78話 オルディネ
WORLD FANTASY
WORLD CREATURE
WORLD SIM
この三種が全世界同時に普及するや否や、世の中の治安は急激に悪化していった。
犯罪発生率は軒並み上昇の一歩をたどり、人命すらも以前と比べて一段と危うまれている。能力行使による暴力行為や窃盗、中には家へ勝手に入り込む者もあとを絶たない。
そして立て続けに発生する犯罪は集団で起こされるようになり、少なからず反社会団体が出来始めていた。その中でも危険視されているのが社会人を中心とした反社会勢力である。
彼らは一般的な建物に身を隠し、組織立って犯行を企てている。
それらは子供の遊びなどではなく、大規模なそれでいて綿密な計画の元で犯行に及んでいる。
もちろんそれによる被害は個人が起こすものとは一線を画し、社会全体に多大な影響を掛けているのは一目瞭然だ。
これに対して能力犯罪に強大な力を持つ特殊対応機関『オルディネ』は、彼らが事を起こす前に厳しく取り締まらなければならない。
特殊な方法で行われる調査の結果、人員を特定された場所へ送り込み制圧する。人員は制圧する規模や個々の能力によって変わり、精密な調査のすえ対処可能と判断された人物で構成される。
オルディネが出動を指令したのは都会に建ち並ぶ一棟のビル。
一見何の変哲もないただのビルだが、危険な集団が息を潜めていることは調査により裏付けされていた。
「あとはこの上ですね。大丈夫ですか? 詩織さん」
4階。
上に続く階段前で龍族の高坂桐花は、隣で警戒する同じく龍族の月島詩織に声をかける。
その後ろには何人もの男達が倒れ伏していた。
「は、はい。いけます!」
詩織の返事を聞き、桐花は階段の先へと意識を向けた。
おどおどしているが詩織もここまでついてくる力の持ち主だ、先程の質問は確認としての意味合いが強い。桐花は腰に差してある鞘に手をかけ、無意識に力を込めた。
「対能力者用手錠終わりました。制圧完了です」
「あ、ありがとうございます。御影くん」
「いえ、任務なので」
御影智成。魔族の特長的な黒角と長めの尻尾が地面すれすれまで垂れ下がっている。
彼はこの階にいた全ての能力犯罪者が無力化された上で、能力封印用の手錠で全員を拘束した。こうすることで不測の事態が起きることはない。
御影は音もなく二人の元へ合流して報告した。そのときに詩織の持つ模造刀が若干震えていることに気づくが、敢えてそれには触れず眼鏡を指で軽く押したのだった。
「揃いましたね。では突入します」
二人が黙って頷くと桐花は5階へと駆け出した。同時に詩織と御影もあとに続く。
飛ぶように階段を上がり、桐花は廊下の中央へ身を乗り出した。一斉に向けられた銃口、だかそれを意に介さず桐花は声を張り上げた。
「特殊対応機関オルディネです! いま抵抗しないで投降するなら罪は軽くなる余地があります。その気があるなら武器を──」
──キィンッ
桐花の忠告は弾け飛ぶ弾丸で返された。
二つに裂けた弾丸、それはいつの間にか抜かれていた刀によって切り裂かれたものである。
「……どうやら聞く必要は無かったようですね」
『『ファイアーボール!』』
落胆するようにため息が桐花の口から零れ落ちた瞬間、眼前に迫る無数の炎玉。
通路を阻むように群がる男達が一斉に魔法を放った。極小規模の魔法でも数を成せば脅威である、ましてやHPという概念がない現実世界で炎の玉に当たればどうなるかは想像に難くない。
空気を焦がし、もはや壁となった炎が桐花を襲う。
しかし猛烈な熱を前にしても桐花の顔が歪むことは無かった。
「この期に及んで投降もなにもないでしょう。彼らからすると」
そう言い御影は桐花の前に立つ。
「『プロテクション』」
炎玉は御影が張った不可視の障壁によって遮られた。炎が障壁にぶち当たり重い音と共に弾け飛ぶ。
数秒後、炎が消えると障壁もその役目を終える。
「一応規則ですから」
驚愕。
桐花の声を聞いた瞬間、男達は一斉に後ろへ振り向いた。
そしてまた男達は驚くことになる。男達が守っていたドア近く、通路の最奥に桐花はいた。
「なっ!」
「いつからっ!」
「どうやって!」
飛び交う困惑の声。
今までいた女が何故後ろに立っている……と、それは場を乱すには充分な効果があった。
「慌てるな! この人数だ! やられるはずが──アグッ」
「一人目」
慌てふためく男に指示を出すが、その男のいる場所は桐花と目と鼻の先。言い切る前に抜かれた模造刀によって切り倒された。
混乱が場を支配し、近くの男が桐花に襲いかかるも一刀の元に切り伏せられる。
「二人目」
声にだして倒した数を確認する。
それに焦りを感じた男が一人、二人。これもまた同様に一撃で意識を刈り取られた。
慄く男達を気にも留めないで桐花は男達へと一歩、また一歩と歩いていく。
そして見せつけるようにすれ違う者を模造刀で切り伏せた。
「だ、だめだぁ! 逃げ──」
背後を見せたときにはもう意識は刈り取られていた。それをみて桐花から逃げようとするが、桐花とは反対側、御影や詩織の近くから叫び声が木霊した。
桐花が男達を無力化していくのと同時に、御影達も行動を開始していたのだ。
動揺して慌てる者を倒すのはそう難しくない、超人社会となった今となっては尚更である。
「ごめんなさい!」
詩織が謝りながら手に持つ模造刀で叩き伏せる。
模造刀には『魔力付与』のスキルが適応され、青色に光っていた。威力は勿論強化され男は軽く吹き飛びながら意識を失う。
これにより前と後ろ、その両方から攻撃をくらって正常な判断は完全に失ってしまった。
そうなっては幾ら能力を持っていたとしても烏合の衆と成り果てる。彼らは成す術なく鎮圧された。
「たわい無いですね」
刀を鞘に戻しながら桐花は拘束された男達を見る。
手に持っていた拳銃は既に回収済みだ。
「素人相手ですから当然でしょう。手にもっていた銃もお飾りでしたし」
御影の言う通り、男達がスキルや銃を使ったのは初めの一回のみである。
架空世界で手に入れた能力が現実世界でも使えるようになったとはいえ、とっさに使えるくらいにはまだ彼らは慣れていなかった。
所詮一般人である。訓練を受けていない男が銃なんて持っても使えるわけがなく、戦い方を知らない男が戦闘で能力を使えるわけもない。勿論例外はいるが今回に限って言えばそれは無かったのだった。
「天族や龍族の人もいたのに窓から飛ぼうともしませんでしたよね」
詩織も苦笑いで言葉を返す。
窓から逃げる人がいた場合の行動も予め決めておいたが、意味はなかったようである。
「ではいきましょう。最後の部屋が残っています」
「は、はい。ですね」
一同は最奥のドアへ近寄ると。桐花が二人と目を合わせる。頷き合うと蹴破るようにドアを開けた。
明かりが付けられていなく、窓から差し込む夕日が部屋を照らしていた。
薄暗い部屋の中で一際輝くのは床に書かれた大きな魔法陣。紫色に光るソレからは怪しげな雰囲気を漂わせている。
「来るのが思ってたより早いな。さすがと言ったところか」
「歓迎するよ。オルディネの諸君」
中には二人の男が待ち構えていたかのように佇んでいた。
一人は数枚のカードを握りしめて、もう一人は長めの棒を構えている。
銃などといった使い慣れていない物は持っていない、二人はそれを初めから切り捨てていた。邪魔になると初めから分かっていたからだ。
彼らからは動揺を狙った作戦は有効ではなさそうである。
だが桐花はその二人にたじろぐ事はなく、淡々と口を開いた。
「特殊対応機関オルディネです。いま抵抗しないで投降するなら罪は軽くなる余地があります。その気があるなら武器を置いてこちらへ来てください」




