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58話



 「瑞輝みずきちゃん! これも付けようか」

 「ちょ、ちょっと待って佐鳥さん」

 「だめだよ。女の子なんだから、ちゃんと選ばないと」


 ついに女認定された根元。いや、あの顔は楽しんでるな。女の子っていうのを強調してたし。

 佐鳥にもあんな一面があるんだな。それか少し頑張ってるかだな。半々だろうか。


 「かなと。これ……どう?」

 「控えめに言って最高だな。独占欲が天元突破しちゃうから試着禁止」


 みぃも下着を持ってきて見せてくる。ブラジャーとかを自分の胸に当てて見せてくるのだ。ほかの男が見たらどうする、殺処分するしかないだろう。

 似合うと言うと、試着して見せてくる。これは我慢が出来なくなりそうだから禁止である。理性が持たないですね、はい。


 「かなと。このパンツ……どう?」

 「……みぃは僕の理性を崩壊させるつもりか」

 「……もち」


 1.家に連れ込む。

 2.ホテルに連れ込む。

 3.我慢……できない。ホテルに連れ込む。←


 「……みぃ」

 「……かなと」


 「美唯菜ちゃーん! これで相馬くんをゆうわ……あっ」


 店内に響く佐鳥の声。そして静まり返る店内。

 店員さんのお会計の声だけが木霊していた。


 「その、ごめんね。美唯菜ちゃん」

 「はんけつ……ギルティ」

 「そんなー」


 崩れ落ちる佐鳥にみぃがパンツで叩くというカオスな空間が出来てしまった。そのパンツ売り物だぞ。いや、そういう問題じゃないけど。

 それに気づいたのかみぃはパンツを元の位置に戻すと、なおも崩れ落ちている佐鳥の頭を撫で始めた。


 「相馬くん。この状況は一体……」


 買い物袋を片手に根元が戻ってきた。

 根元はこの光景を見て少し戸惑っている。周りの人は遠巻きにこっちを見ていた。


 わかっている。この状況だけ見ればどう映るのかは。

 崩れ落ちる佐鳥(女)、それを撫でるみぃ(女)、当然のように隣に来て戸惑う根元(見た目、女)、中心にいる僕(男)。そしてこの場所はランジェリーショップ。


 『修羅場かしら』

 『間違えないわ、修羅場よ』

 『リアル修羅場キター』


 壮大な勘違いである。早くここを出よう。


 「奏。早く行こうよ」


 根元が悪ノリしてきた。胸に当たるよう腕を絡みつかせて、修羅場を演出してくる。

 痛い、みぃの目線が痛い!


 『まぁ! 今がクライマックスね!』

 『まるで昼ドラね!』


 根元の胸が僕を苦しめるが、僕はこのノリに付いて行くわけにはいかない。

 みぃの視線が痛いから! ものすごく痛いから!


 「みぃ。とりあえずここを出よう」


 根元はちゃんと買ったみたいだし問題は無い。根元の腕を引き剥がし、みぃの手を握る。

 みぃの目が優しくなったところで、急いでランジェリーショップを後にした。全く、ヒヤヒヤさせてくる。



 『佐鳥さん。ボク達も行かないと置いていかれるよ』

 『それもそうだね。早く行かないと』


 僕達が店を出てすぐに、根元と佐鳥もやって来る。


 ここは駅前近くのデパート。放課後ゆえか、人がごった返している。

 僕はもう根元の買い物が終わったから帰ってもいいと思うんだけど。さっきので体力使ったし。そんなことを思っていると、みぃが服の袖を掴んでくる。


 「あそこ……いこ?」


 みぃが指差した先はごく普通のカフェ。薄いピンク色の外見にマカロンのクッションが大量に置いてある。……普通ってなんだっけ。


 「いいね、行こう行こう」

 「うん。賛成ー!」


 まさかみぃがそんな事を言い出すとは、少し驚いた。

 みぃは昔から人混みが苦手だから早く帰りたいと思っていたけど。


 「……かなと?」

 「ん? あぁ、行こうか」


 そういえば昔、みぃが言ってたっけ。

 たしか高校の受験が二人揃って受かった時にここまで来たんだったよな。

 『友達ができたら一緒にあそこに行きたいね、奏!』

 あの時は場違い感が凄くて行けなかったんだった、高校生になれば変わるかもしれないって言ってたっけ。


 「みぃ」

 「ん?」

 「行けたな、『友達』と」

 「……うん!」





           ★





 右を見ると青いマカロン、左を見るとハート柄の壁。上を見るとデフォルメされたバンパイア、下を見るとみぃが呼んだ猫が数匹。あっ猫可愛い。


 「かなと、そわそわ……してる」

 「あははっ、相馬くんは緊張してるんだよ。男だと居づらいよね、この空間」


 根元の言う通りである。

 この空間、僕にはハードルが高かった。根元はなんで平気なんだよ。こんなピンク色の空間なのに。


 「それにしてもここ、クリーチャーを呼んでもいいなんてね~」

 「ある程度制限はしているみたいだけどな」

 「それでもだよ。普通のペットも同伴してもいいし、うちのバンちゃんも喜んでるよー」


 バンちゃんというのは上に飛んでる手のひらサイズのバンパイアのことだろうか。佐鳥の声に合わせて周りをクルクル回ってる。


 「わたしの、ねこちゃんも」


 みぃの猫は主の膝でおやすみモードだ。正直変わってほしい。

 みぃの膝をジッと見ていると、もう1匹の猫が僕の膝にくる。おそるおそる撫でてみると、気持ちよさそうに丸まった。


 「相馬くん……頬緩んでるよ」

 「……根元はこの空間でも平気そうだな」


 根元は優雅にコーヒーミルクを飲んでいた。女としているからか……根元は昔から女装している時はこんな感じだった気もする。


 「ボクはいま、女の子だからね。この空間でも平気でいられるんだよ。あと普通に好み」


 砂糖がふんだんに入ったコーヒーミルクを片手に言う根元。甘党な所も昔からだ。


 「かなと、見て?」

 「ん? どうしたみぃ」


 見るとテーブルの上に1枚のカードがあった、絵柄はパフェだな。みぃがそのカードに触ると、光に包まれてパフェが現れた。

 絵柄通りのストロベリーパフェで、どこからどう見ても本物だ。


 「これはすごい。カードでこんなことも出来るんだな」

 「うん。いま、知った」


 みぃは専用のスプーンでアイスの部分を取り、口に入れた。……僕の口に。

 そしてまたアイスを取り僕の口に運んでくる。


 「み、みぃ?」

 「あーん」


 もしやみぃは僕に食べさせるためにストロベリーにしたな。みぃはチョコレートの方が好きだからおかしいと思ったんだよ。でも食べる。流石みぃ、僕の好みを分かってらっしゃる。


 「今気づいたんだけど、『から』のカードを使えば荷物を持たなくても済むんじゃ!」


 佐鳥が何を言ってるかはあまり分からないけど、その空のカードが今のパフェのことだろうか?

 佐鳥は懐から何も書かれていないカードを取り出す。その後に自分の鞄を持ち出してカードを当てた。


 「おぉ~!」


 佐鳥がカードに鞄を押し込んだ瞬間、鞄が消える。そしてそのカードにはさっきまであった鞄が描かれていた。

 これはもしかしなくとも、よくある収納魔法的なやつでは? FANTASYではその魔法は作れないみたいだから、既存の魔法であるだろうけどまだ発見されてないし。しかもそれってノーリスクじゃないか。


 「……いや。でもそのカードが風に飛ばされたり、誰かに取られたりする可能性だってあるのか」

 「カードは所有者設定っていうのがあって、基本的に盗ることは出来ないよ。それに任意でカードを仕舞えるから風で飛んでも問題ないよ」


 現に佐鳥は鞄のカードを消したあと、手のひらに出現させていた。物理法則どうなっているんだろ。

 でもこれって窃盗し放題では……いや、今は至る所にカメラが配置されてるから難しいか。本当に人間も入れそうだな。


 「密売が滞るね」

 「ゲーム内で取引したら見つかりにくいしな。って根元、そんなことしてるのか!?」

 「例え話だよ、それにボクはWORLD CIMだから」


 まあカードはどこかに仕舞えるらしいし、飛行機に武器を持ち運び出来たりな。

 このご時世、簡単にハイジャックなんて出来ないだろうけど。操作は基本的にAIだし、周りはスキルや魔法を操る超人だからな。

 というかさっきから気になっていたんだけど。


 「みぃ、ずっと僕にくれるのは嬉しいけど、みぃも食べなよ」

 「う、ん」


 そういって僕の口にパフェを入れようとするみぃ。僕はそのスプーンを取って、みぃの前に持っていった。


 「ほら、みぃ。あーん」

 「え、あっ、えと…………あ、あーん」


 耳まで真っ赤になりながらも頬張るみぃ。可愛い。

 もう1度みぃに食べさせるためにパフェを掬おうとしたが……凄く視線を感じた。見ているのは根元と佐鳥、ニタニタした顔が気持ち悪い。一体どうしたんだよ。


 「見ましたか瑞輝ちゃん。あれが俗に言う間接ちゅーですよ」

 「見ましたよ真紀りん。よく恥ずかしげもなく出来ますよねー」

 「そりゃもう二人の間には桃色の壁が出来てますからねー」

 「粉砕……したいですねー」


 間接キス、そういやこのスプーンは……。

 だからみぃがあそこまで真っ赤になっていたんだな。そういうことか。うん、そういうことか。


 「あらあら~相馬くんまで真っ赤になっていますよ」

 「やめて差し上げて瑞輝ちゃん。オーバーキルですわよ」


 くぅ……言われたい放題だ。

 だけど、このスプーンがみぃの後だと思うと……。


 「あの顔は変態チックな事を考えている所ですよ、真紀りん」

 「ま、まさかそのスプーンをどうする気で!」


 「……かなと」


 不意にみぃが僕のスプーンを取り上げた。そしてそのまま溶けかけのアイスに突っ込み、僕の前に持ってくる。

 開いた口が塞がらなかった故に、無抵抗のまま口の中に広がる甘酸っぱいアイスの味。


 僕の頭はアイスよりも早く溶けていったのだった。


「瑞輝ちゃん。いつから真紀りんなんて呼んでたの」

「……え」

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