83話
ま、間に合った……
遅れてすいません
「『ファイアーボール』!」
すれ違いざまフォレストファングを数体短剣で切り裂くと、名無しさんが魔法でトドメを刺していく、
その間に弓に矢を番え、魔力付与を施し魔法を唱えた。
「『ライクサンダー』」
魔法によって加速された矢はまさに雷のような速さで10mほど離れたフォレストファングの喉を射抜いた。
仲間を呼ぼうとしていたその狼は遠吠えも許されず光へと消える。
襲ってきたフォレストファングを倒し終えると、名無しさんが走って僕の元へやって来る。
「おつかれさま! この辺りならまだ余裕だね」
「おつかれ。レベルが上がっていてもまだ低レベル帯だからね」
幾度目かエネミーと遭遇しては討伐する。
名無しさんも全く問題ないみたいで安心だ、あまり心配はしていなかったけど。
「それにしても名無しさんの魔法凄い動くな、あんなに曲がるファイアーボールなんて始めて見たよ」
通常魔法はある程度操作が出来るんだけど、それでも限度がある。
魔法によって違うが、魔力玉は結構自由が効くのに対してファイアーボール等は基本的に真っ直ぐにしか飛ばない。少しは動かせるんだけど、名無しさんのように放物線を描くようなカーブは難度が高いだろう。
「それは私の種族スキルでね、魔法操作がしやすくなるんだ」
「なるほど! 魔術師といい相性だわ」
「でしょ〜!」
魔術師の職業ボーナスは魔法の威力が上がるものだったはず。村人だった僕は経験ないけど、職業Lvで魔法とスキルの取得や派生があるらしいし、魔法の操作が楽になれば戦術の幅はグッと広がる。
名無しさんのことだから掲示板で色々情報を漁ってわざと魔術師で留めているんだろうな。
「ソウくんの足は引っ張らないよ! ドンっと頼ってね!」
「おお〜、それは心強い。それじゃ今回も頼りにしてるよ」
「まかせなさーい! 『フィールファイアー』」
話しているあいだにやって来ていた数匹のフォレストビーに向かって名無しさんが魔法を放つ。
4.5個くらいの火の玉はフォレストビーへ吸い込まれるように直撃した。
等身大の蜂はHPを多く減らし炎焼の状態異常を負う。
弱ったフォレストビーに近付いて短剣を振るうとすぐさま光へと消えた。
「ほんと変幻自在だな、まるでホーミング機能が付いているみたいだ」
「そんな褒めすぎだよ」
ファイアーボールのように一つだけならともかく、フィールファイアーみたいに幾つもの玉を同時に操作するなんて早々できるものじゃない。種族スキルがあったって難しいだろうな。
「あっそろそろ森を抜けるね」
「そうだね……ボス戦とかはないのか」
「あはは、こうフィールドが広いとね。ボスは遭遇戦らしいよ」
「それは残念だ」
一応フォレストファングは規定数倒しているから、もうこの森にいる意味は無いんだよな。次のフィールドにトレントがいるらしいし、この森のボスとはまた今度挑みに行こう。
森を抜けると今まで生い茂っていた草木が嘘のように掻き消えた。
生命を感じさせない荒れ果てた大地にはトレントというエネミーが闊歩する。
葉は抜け落ち、枯れ木となった木々達が音をたてながら荒原を徘徊していた。
高さはさっきまでいた森の木々と同じくらいだが、太さはまるで別物だ。
空を自由に駆け回るのは鳥型のエネミー、ホークル。
ホークルはトレントの枝に掴まり羽を休め、時には大空から急降下することでプレイヤーを襲う。
頑丈な体躯に、鋭い尖った嘴から繰り出される攻撃はプレイヤーを苦しめていた。
「ようやく二つ目のフィールドに着いたね〜」
「案外歩いたな。いざ行こうとすると隣町まで結構かかるものだね」
「最低でも三つのフィールドを抜けないといけないもんね」
僕達は荒原エリアを歩きながら呑気に話しだす。
エネミーは目に見える位置にいるが、ここは街をつなぐフィールドの中間地点、プレイヤーもその分多く下手すれば森にいた時よりも安全かもしれない。
街と街をつなぐフィールドは3×3のステージで構成されている。
だから南の森を真っ直ぐ超えた二つ目のフィールドは街を繋ぐ中間地点なのだ。
四つの街を正方形で繋いだ場合、真ん中のステージも同様3×3のステージが存在する。
そこは今いるフィールドよりエネミーのレベルが高く、難易度が高いらしい。……一度行ってみたいんだよな。
ちなみに街の出入口は東西南北に一つとされて、基本的に縦横中段に位置するのだそう。
「これだと王都まで結構かかりそうだ」
「南に一つ、東に二つ先の街だからね〜。まあのんびり行こうよ」
「だなー。トレントも狩っていかないとだし」
しかしプレイヤーが多いと狩りたくても狩れないな。
見つけたエネミーはほぼ他のプレイヤーが戦っているから横取りになってしまう。
「あっソウくん、あっちに誰も近寄ってないトレントがいるよ?」
「……それフィールドボス」
名無しさんが指差したのはここからでも大きく見える巨大な枯木。
のっそりと大地を揺らしながら歩く姿からは周りには無い圧を感じさせる。
「まだ先が長いし進んでいけば依頼分のトレントにはきっと会えるよね……ってソウくん!」
「『ライトニング』『ライクサンダー』『守護』『瞬線』」
弓を構えて魔法を付与、守護で矢を固くして、技を発動。
ギリギリまで弦を引き絞り魔力付与を施したあと、狙いを定める。
雷を纏って放たれた矢は風を切り裂き一直線に突き進む。
轟音を立てながらプレイヤーやエネミーの間を縫って巨大なトレント、ハイ・トレントを貫いた。
瞬間ハイ・トレントを雷が包み込み天へと舞い上がる。
「んー4割ってところか」
「……ソウくん」
「あっ向かってきた」
「あーもー! 『リーニュフレア』!」
やけくそ気味に名無しさんが手を上にかざして魔法を唱えた。
聞いたことないその魔法は、ハイ・トレントの真上で大きな魔法陣となり赤く染まる。
突如魔法陣と同じ大きさの炎がレーザーのように噴出した。1柱の柱のように燃え盛る炎は周りに広がることなく、ただハイ・トレントのみを焼き尽くした。
【ハイ・トレント初回討伐報酬SP10獲得】
「ん〜! やっぱり木だからよく燃えるね〜!」
「明らかオーバーキルじゃ……」
「そんなことないよ〜。ソウくんがかなりHP減らしたから」
ボスなんだけどね、フィールドボスなんだけどね。
魔法1発って。
「あっ良質な魔枝が手に入った」
呑気に笑ってるけど、周りのプレイヤーがガン見してるから!
目立つ目立つ!
「ちなみにMPは……」
「0になっちゃいました! てへっ」
てへっじゃねぇぇええ!
……こほん。
まぁ僕が先制攻撃したからな。名無しさんの意見もまともに聞かずに。
しかし魔術師がMP枯渇したらもう完全に戦力……いやMPポーションあるし最悪僕一人でもなんとかなるだろうし。ここは"てへっ"に免じて……。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、ソウくん」
「で、ですよね!」
「MP回復力アップっていうスキル持ってるから!」
全然大丈夫そうにない!
え? え!? 魔術師でMPポーション? え? え?
「クスクスっ……ごめんごめん。ソウくんの反応が面白くてつい」
そう名無しさんは笑いながらポーションを一つ取り出して飲み干した。
「ちゃんと持ってるよ、さすがにその選択肢はないって」
「えっ……あー! びっくりしたー!」
そういうことか。
まんまとからかわれていたってことか。
「私が魔法使えなくなったらただの足でまといだって」
「そこまでは言わないけど」
「でもちょっと思った?」
「……ちょっとね」
僕は今のところMPにさほど困ることがないからMPポーション持ってないしどうしようかと思った。
まあもしかしたら魔術師が肉弾戦に移るのかと期待したりもしたけど。
「それじゃあ気を取り直して行こうか」
「だね」
空のエネミーは僕が弓で仕留めて、遭遇するようになったトレントは名無しさんが魔法で焼き倒す。
じきにトレント討伐数も依頼分達成して荒原エリアを楽々と突破したのだった。
「あっ! ソウくん大きなスライムだよ!」
「よし狩ろう!」