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50話 フェイスパーティ


 オフィシャルネットワーク[ツリー]。

 無数に作られる部屋の一つ。その部屋には鍵が存在しなく、46桁の番号を入力しないと入ることが許されない。


 その部屋の名前は[FACE]。

 どこにでもありそうな名前だが、この部屋は特別だ。

 裏社会に踏み入れて約10年、未だに衰えることの無い新生組織。さまざまな所に顔を持ち、規模は結成当時とは比較にならない。10年という短期間でほかの組織からも一目置く程の組織に成り上がった。

 それがこの部屋の住人──“フェイスパーティ”である。


 「そう……根倉は失敗したのね」


 そう呟いたのはフェイスパーティの現リーダー葉名梨子(はなようこ)

 現実の容姿を変えずに作ったアバターに加え、今は狐の耳や尻尾が生えていた。


 「ここ2日間、根倉との接触を止めていましたし私達の姿が公に出ることはないはず」

 「そうね。それに警察は根倉が捕まった事で手一杯のはずよ」

 「放火の件も根倉を中心として調べると思うし」

 「少なくとも当分の間は注意を逸らせるわ」


 問題はオルディネね……と梨子は呟く。

 事実として放火事件の被害者は全員フェイスパーティの一員だ。それなのにその事を警察に調べさせようとしないのは理由がある。

 そして仲間がやられても警察の介入を拒む理由は限られている。


 「梨子ちゃんに疑いの目が掛けられることは今のところないよね」

 「オルディネが私達の存在を嗅ぎつけて来ない限りはね」


 警察とは長年追いかけっこしてきた仲だ、だけどオルディネは違う。

 オルディネは超常の力を誰よりも早く身に付けていると言われる集団だ。まだサービス開始から一週間も経っていないというのに。

 未知の力である以上、梨子達を見つける魔法が出てくる可能性も否定できない。


 オルディネは世界組織だ。しかも能力犯罪に強い権限を持っている。

 警戒するに越したことはない。


 「まあそれでもやる事には変わりなかったけど」

 「足跡を消すためには必要なことだから」

 「おかげで反乱分子も纏めて消せたしね」


 梨子がどうして仲間である構成員の家を放火したのか、それは裏切るつもりでいた者を一網打尽にするためだ。おかげで“保護”という形で警察に連れていかれた後は、何かしらの罪で拘束されている。

 フェイスパーティの情報が必要以上に流れないのは放火時にコネッキングの完全破壊、また梨子の炎がありとあらゆる情報を家と共に焼き尽くしたからである。


 「……ごめんね、詩織」


 不意に梨子が話していた相手、詩織に謝る。

 脳から発せられる情報が謎カプセルを通り、梨子のアバターは困ったかのように笑った。


 「全部わたしの都合で。このフェイスパーティも、何も知らない構成員の皆も、必要があるなら私は」


 切り捨てる。その言葉は詩織の前では言えなかった。

 詩織はそんな梨子を見て柔らかく微笑んだ。


 「いいんだよ。私は梨子ちゃんの友達としても、フェイスパーティの一員としても、梨子ちゃんを手伝うって決めてるから」

 「……詩織」


 それは言外に切り捨てられる覚悟が出来ているということ。


 「やっとDIM(ディム)の情報が掴めた、それを売ろうとしたヤツはもうフェイスパーティじゃないよ」

 「……うん。DIMに悟られて尻尾を切られるわけにはいかないからね」


 DIM(ディム)

 正体不明の大組織。構成員から主な活動、その規模など様々なことが不明。活動の痕跡はほぼ皆無であり、足跡を辿るのは至難のわざだ。

 また、仮にDIMを捉えたとしてもトカゲの尻尾のように切り離されて本体に届くことはない。


 「10年……駆けずり回ってやっとの思いで揃えた情報を、(ひとみ)へと通じる道をこんな所で無駄になんかできない」

 「貝原(かいばら)瞳さん、フェイスパーティの初期メンバーだった人……」

 「そう……。私の、私たち(・・)の仲間でもあり、九地大介の恋人でもあり……私の大親友」


 それを聞く詩織は少し寂しそうな顔をするが、梨子をみて表情を変える。

 梨子の顔が苦渋に包まれていたからだ。


 「あの時に私が瞳を救えていたら……」

 「……梨子ちゃん」


 かける言葉が見当たらない。詩織は梨子の言うあの時を知らないから、その痛みの半分も背負うことが出来ない。

 過去にも梨子から聞いたことがある、貝原瞳という人物はある事件を切っ掛けにDIMに攫われた。DIMが堂々と活動した数少ない事例である……といってもすぐに痕跡は消えたのだが。

 だとしても当時学生だった梨子に追いかけるすべなどない。大人は頼りにならなかった。


 「ごめんね、こんな話するつもりはなかったんだけど」

 「いいよ。それにまだ可能性はあるんだよね、その……貝原さんのこと」

 「うん。死体は発見されてないから」


 可能性が無いわけではない。ただ低いだけだ。

 貝原瞳が攫われて10年たった今、まだ見つかってすらいない。もしかしたら山や海にでも捨てられている可能性だってある。

 それでも可能性があるなら突き進むしかない。


 「それにもし万が一があったとしても…………弔ってあげたいから。覚悟は出来てる」


 出来てない。

 でもそんなことは言えない。

 こんなにフェイスパーティを酷使して、手段も選ばずにいるのに、藁にもすがる気持ちでやっていたなどとは口が裂けても言えるわけがない。


 詩織は気付いていた。もう何年友達をやっていると思っている、そんな言葉が詩織の頭を通り空へと消えた。

 それでも貝原瞳には敵わないだろうなと思ったからだ。これだけ想われていることに若干の嫉妬を感じながら、それを隠すように笑みを浮かべた。


 「絶対生きてる。大丈夫だよ、こんなに梨子ちゃんが頑張っているんだもん」

 「詩織……」


 似合わない、梨子は詩織を見てそう思った。詩織には作り笑顔は似合わない。

 それでもその笑顔に梨子は救われる。梨子が言えない言葉を詩織が言ってくれる、詩織がそう言うなら梨子もそう思えるように。


 「そう、だね。……うん。ありがとう、詩織」

 「それじゃあそろそろ私は“オルディネ”に行ってくるね」

 「そんな時間なのね。危険が付きまとうけど、こんなこと詩織しか頼めなくて……」

 「ううん。ほかの人達だとバレる危険があるし、裏切る可能性もある。それに私が言い出したことだから」

 「気を付けてね」

 「うん」


 詩織は手を振るとログアウトボタンを押し、その場から消えた。

 いざとなれば詩織でさえも切り捨てるつもりの梨子は、心の中で何が「気を付けてね」だ、と一人愚痴た。それでも手段は選ばないと決めたのだ、裏社会に足を踏み入れると決めたあの日から。

 どうか自分にそんな選択をさせないでと、やってきた非道を棚に上げてただ願う。


 「やれるだけの事はやった。あとはDIMとの接触機会を図るだけね」


 しばらくして梨子は[FACE]から出ると、膨大な電脳の海へと足を伸ばしていった。




5章もやっと終わりね。

これなら6章はいつ終わることやら。

え?ちょっと待ちなさいよ!6章私の出番ほぼ無いじゃない!(よてい)

というか誰よ!乙なんとかってヤツは。それより私を出しなさいよ。私とミーナとの

ねぇ! ちょっとわかって────


────こほん。

いつも見てくれてありがとうございます。

また6章でお会いしましょう。

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