付き合いしたことがないんですの」

 絹姫は胸の前で両手を組み、うっとりとした。

 興味の内容がいつの間にかすり替わってしまっていることに、本人は気づいていない。

 美麗とルナは微妙そうな顔で絹姫を見た後、二人でアイコンタクトを交わし合う。

「元リア充の惚気聞かされても、心が渇くだけだと思うよ?」

「それに、奴らは彼氏のいない女子を見下してるから、不愉快な思いをするだけ。経験者は語る」

「そ、そうなんですの?」

 絹姫はしおしおと肩を落とす。

 美麗の忠告には少々反発を覚えたが、実際に彼女たちに会ったことがあるらしいルナの言葉は無視できない。

 素敵な恋の話を聞きたいだけなのだ。見下されて不愉快な思いをするのは、絹姫とてご遠慮申し上げたい。

「シルクはさー、もう少し世間の荒波にもまれた方がいいんじゃない?」

「やー。シルクはこのままでいいんだよ。ほら、シルクだけに優しく手洗いしてあげないと」

「そっかー。シルクだもんねー。優しくしないといけないよねー」

 二人にからかわれて、絹姫は顔を真っ赤にしてフルフルと身を震わせている。

 笑いながらルナに追従して絹姫をからかう美麗だったが。

 もちろん。

 シルクの洗濯の仕方など、知らなかった。


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