73話
5時間目。国語の時間だ。
担当は葉名先生。
この前の一件以降はヘドロ先生が代理を務めることなく、葉名先生は教卓に立っている。
「今日は抜き打ちでテストをします」
「……えっ」
ざわつく教室。
不満不評が垂れ流しだが、葉名先生は知らぬ顔でプリントを配り出す。
僕の前にも先生がやって来て数枚のプリントを僕に渡す。そんな先生を僕はジッと見て少し違和感を感じる。
「先生どこか外であったような……」
「そう? 気のせいじゃないかな? ほら、後ろに配って」
……まあいいか。
プリントを後ろに回してテストの用意をする。
裏面にしているプリントは先生の合図で表に返した。仕方ない、頑張るか。
小テストの内容は今まで授業でやっていたことが殆どだ。数はそこまで多くないから思っていたよりは楽かな。
文章問題も覚えてるとこだし、漢字もこれならいけるな。
と余裕こいていたんだけど、最後の問題で止まってしまった。
……なんだこれ?
『あなたには助けたい人がいます。しかしあなたならその力がありません。あなたならどうしますか?』
問題文の意図が感じ取れないな、小テストの他の問題と合わないし。点数には入らないみたいだから答えなくてもいいみたいだけど。
しかしこれはまあ考えるまでもないか。
小テストが終わるとプリントを回収する。
そのあとは前回の授業の続きに戻った。結局さっきのは何だったんだろう。
「今日はここまでです。早めに自由時間……としたいのですが、1枚プリントを配ります」
早めの休みに浮かれる中で葉名先生がプリントを渡していく。
今日は小テストだったり授業が早く終わったり色々あるな、それでこのプリントか。
えっと、ボランティアで海周辺のゴミ拾い。その募集用紙だな。
海の写真が載ってるけど泳げるわけじゃないんだよな?
「期間は来週の土日です。希望者は今週末までに私の元に来てください」
もう夏だからな、海の近くは涼しいだろう。でも泳げなかったらナマ殺しじゃないのか、これなら家で涼しくいた方が……。
あっ、みぃからメールだ。
『一緒に海に行こう?』
よし行こうか。
ゴミ拾いでも何でもこいだ。
みぃに返事を返してプリントをもう一度みる。
視界情報をコネッキングが検知して詳細が映し出された、場所は言うほど遠くないな。行き帰りも楽に済みそうだ。
『それじゃあ先生に言っておくね(≧∇≦*)』
『了解 ( ̄^ ̄ゞ』
授業も終わり放課後。
ボランティアの申し込み用紙を先生から貰うために職員室へ。
用意してくれていた用紙を葉名先生から1枚ずつ貰う。みぃと先生はアドレスを交換しているらしい……いつの間にそんなに仲良くなったんだろう。
「ありがとう、助かったわ。正直誰も集まらないと思ってたから」
「うん。それ、じゃ」
「集合場所と時刻は追って知らせるね」
これであとは用紙に親がサインすれば完了だ。
参加者は僕とみぃ、佐鳥に根元。いつものメンバーだ、乙成先輩はゴミ拾いなんてしないだろう。難色を示していたし、ゴミ拾いをしている姿が目に浮かばない。
★
家に帰るとその足でVR……って言うわけにもいかず、リビングで寛いでいる母のところへ行った。
「おかえり、奏。今日は早かったね」
「ただいま。これ、来週に海まで行くんだけど」
珍しく今日は休みということで母はソファーで横になっていた。
とりあえず鞄からボランティアの用紙を渡して台所へ。
「奏がゴミ拾いなんて珍しい……熱でも出た?」
「みぃに誘われたんだよ」
「なる〜」
リビングにお茶を置くと元々ある母のコップに注ぐ、そのあと自分の分を入れた。
寝そべる母を起こして、空いたソファーに座ると一息。
「とりあえずサインしといたよ」
「ありがと」
母から用紙を受け取るとそのまま鞄に入れる。
これであとは提出するだけだな。
「それにしても海かー」
「……母さんも行くなんて言わないよね」
「言わないよー! 行くならきっとお向かいさんじゃないかな」
「みぃのとこ?」
トリアは行くだろうけど、美蓮さんや唯人さんがゴミ拾いとか想像出来ない。
いや、単に旅行とかならあるか。土日であるんだし家族旅行とか……蓮が行かなさそうだ。
「美唯菜ちゃんのお母さんは心配性だからねー、こそこそっと付いて行きそう」
「唯人さんじゃなくて?」
「んー。仕事で行けないんじゃないかなー」
大黒柱だもんな唯人さん。
けど土日まで仕事って……大変だな。
でも美蓮さんだけで行くならまだ納得だ、行くかは分からないけど。
「まあそんなことよりもだよ、何かあった時のためにちゃんとVRゲームしときなよー」
「分かってるよ」
「ならいいんだけどねー……ちゃんと美唯菜ちゃんを守ってやんなさいよ」
母が意地悪気味に笑うのに少しバツが悪くなる。
コネッキングをテレビと同調させて電源を入れると、かかった番組を聞きながら別で攻略情報に目を通す。
スキルの取得条件や職業によって取得する技だったり、魔法の派生欄は見ていて損は無い。貴重な情報を公開しているプレイヤーは少ないけど、オリジナル魔法の考察とかはなかなか面白いんだよな。
それにハルジオンの街から隣街への詳細も載っている。そろそろ違うところに向かってもいい頃合だろうし、今度向かってもいいかもしれないな。……途中にダンジョンもあるのか、一つの街にこれだけあるならWORLD FANTASYの攻略は生涯かかってようやくなのかもしれないな。
「そういえば母さんはWORLD FANTASYなんだよね」
「んー」
「母さんのことだから結構進んでたり」
「しないなー。仕事が忙しいし」
まあイベント期間中全てが仕事なくらいだし。
母さんのことだからきっと有力な何かを持ってそうなんだけどな。昔から母さんにファンタジー系ゲームを教えられたから、未だに偏見を持っているだけかもしれないけど。
「奏こそどうなの? イベント何位だった?」
「ランキングに乗ることは確定なんだね、二位だったよ」
「二位止まりかー。なら『スキルスクロール』貰ったんじゃない?」
「……詳しいね」
「一応ねー」
そこはもう驚かないけど。
母さんはどこで仕入れたかも分からないことをたまに知ってるからな。もしかしたら違うサーバーでランキングに入ったプレイヤーがいたのかもしれないし、300万もサーバーがあったら当然か。
「まだ使ってないけど、スキルを一つ選んで取得できるんだよな。見てみたんだけど、どれがいいか分からなくて迷ってるんだよ」
「結構種類があるんだ?」
「放出系とか強化系とか魔力系とか」
「でも放出系とか強化系は大体が他で代用出来ちゃうんだよね」
だからなんで知って……まあ母さんだし今更か。
でも肝心なところはいつも教えてくれないんだよな、そこは自分で考えろということか。
「魔力系だとするとMP回復量アップとか」
「奏は職業魔術師でもしてるの?」
母さんがこういう場合はハズレだろう。
魔法はどの職業でも使うのにそれを言うということは後々手に入るのか、効果が期待出来ないか。
「他には魔力可視化」
「まあ使うだろうけどねー」
というと僕の中ではコレしかないな。
僕はスキルスクロールで取得するスキルを決めると、お茶を飲み干して立ち上がる。
「テレビ点けとくよ?」
「はいはーい」
テレビとの同調を母に託して、さっそく部屋へと向かう。
することも決まったし早くWORLD FANTASYにログインしないとな。




