82話
村人から晴れて市民に!
そのあと転職代の500Gを支払って案内所から離れた。
正直強くないんだろうな、市民って。
村人はレベル上がっても恩恵は無かったし、種族ボーナスもない。
そもそも市民のレベル上げは今までと同じ納税だろうか。
とりあえず人混みから離れて職業を確認しよう。
メニューからステータスを開いて職業を見る。
[市民]
装備ペナルティ反転(微)
お、おおう。
装備ペナルティなんてあるのか……今まで何も思わないで使ってきたけど。
でも反転ってことは少しは良くなるんだろうか。
まあ無しよりましだな、うん。
じゃあ気を取り直して王都までの依頼を見に行こうかな。
依頼板は時計塔の一番奥。
今はDランクだからそれまでのあいだで何かあればいいけど。ってあれは……。
「名無しさん?」
腰まで届くオレンジ色の三つ編み。
頭の上で動く狐の獣耳に、そのまた上に青色で名無しとハンドルネームが表示されている。
これは間違いなく名無しさんだろう。名無しさんは僕のつぶやきに気づいたのか振り向いてくれた。
「あっ! ソウくん!」
僕と目が合うと笑顔で手を振ってくれる。僕も振り返すと小走りで僕の元へやってきた。
「ソウくんもクエスト?」
「これから王都に行く予定でその道のりにね」
名無しさんは背が僕と同じくらいで社会人っぽいけど、言葉を崩して対等に接してくれる。僕もそれに応えて敬語は使ってない。ある人に面影があるだけに少し抵抗はあるんだけど。
"ソウくんも"ってことは名無しさんもクエストだろうか。
「名無しさんこそクエスト探しに?」
「うん。実は王都までの依頼があってそれをしに来たんだ」
名無しさんは右手に隠していた依頼の紙を見せてくれた。
依頼紙には王都までの配達依頼と南の森でのエネミー討伐依頼だった。……まさかこんな偶然があるとは思わなかったな、王都まで名無しさんも行くつもりだったなんて。
「もし良かったらソウくんも一緒にどうかな? まだ受理前だから一緒に受けれるんだけど」
名無しさんは少し躊躇しがちに僕を誘った。
行く先が同じでもお互い予定があるし、一緒に行けると決まった訳ではないからだろう。
依頼のランクはFランクの討伐依頼になんとEランクの配達依頼。
まさか名無しさんがもうEランクまで上がっていることに驚きだけど、僕のランクはDだ。一ランク下の依頼を受けることになる。
一ランク下がるだけで冒険ポイントは本来手に入る分より少なくなり、効率で言えばあまりよろしくない。
だけどせっかく名無しからのお誘いだし、王都までの依頼もあればいいな程度だったから僕にとっては渡りに船なんだよな。
それに一人で行くより断然楽しいだろうし。
「僕でよかったら一緒に行こう」
「全然良いよ! むしろありがとう! そうと決まればさっそく依頼受けに行こ?」
名無しさんは返事を聞くと僕の手を掴んで中央の受付に走る。
引っ張られるように名無しさんの後について行き、そのまま受け付けに並ぶ。てか手繋がれてるとこまたみぃに見つかったら流石に言い訳できないんじゃ。あっ、手離れた。
「それでは[フォレストファング討伐][トレント伐採][王都配達]、計三つの依頼を受理致しました。気をつけて行ってらっしゃいませ」
名無しさんとパーティを組んで依頼を受けると、並んでいるプレイヤーの為に早足でその場を去った。
時計塔を出て少し歩いた先に南の門近くへ転移できる装置がある。お金も100Gと良心的で僕達二人は迷うことなく南門近くへと転移した。
ある程度いるプレイヤーの流れに沿って門前まで歩くと、開門されている南門を潜った。
門を抜けた先には鬱蒼と生えしきる木々の群れ。
眼前すべてが緑に包まれ、草木が風で揺らめく。
振り返ればハルジオンの街並みが門を通して垣間見えるが、門を一歩踏み出すと世界は一転、大森林のフィールドに姿を変えた。
「この辺りで手こずるとは思わないけど、一応確認しておこっか?」
「そうだな」
森を進む前に名無しさんの提案を受けて武器を見せる。
確認とは戦闘スタイルやその種類のことだ。街から出てすぐのエリアで苦戦するとは思わないけど、お互いに戦い方は知っておいた方がいい。
僕は腰にかけていた短剣を二つ取り出すと、背中に掛けてある弓を見せた。
「武器三つなんだね、ペナルティ大丈夫なの? あっ、私はこの前と同じで魔術師だよ」
名無しさんは魔術師から動いてないのか。てっきりもうジョブチェンジしていると思ってた。なにかいい情報が掲示板で見つかったのかな。
「正直今までペナルティを感じたことないけど……」
「確か職業によって装備できる武器があって、それ以外だとダメージが減ったり、武器が重くなったりするみたいだよ。あと武器の数でも変わるみたい」
今まで色々な武器を使ってきたけどあまり差は感じなかったな。村人パワーだったのだろうか。
それでも今はペナルティ反転らしいし、問題ないことには変わりないな。
「それは知らなかった、でも今のところは平気かな。職業ボーナスでペナルティ反転らしいし」
「えっ!? 村人って職業ボーナスあったの?」
「あー少し前に転職して今は市民してます」
名無しさんなら市民権とか職業市民とか知っていると思っていたんだけど、名無しさんは驚いた顔をしていた。
「市民なんて職業あったの? 聞いたことない職業ボーナスだったから村人に隠しボーナスがあったのかと思ってた」
「最後まで村人のボーナスは"無し"だったよ」
「でもペナルティが無いなら問題ないね」
おかげで色んな武器で戦える。
スキルは現実世界に反映されてるらしいから色んな武器スキルを上げておいた方が良いし。
……魔力剣があるから基本は剣術スキル上げておいた方がいいんだけどね。
「そろそろ行こうか」
「だね」
お互いに大まかにだけど戦闘スタイルも伝え会えたことだし、あとは戦いながらおいおい合わせていければいい。
こんな森の入口で止まっていても意味ないし。
まあ森を歩きながらステータスでも確認しておこうか。
入口付近はプレイヤーの手によってエネミーは殆ど出ることはないし、比較的安全だしな。そうじゃなかってもここら一帯とはレベル差があり過ぎて不意をつかれても負ける気がしない。
名無しさんと駄べりながらステータスをチェックする。
魔法も結構取得したんだよね、それでも全然SPは減らないけど……。
名前] [納税の]ソウ 状態:良好
性別] 男
種族] 天族Lv.74 HP20 MP10
職業] 市民Lv1 HP4 MP6
装備] 天輪 夜空のレザー 白狼のころも下 快速のシューズ
所持金] 57440G
HP] 981/981 MP] 472/472
SP] 815
固有スキル] 天翔 守護 慈愛 天癒 天光
スキル] 納税Lv.41 魔力付与Lv.54 武術Lv.36 剣技Lv.25 槍術Lv18 棒術Lv14 輪術Lv12 弓術Lv4 超集中Lv.10 魔法切りLv.29
魔法] 魔力玉 サンダー サンダーボール フィールサンダー ディフュージョンサンダー ショック ライトニング ライトニングボール サンダーアーマー サンダーシルト ライクサンダー マグネティズム
オリジナル] 魔力剣 ジャッジメント 我流・一太刀 皇翼剣・天翔 雷光一閃
称号] 納税の義務 強き者 ダンジョン上級者 [THE WORLD]2位
HPとMPが少し減ってるな、転職でステータスの引き継ぎは出来ないのか。天族のレベルは上がってないし、これは確実っぽいな。もしかしたらステータスを引き継ぐアイテムとかもあるのかもしれない。
よく見ると市民専用のスキルとかもないのか。……職業ボーナスがあるだけましだな。
しかし魔法もかなり増えたな。それなのにSPは増える一方……もうどうせなら取れるだけ魔法取ってやろうか。いや絶対使えこなせなくて肥やしになるだけだわ。
「そういえばずっと思っていたんだけど、ソウくん装備凄く良くなってない?」
「……わかります?」
「わかりますよ〜! それにここまで変わっていたら誰だって気付いちゃう」
そうなのだ。
前回のイベントで手にいれたボスドロップの他にも、有り余るDPで買った装備品が大量にある。おかげで頭から足先まで装備は充実している。
頭 天輪
光の輪っか。装着者にリジェネ(魔族は一部を除き装備不可)
上半身 夜空のレザー
夜空を織ったとされる上服。闇耐性。魔力適合率[中]
下半身 白狼のころも下
白狼の毛皮が編み込まれたズボン。俊敏性[中]
靴 快速のシューズ
足が早くなる魔法が込められた靴。AGI上昇
いま僕が装備している防具は全て上級の装備。なかには種族Lv70以上を必要とする防具もあったが、天族Lv74の僕には全く問題ない。少し前にボロボロの鎧を着ていたことが懐かしいくらいだ。
「そういう名無しさんこそ上から下まで赤一色で防具一新したんじゃないですか?」
「えへへ〜ばれたか」
「同じ系統っぽいからセットボーナス狙いって言うのもありそうですけど、純粋に似合ってますからね〜」
「ソウくん、けいごっ」
「あっ」
忘れてた。いつのまにか敬語が付いてきてた。
でも名無しさんの装備は派手さこそないものの、落ち着いた赤で染められていてとてもよく似合っている。
「ふふ〜ん。この装備可愛いでしょー!」
「……もしかして見た目で買ったなんてこと」
「性能も結構いいから結果オーライだね!」
そういうものか。
みぃもたまにそういう事あるし……女子ってわからん。
「ほらほらそろそろ森の中腹にあたるよ、ここからはエネミーも少なからずいるだろうから」
「少し気を引き締めようか」
「だね」
森を中腹。
森をある程度進めばそれに従ってエネミーのレベルも上がっていく。そうなれば当然プレイヤーの数は減り、エネミーと遭遇しやすくなる。
低レベルのエネミーだといって油断するつもりは無い、負けることはなくても油断して一杯食わされることがないようにしないとな。