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57話 美唯菜と国語の時間




 着替えの為に教室へ行くと、葉名先生が教卓の前で手を振っていた。


 「せんせー?」

 「ふふっ、次の授業は現国よ。ここにいてもなんの問題もないわ」


 あっ、そうだった。次は国語だった。

 ……なんて、葉名先生は優しいな。今でも私を心配してくれてる。


 「せんせ、ありがと」

 「……なんのことかな? さて、私は次の授業の用意でもしようかしらね」


 私と真紀ちゃんや周りの雰囲気を見て、先生は授業の用意をしていく。

 私も席に戻り、着替え始めた。いつもなら隠していた制服も今は隠さなくていい、なんだかそんなことが少し嬉しかったり。


 皆が着替え終わる頃には男子達が廊下に集まってくる。ざわざわとした廊下の雰囲気に、私達は教室を見回して着替え終わってない子がいるか確認する。皆が着替え終わってるのを確認すると、ドア前の私は教室の扉を開いた。


 なだれ込むように教室に入る男子達。皆が授業の用意をすると、すぐにチャイムが鳴った。葉名先生の授業は久しぶりだな、なんだかワクワクする。


 「はい、授業を始めます。この前は出れなくてごめんなさい、横山先生に頼んでおいたけれど大丈夫だったかな?」

 「全然大丈夫じゃなかったでーす!」

 「え!? そうなの!?」


 先生の言葉に否定の声が上がる。問題なく授業は進んだと思ってたけど……。

 もしかして私のことかな? いやいや、そんな自意識過剰だよね。


 「高江さんが大変だったんだよー!」


 ……私のことでした。あれは私が悪いんだけどね。私が授業を全く聞いてなかったから。


 「それはごめんね、高江さん。横山先生にはキツーく言っておくから」

 「だ、だいじ……ぶ、です」


 私のせいだし、絶対私が恥ずかしいだけだって。

 それに、もうあんなことには……ならないし。というか、私の声なんて絶対聞こえないよね。


 「本当に大丈夫? ……それなら改めて授業を始めます、教科書23ページを開いて。前回から少し間があいたので、復習として私が読んでいきます」


 私1番後ろに座ってるのに聞こえたんだ。耳を澄ませてくれたのかな。

 先生は教科書23ページから、村田さんが授業の終わりまで朗読し続けたところまでスラスラと読んでいく。


 その後は問のページを開き、問題を解いていく。

 前に葉名先生を探していただけあって、こうやって授業をしてくれると安心する。私もしっかり授業を受けないと。


 ……そして暫くして朗読の時間。


 「高江さん…………読めるかしら?」


 一瞬教室内がざわめいた。

 この前の朗読再誕だ。でも、今回は前とは何もかもが違う。取り巻く環境も全て。……だから。


 「はい。読め、ます」


 先生は一瞬微笑んで頷いた。

 静まり返る教室で私一人立ち上がる。周りの視線が集まる中で、真紀ちゃんと目が合った。

 真紀ちゃんは拳を握ってガッツポーズをしてくれる。その姿に少し頬が緩みながら、私は口を開いた。



 ……笑い声がない。嘲笑がない。罵倒もない。声は掠れない。足も震えない。

 それでも心に残る恐怖は未だに潰えない。いつかの記憶が私を蝕んでいく。


 だけどそれに怯えていたら、いつまで経っても変わらない。前に進めない。

 大丈夫。奏も真紀ちゃんも見守ってくれてる。ただ辛いだけじゃないから。



 「……そこまで。良くやったわね、偉いよ」


 気が付けば周りからパチパチと拍手が飛んでくる。そんな大層なことをした覚えはないよ、ただ教科書を読んだだけ。

 それだけのこと……なんだけどなぁ。


 ……それだけのことが私にとって、とても意味のあるもので。



 国語の時間は何事もなく進み、程なくして授業が終了した。

 葉名先生は手を振って教室から出ていく。私も手を振ったんだけど、私じゃないってこと……ないよね?


 「みぃ──」

 「美唯菜ちゃん!」


 私に声をかけようとした奏を、横から真紀ちゃんが遮った。


 「大丈夫? 辛くない?」

 「へいき。ありがと」


 というよりも心配しすぎだよ。

 本当に……ただ教科書を開いて読んだだけで。


 「お疲れさん。みぃ」

 「あり」


 不意に私の頭を奏が撫でる。

 そこでようやく正常に息をしたかのような感覚に陥った。……緊張、していたのかな?


 「ありがと、かなと」

 「ん? 僕は何もしてないよ」


 不思議そうな顔をする奏。まあいつもの事だもんね。

 でも少ない休み時間にこうして来てくれる奏はホント大好きだよ。


 「まきちゃん、も」

 「え? 私がどうしたの?」

 「ううん。なんにも」


 その後すぐにHRホームルームが始まり、5分ほどで解散となった。

 私は帰る支度をして奏を待つ。その間に隣の根元が話しかけてきた。


 「ねぇ、高江さん」

 「ん?」

 「その……ブラの事なんだけど」

 「……せくはら?」

 「ち、違うよっ。この前体育の時に言ってたことだよ」


 あー。確かブラを買うのを手伝うって言ってたような、言ってなかったような。

 でもどっちにしても根元はいま男だから出来ないよね。


 「今日いいかな? 学校のカプセルを使って性転換してくるから」


 あっそっか。一応学校の謎カプセルでもログインが出来るんだ。使ったことないから詳しくは知らないけど。

 アバターとして作るのは一つのソフトがいるけど、確か謎カプセルを使う鍵があればどこでもログイン出来るんだったっけ。学校の謎カプセルは私達も使えるもんね。


 「誰だ僕のみぃを誑かすやつは」

 「そ、相馬くん。そういうつもりじゃないんだよ? 相馬くんもいいなら一緒に……」


 やってきた奏に根元が弁解する。くっ、これ幸いと奏を誘われてしまった。

 こうなったら真紀ちゃんも誘おう。帰り支度をしてやってくる真紀ちゃんの手を握る。


 「まきちゃんも、いこ?」

 「うん! いく! 何かわからないけど行くよ!」


 よし、これで根元に隙を与えないぞ。

 傍から見ると奏のハーレムが出来上がったね。真紀ちゃんは渡さないよ。あれ? なにか違うような。あっそうだ、奏は渡さないよ。


 「それじゃあ4人で行こう。ごめんね付き合わせちゃって」

 「いいよ。力になれるかは別だけどな」

 「私も大丈夫だよ。というか何しに行くの?」

 「あっそれは──」


 本当だよ。まったく油断も隙もない。

 私も力になれるかは別だし。別だし! 多分真紀ちゃんの方が力になれるんだろうし。

 いいもん。私も大人になれば胸の一つや二つ……きっと。


 「そういうことかー。確かにブラ無しは目立ってたもんね」

 「まあね。ボクはそれで良かったんだけど……うん、佐鳥さん達がそんな目をするからだよ」

 「害悪だよ。女として許せるわけないよね」


 よく言った真紀ちゃん。ポヨポヨなお胸で奏を誘惑するなんて許せないよね。

 私はポヨポヨなお腹で対抗するしかないよ!



 根元はそのまま学校の施設に入り、スカートを履いて出てきた。……そのスカートどこから出したの? 盗った?


 「……スカート」

 「返してきなさい! 今ならまだ許してもらえるかもしれないから!」


 おぉ。息バッチリ。

 私の呟きを真紀ちゃんが引き継ぐ。そうだよ、今ならまだ間に合うかもしれないよ。


 「根元……そうなのか」

 「ち、違うよ! これは元々カバンに入れていたもので!」

 「前々から盗ってたの!?」

 「正真正銘ボクの物だよ!」


 そう言って根元はスカートの裏側を見せてくる。中には瑞輝と名前が書いていた。というか一緒にパンツも見えたんだけど……。それを一緒に見たであろう真紀ちゃんが真っ先に口を開いた。


 「根元。その男物のパンツ……」

 「盗ってないからね!」


 なんてものを見せるの! って言うかと思ってたけど……あれ? 反応が違う?


 「女物は盗れなかったということだな」

 「だから違うって! もう、相馬くんまで……。女物も家にあるけど、サイズが合わなかったんだよ」

 「……ならパンツも買わないとだね」


 あれれ? 真紀ちゃんなんか楽しんでる?

 絶対楽しんでるよね! 相手は女の皮を被った男だからね!

 あぁー。奏にも気を付けないといけないのに、真紀ちゃんも……。どうか考えすぎでありますように。


 ★そよ風


 効果

 そよ風を起こす。


 紹介文

 そよ風気持ちいい。夏は最高、冬は最低。

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