84話
おまたせしましたm(*_ _)m
リーフ国ハルジオンから出て南に位置する街[オドント]。
この街は大きな港町として有名で、ここから更に南へ進めば海エリアへと繋がる港が見える。
潮風が北側の入口にまで届き、海の香りが鼻に通っていった。
「とーちゃーくっ」
「ここがオドントか。結構賑わってるな」
「なんたって港町だからね!」
中央へと続く大通りにはNPCだが外国から来たであろう顔ぶれも見かける。中には海の向こう側で手に入るアイテム等を売っていたりもしていた。
しかしそれでも注意を引くのは至る所で店頭に並ぶ色とりどりの魚達。
見たことがあるような魚から、明らかに異形の形をしていた魚まで大量に陳列していた。
「どうしようか、とりあえずギルドまで行く?」
「そうだね〜、とりあえず依頼の報告して、何か他に依頼が無いか見てみよう?」
活気に溢れるこの街には海側にあるオーシャンズギルドが一つ。
事前に調べておいた情報では依頼が海関係で偏っているらしいから、東行きの依頼が見つかるといいけど。
せっかく隣町まで来たんだから歩いて街を見回りながら行くというのも有りだけど、今回の旅の目的は王都である。
観光は別の機会にして、僕達は街の転移ポータルを使いオーシャンズギルドまで跳ぶことにした。
「おぉ! これは凄い!」
「わあ……綺麗」
転移した先には見渡す限りの海。
数々の船が波を引き起こす中、別の場所では透き通った海水を前に砂浜が広がっていた。
「海があることは分かっていたけど、これは予想外だ」
「現実の海でもここまで綺麗な海は少ないんじゃないかな?」
「道理で人が多いわけだ。観光に来ている人もいるんだろうな」
「私達も一泳ぎしていく?」
「あっ、迷う」
しかしこれはテンションが上がるな。
もしこの場にみぃがいたならお互い無言で海へダイブしていたところだ。
かなり人は多いけど、だだっ広い砂浜だからか空いている所もある。
これなら海で一休みすることも出来るな。まあ疲れてないんだけどね。
というかそんなのみぃにバレたらただじゃ済まない。うん、今回の目的は王都だしな。
「……とりあえず依頼見に行こう」
「そんな苦虫を噛み潰したような顔で」
海から180度振り向くと横に長い一階建ての建物がある。
三角の屋根にまるで海の家を改良して大きくしたような建物だ。
外からでも中の様子が垣間見えるな。
ライフセーバーのような格好をしているNPCにプレイヤーが混じっていたり、受付嬢が薄手でしかも水着着用している……ごくりっ。
「ソウくん……」
「あ、いや……ほ、ほら早く行こう」
「ソウくんも健全な男子高校生なんだね〜」
「いいから行きますよ!」
ん? 男子高校生?
……まあいいや。中に入ると真正面のカウンターから受付嬢が挨拶してくれる。
「こうして中に入ると見たより広いな」
ギルド特有の食堂は海の家らしく木製の机に、メニューまでそれっぽい。海近くでもあるけど雰囲気って大事だよな。受付嬢は水着だし……こほんっ。
反対側の依頼板には幾つもの依頼が張り巡らせれていて、そこも人が多く点在していた。
「そうだね、ギルドが一つだけってのもあるのかも」
「確かにそれはある、街一つ分のギルドだもんね」
僕達は適当に話しながら歩いて依頼板に向かう。
依頼板はいつも見ていたハルジオンの物より大きく、依頼を剥がすプレイヤーも千差万別だ。
そして肝心の依頼は。
「やっぱり海関係が多いね」
「半分アルバイトみたいなものも混じってるな」
海関係が多いというよりも殆どがそれである。
中には砂浜で監視するまんまライフセーバーの依頼もあった。他にも海族のみが受けることが出来る依頼なども多数存在している。
「海のエネミー退治! ってのもあるよ」
「多数のエネミーを狩るやつか……報酬も他よりいいけど」
「討伐目標数書いてないね」
きっとこれは時間拘束系の依頼だ。
1時間なら1時間ひたすらエネミーを狩るというようなもので、この依頼の場合海側でやってくるエネミーを退治するものだろう。
「この街は自警団が海からの侵略を守ってるらしいよ」
「だからこの依頼主はオドント自警団ってなっているのか」
この街はハルジオンのように四方壁に囲まれている訳では無い。
東西北は同じだけど、ここ南に位置する場所は海が開けて壁は存在しない。つまりエネミーが唯一街まで入ってくる場所だ。
たぶん街に入ってくるエネミーを自警団が掃討して、人出も依頼を貼って募集しているってところか。
「まあこれはまたの機会だね」
「探すのは王都行きの依頼だしな」
少し面白そうだけど、この依頼を受けていたら時間がなくなってしまう。
ここからでも家にログアウトは出来るけど、そうしたらログインするとハルジオンに戻ってしまうからな。この街の謎カプセルにログアウトすればリアルにゲームを持ち込むことになるし。
そうして東行きの依頼を探すこと数分。
「……無いね」
「……だな」
東行きの依頼がどれだけ探しても見当たらなかった。
やっぱり街一つ分の人がいるんだから依頼なんてすぐになくなるんだろうけど、これは酷い。
海以外の依頼を見つけても北行きだったり、都合悪く東行きの依頼が貼り出されてない。
「とりあえずアイテムの補充でもしよっか?」
「だな。そのあとまた見に来ようか」
お互い苦笑いをしてギルドから出ることにする。
ギルドから出ると見える広大な海に心が走りたがるがそこは我慢。
「でもさすが港町だね、ハルジオンじゃ見かけない依頼が沢山」
「ああ、海を越えた先に行く依頼なんてものもあったくらいだしな」
正面の海を見ないことにしてギルドから離れる僕と名無しさん。
北口からギルドまでの大通りを横に曲がり、MAP情報がある名無しさんのあとに続いてオドントの道具店を目指す。
これもいい機会かもな。こうなったらオドントの街を観光気分で見回ろう。
名無しさんも実際来たことはないのか掲示板のMAPと照らし合わせながら進んでるし。あっ、あんなところにヤシの木みたいなもの発見!
「ソウくん。あまり変なところ見てるとはぐれるよー? あとそこのシヤの実は取ると窃盗で捕まるからね」
「まじか、危なかった……」
「確かにハルジオンとは少し外装が違うけど、そこまで見て回るほどかな?」
「普段見ないってのもあるし、やっぱり新鮮だから。それにもしかしたら何かあるかもしれないだろ? ほらそこの狭い裏道なんていかにもなにか……名無しさん」
「ソウく……うん」
冗談半分で言った裏道の先。
視線をそこに向けたまま僕は静かに名無しさんを呼んだ。
名無しさんは一瞬戸惑っていたが、僕の視線の先を見ると落ち着いて言葉を返す。
僕は魔力付与を足に施し裏道へと走った。
人が3,4人入れるほどの狭い通路で見たのはへたり込む女性が一人と、その前で震えながら両手を広げる小さな男。
そしてそれを囲む大の男が数人。
「『ショック』」
事情は知らないけど、これを見て男達に味方する者は少ないだろう。
迷うことなく男の一人に触れ、魔法を唱えた。
触れたものに電気を通す魔法は瞬く間に男の力を奪う。
「なんだてめぇは!?」
「くそっやっちまえ!」
チンピラの制圧なんて容易い。
それもNPCならなおさらだ。
僕が男達を相手取る隙に名無しさんが少年達を避難させてくれる。
名無しさんは回復魔法が使えるらしいからなにか怪我があれば治してくれるだろう。
「どこ向いていやが--っ!」
「『ショック』」
NPCはHPが無くなれば消滅してしまうからある程度手加減しないと犯罪者になってしまう。
ショックの魔法を使いピンポイントに電気を流すことで手間なく無力化出来るってわけだ、もちろん一発二発打撃を加えても問題ないよな。
全て倒し終えて名無しさんの方を見ると、女性の方が少し怪我をしていたらしく治癒を施していた。
「名無しさん、こっちは終わったよ」
「こっちももうすぐ終わるかな」
見てみると男の子の方は豪華な身形をしているけど、女性の方は……なんていうか、メイドみたいな格好をしている。少し破けているから深く見れないんだけど。
二人ともNPCだけど主従関係だろうか。
「危ないところを助けて頂いてありがとうございました。なんてお礼を言えばいいか」
「あ、ありがとう! コロニを助けてくれて!」
女性──コロニさんの言葉を遮って少年が声を上げてお礼を言う。
それだけこの少年にとってはコロニさんが大切だったのだろう。僕と真っ直ぐ目を合わせた。
「あまりこんな道に行ったら駄目だぞ」
「うん、ごめんなさい」
素直だな。
服装的に乙成先輩みたいなお坊ちゃんをイメージしてた。
「それじゃあ行こうか名無しさん」
「じゃあね。コロニちゃん、ヘルトくん」
イベントは起こらなかったけどまあいいよね。
名無しさんも満足そうだし。
僕達は裏道を出て再び道具店へと歩き出した。
さすがにあの二人はもう大丈夫だろう、コロニさんの服が少し破けていたけど僕たちにはどうすることも出来ないし。
『……ヘルト様。ごにょごにょ--』
『えっ!? コロニ本気?』
『だって私達このままじゃ』
『……分かったよ。コロニをしんじる』
「あっ、あの!」
後ろからコロニさんの声が聞こえて僕達は足を止めた。
名無しさんとお互い顔を見合わせながら振り向くと、コロニさんと少年ヘルトくんが裏道から出て言葉を言い淀んでいた。
そして意を決したようにコロニさんが一歩前に出て口を開く。
「も、もしよろしければ私達の護衛をして頂けませんか!」
【サブイベント『ヘルト・ノックス』が発生しました】