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85話


 オドント東口。

 開かれた門の先には塗装された道が一本道に広がり、次の街まで直線で進むことが出来る。


 そんな大通りと結ぶ通路には度々馬車が門を潜っているのを見かける。

 豪華な装飾が施された馬車から、やや小ぶりで装飾のほとんど施されていない数人用の馬車まで種類は様々だ。


 そして今僕達が乗り込んだのは乗り合いの中型馬車である。

 バスや電車のように不特定多数の人物が乗り込むこの馬車は僕、名無しさん、ヘルトくん、コロニさんの他にも面識のない人達がGを払って乗り込んでくる。


 「改めて今回の依頼を確認するね」

 「はい!」


 名無しさんの言葉にコロニさんがやや緊張気味に返事をする。

 その横ではヘルトくんが落ち着きなく座っていた。


 「内容はコロニちゃんとヘルトくんの王都までの護衛。依頼はギルドを通した指名依頼。報酬は後払いで後日支払われる。これでいいかな?」

 「問題ないです」

 「うん」


 コロニさんがヘルトくんの顔を見ながら答えると、ヘルトくんは頷いて肯定した。

 報酬が依頼達成後すぐ支払われるわけじゃないのは単純に依頼をギルドに通した時、ヘルトくん達が支払えるだけの報酬を持ち合わせていなかったからだ。ギルドを通した依頼だから報酬を踏み倒されることはないし、サブイベントが発生した以上僕達に依頼を受けないっていう選択肢は無かった。


 「それじゃあ王都までよろしくね!」

 「よろしくお願いします!」

 「よ、よろしく」


 馬車が揺れ、カタカタと音をたてながら動き出す。どうやら発車の時刻のようだ。

 この短時間で名無しさんはヘルトくん達と仲良くなってきている。さすが名無しだ、コミュ力が限界突破してる。

 おかげで僕は空気になりつつあ……考えないでおこう。


 「お嬢ちゃんたちも王都に行くのかい?」


 名無しさんとコロニさんが会話に花を咲かせていると、同乗していたNPCのおじさんが話しかけてきた。

 よしここは僕の出番だ。周りとの付き合いは僕がするぞ。


 「えぇ、そのつも--」

 「そうですよ〜! おじさんもですかー?」


 …………。

 僕に居場所は無かった。


 「ソウさん。俺とこっちで喋りましょう」


 ……子供にまで気を使われてしまった。

 僕はやるせない気持ちを抱えながらも頷かざるを得なかった。


 綺麗に整えられた街道は馬車の揺れを軽減し、快適な陸の旅を実現させる。

 ある程度間引かれたエネミーや、街道の各所に点在するエネミー除けの置き石。これにより極端にエネミーの出現率が下がり、比較的安全な交易が行える。


 ヘルトくんが隣で景色を眺めながらそう語ってくれた。

 やけに詳しいな。目線も名無しさんと喋っているおじさんとはまるで別物だ。いい所のお坊ちゃんなんだろうな、乙成先輩とは大違いだ。


 フィールドは次の街まで、いや王都まで一直線で平原エリアらしい。

 これなら護衛なんて無くてもいいと思うんだけどな。サブイベントがあって、探してた王都までの依頼も一緒に受けれてよかったんだけど。


 「それでヘルトくんはどうしてたった二人でオドントの海に行ってたんだ?」

 「どうして僕達がオドント出身じゃないと?」

 「ん? 普通に依頼の報酬が王都についてからの話だからな。オドント出身だったらオドントに戻る分の依頼もしてるんじゃないのか?」

 「それもそうですね」


 この少年中々疑り深い。

 名無しさんが緊張を解してくれていたとはいえやっぱり不安なんだろう。


 「実は海が見たくなってつい」


 いや案外抜けてるぞ。

 それで街を超えてくるとか子供の部分もあるんだな。まあこの少年なら護衛の一人や二人は付けていそうだったけど。


 「少し父様と言い合いになってしまって……」

 「家出みたいなものか」

 「そんな感じですね」


 それでコロニさんが付いてきたんだな。

 明らか従者みたいだもんな。


 「でも俺は俺が思っていたよりも力が無くて……父様の言っていることが少しだけ分かった気がします」


 ヘルトくんは眉を下げながら僕に笑顔を作る。

 ヘルトくんの家庭事情は知らないけど、そこにはどうにもならない思いが感じ取れた。


 近くでコロニさんが名無しさんと話しながらもヘルトくんを横目で見て眉を下げる。

 まあでもまだ子供だしな。これから努力していけば……なんて事情も知らない僕が言えることではないな。


 「しかし本当にエネミーが寄ってこないんだね〜」

 「遠目ではエネミーと戦ってるプレイヤーもいるんだけどな」


 エネミーが近寄ってくるなら適当に魔法を放って馬車の中から倒そうと思っていたけど、全くそんなことはなかった。

 ほんとに護衛の意味がない。サブイベントが出たし何かあると思うじゃん。


 「何も無いことはいいことです」

 「そうだね〜ちょっと退屈だけど」


 コロニさんに名無しさんが頷く。

 退屈なのは僕も一緒だ。ヘルトくんたちからすれば何も無い方がいいのは分かってるんだけど。


 ……いやこのタイミングでフィールドボスと出会ったら守りきりながら戦えるかな。無いだろうけど紫光狼並のボスが出てきたらまず無理だな。


 とまあそんな心配はあったけど、何事もなく次の街まで着きそうだ。

 僕とヘルトくんは途中で会話が途切れると各々適当に過ごしていたんだけど、名無しさん達は馬車が通るまでひたすら喋り続けていた。どうしてそこまで話題が持つのか謎である。



 「やっと着いたねー!」


 代わり映えしない平原エリアを抜けて、やっと街の入口まで辿り着いた。

 馬車が止まると皆背伸びをして凝り固まっま身体を解す。ゲームの中だけど凝り固まる身体とは……。まあ気分なんだけど。


 「補給は要らないね」

 「だね、戦闘も無かったし。二人はどこか行きたいとことかあるの?」

 「いえ、特には……」

 「俺も特に」


 じゃあこの街にはもう用がないな。

 二人が王都から来たならこの街は通ってきたはずだしな。


 「名無しさんは?」

 「私も無いかな」

 「じゃあこのまま王都まで行こうか」

 「だね! そもそも目的は王都だったし」


 この街についてすぐだけど、ここは素通りで行こう。

 せっかくだし街の転移装置は使わずに歩いていこうか。急いでいるわけじゃないし、せめてもの観光としよう。



 王都までの馬車は東門付近で乗ることが出来る。

 バスのように発車時刻が決まって少し待てばGを払い乗れる仕組みである。

 人が並んでいたら馬車に乗るまで時間はかかるものの、今回に限って言えば問題ない。プレイヤーは皆歩いてエネミー狩ってるからNPCしか使わないもんね。


 王都までの道はオドントからこの街に行くより安全らしく、暇になること間違えなしだそう。それにフィールドが平原エリアだから代わり映えもしない。これは退屈だ。


 「ソウくん、乗るよー!」

 「あっ、うん」


 馬車は僕達を乗せてトコトコと東門を抜けていく、この間にステータスチェックをもう1回しておこうかな。

 名無しさんはまた馬車に乗ったほかの人達と仲良くなっているし、僕も混ざればいいんだけど余り得意じゃないんだよな。やっぱり名無しさんに任せるとしよう。


 暇だし手持ちのアイテムを整理しながら時間でも潰すことにしようか。

 隣でヘルトくんが画面を覗き込んでいるけど見えているんだろうか、NPCでもメニュー画面を見れるんだな。

 もしかしたらヘルトくんも画面を開けたりするのかもしれない。


 ヘルトくんの為にアイテムを出して見せたり、簡単な魔法を見せるとそれを習得しようと頑張るヘルトくんを名無しさんやコロニさんが応援したり、案外楽しく過ごすことが出来た。


 そうして二つ目のフィールドを抜けた辺り、王都の門が見え始めるところまで順調に進んだのだった。

 実際僕もここまで来たら何も起こらないと思って油断していた。エネミーは近寄ることなく、1回とて戦闘はしていない。本当に護衛するだけの依頼だったと思っていたのだ。


 突如として大きな揺れが馬車を襲う。

 強い風切り音が鳴り、重い羽音が空気を唸らせた。


 「ソウくん!」

 「『守護』!」


 咄嗟に馬車から降り上を見上げると、そこには平原フィールドでは出会わないだろうエネミーが空を徘徊していた。


 獰猛な牙、狂ったような瞳に黒く染まった体躯。

 巨大なその体を二つの黒翼で支えている。


 「わ、ワイバーン」

 「それも5匹も」


 ヘルトくんとコロニさんが空を見上げながら呟いた。

 竜の劣化個体と言われるワイバーンだが、この数を相手に気楽に挑めるほど弱くないな。


 馬は恐怖のあまり足が止まり、ヘルトくん達を逃げさせる手段は無くなった。


 「ソウくんごめん、レベルで大きく負けてるからサポートに回る!」

 「了解! ちなみにワイバーンのレベルは?」

 「一律で50だよ!」

 「おけ」


 名無しさんがスキルの鑑定を使ってレベルを教えてくれる。

 これで大まかな強さは分かったからそれに準備するだけだ。


 「えっ! ちょっとまって二人とも戦う気なんですか!?」


 翼を広げて飛び込もうとした所でヘルトくんが大声で制止の声を上げた。

 その表情には恐怖と驚きが詰め込まれている。


 「護衛依頼を受けているからな、ちゃんと働くさ」

 「大丈夫だよ、ちゃんと守るから安心してね」

 「でもさっきレベルで負けてるって! 50もレベルがっ!」


 混乱しているようだ。

 そりゃ子どもからすると恐怖以外の何者でもないな。


 「大丈夫! ソウくん凄く強いし、私も負ける気なんてないよ! ねっ、ソウくん」

 「あぁ!」


 名無しさんは笑顔でヘルトくんの頭を撫でると、ふり向いて僕の後ろに立つ。

 コロニさんがヘルトくんを馬車の中に入れて落ち着かせるように抱きしめた。それを一瞥すると僕は翼をもう1度大きく広げて剣を構える。


 「行くよ、名無しさん!」

 「うん!」


 

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