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49話 佐鳥真紀とみいな





 ズキンっと全身を駆け巡る不快な痛み。

 それは断続的に続き、私の意識を蝕んでいく。



 熱い。燃え盛る炎にこの身が焼かれているかのよう。

 きっとこの熱は私を溶かしていくのだろう。



 寒い。もはや感覚のない身体は、まるで冷水を浴びた石ころのよう。

 意識が凍っていく。全てが冷たく霞んでいく。




 温かい。手のひらから伝わる優しい温もり。

 何かが流れ込んでくる。これは一体なんだろう。


 手のひらが……温かい。


 温かい、手のひら?


 手のひら、手のひら。



 手が……温かい。



 「みいな、ちゃん」

 「……おはよ、まきちゃん」


 気がつけば隣に大切な人がいた。



 涙を堪えて笑みを浮かべる彼女を見て……少し泣きそうになった。


 今でもどうしてこんなに思ってくれるのかは分からない。

 友達だからっていう理由で、ついこの前なったばかりの名ばかりの友達に。


 それでもずっと傍に居てくれたことを感じた。

 彼女の笑みを見て。零れ落ちそうな雫を見て。

 繋いだままの温かい手を感じて。



 「ありがとう」


 それから。


 「ごめんなさい」


 私は美唯菜ちゃんが狙われていた事を知っていたはずなんだ。それなのに私はまた自分を優先して逃げた。美唯菜ちゃんが危険な目に遭うのを見て見ぬふりした。


 「私はあの男が美唯菜ちゃんを狙っていたのを知っていたのに。それなのに何も言えなかった……何も出来なかった」


 驚いた顔の美唯菜ちゃん。

 そっか、それもそうだよね。

 知るわけない。


 私はあの男を知っていた。

 元々繋がりがあった大黒や村田と同じように私も繋がりがあった。といっても村田の後ろにいるだけの存在だから詳しくは知らない。

 それでもあの男やその組織の怖さは肌で感じていたんだ。気分次第で私の生き死になんてどうにでも出来る、そんな恐怖感があった。


 だから今回みたいなことが起こってしまった。

 原因は私にある。全部包み隠さず言おう。きっともう私を……友達とは言ってくれないだろうけど。


 「うん。ゆるした」

 「…………え?」


 どうして。

 意味がわからない。

 ゆるした? 何を? なんで? どういう理由があって?

 私なら簡単には信用できなくなる。

 普通はそんなこと言えないよ?


 困惑する私に、手に伝わる温もりが消える。

 その代わりに穏やかな温もりが私を包み込んだ。


 「わたしも、あり、がとう」


 消え入るかのような小さな声が私の耳元で発せられる。

 急なことで戸惑う私に構わず、美唯菜ちゃんが小さく呟くように言う。


 「あのとき、庇って、くれて」


 脳裏に美唯菜ちゃんを押してすぐに足を撃たれた時のことが浮かんだ。

 でもそれは必死で、自分でもどうして体が動いたのか分からないくらいで。


 「手を、ひろげて、みえないように、して、くれて」


 二発目のことだ。

 それも美唯菜ちゃんが危ないと思ったからで、視界を無くして少しでも美唯菜ちゃんに銃弾が当たらないようにって。


 「ごめんなさい」


 なんで謝るの?

 私が悪いのに。

 私のせいで美唯菜ちゃんが


 「わたしのせいで、まきちゃんが、傷、ついた」


 ──っ!!

 それは元はと言えば私のせいで


 「わたしが、げんいん、だから。まきこんだの、わたし」


 そんなの美唯菜ちゃんが悪いわけじゃない!

 それこそ狙われていたのは美唯菜ちゃんで。


 「きっと、わた、しの、まわりに、いるとっ。……あぶなくて」


 ふと気づけば美唯菜ちゃんは少し震えていた。

 それは美唯菜ちゃんのせいじゃない! そんな言葉は喉から外には出てこなくて。


 「まき、ちゃん、だって、すごい、血が」


 体を包む腕が強くなる。

 涙を我慢したような鼻声が私の中に入っていく。


 「トリアが、いなか、たら、まきちゃん、は」


 そこまで酷い状態だったことに驚いたけど、それよりも私は改めて美唯菜ちゃんを凄く大切だなと思った。


 優しい彼女は私がしたことよりも、私を案じてくれた。

 もしかしたら抱える必要の無い罪悪感からなのかもしれない、例えそうだとしてもそんな風に思ってくれていた。


 「わた、し。わたし、誰か、と、いっしょに、いたら」

 「美唯菜ちゃん!」


 強く美唯菜ちゃんを抱きしめる。


 私はダメなやつだ。

 いつも逃げてばかりで、その分誰かが不幸な目に遭う。仲良くなってもいつ裏切るか分かったものじゃない。そう見られていても不思議じゃない、私の近くにいるだけで不利益を被る。


 けれど美唯菜ちゃんは違う。

 逃げてなんかいない。学校の時も、さっきだって。

 美唯菜ちゃんはずっと立ち向かって……声が出なくなっても、その身が危険な時も、どんな時だって!


 「美唯菜ちゃんがその事で苦しい思いなんてしなくてもいいんだよ!」


 こんな私が何を言ってるんだって思うけど……こんな私だからこそ言えることがある。


 「ずっと、ずっと辛い思いしてきてっ、それでも頑張って立ち向かってきて、それなのにこれ以上苦しむ必要なんてない!」

 「で、でも」


 美唯菜ちゃんは私とは違う。


 「苦しいのをこれまで耐えてきて、余裕なんて無いはずなのに、それなのに誰かを心配することが出来る……誰かの為に動くことが出来る」


 だから


 「そんな、そんな頑張っている優しい美唯菜ちゃんのそばに……私は居たいっ!!」




  ……ん?

 「……え?」




 今のって……こくはっ──



 「違う違うちがう! いや! 違わなくて! 美唯菜ちゃんのそばにいたいっていうのは本当なんだけど決してそういう意味じゃ! あれ? そう意味じゃなかったらどういう意味なんだー! え、あっ、えっと」


 な、なな何を言ってるんだ私はーーーー!!

 あんな告白紛いなこと喋って! 真っ赤になってる美唯菜ちゃん可愛いかっ……じゃなくて!

 あー! どうしよう。なんだっけ! 何を言おうとしたんだっけ?! だいたい私にそんなこという資格なんて──


 「ふ、ふふっ」


 「み、美唯菜ちゃん?」


 なんでか知らないけどウケたっぽい。

 良かったー! いやいや良くないから!

 あっ、でもなんだかこの笑顔を見ていると落ちつ……


 「だから違うって!」

 「……まきちゃん?」


 首を振って自分に否定したのが声に漏れていたみたいで、美唯菜ちゃんが首を傾げる。


 「いや、なんでもない……です。はい。自分の想像? 妄想? 想いを否定していただけで」


 私の言葉に美唯菜ちゃんはもっと分からなくなったみたい。うん、そうだよね。

 でも笑顔に見蕩れてましたなんて言えないから。


 「……あり、がと」

 「美唯菜ちゃん?」


 突然のありがとうに疑問に思う私。

 何のありがとうだろ? 笑いを提供したことかな?


 「そばに居たい、って……言ってくれて」


 そんなことを思っていた私は思わずいつもより流暢なその言葉と、穏やかな声音に固まった。


 「ずっと、こわかった。だれも、関わりたくない……と、思って」


 「関わっては、いけないって、思って。だか、ら」


 「だから、嬉しかった」


 抱きしめる腕が強くなる。

 でも、止められない。


 「私も、そばに、居たい。でも、きけん……で」

 「構わない!」


 こんな私をまだ信じてくれる。

 そばに居たいと言ってくれる。

 それなのにどうして危ない目に遭いそうだから近付かないなんて言えようか。

 どうして私の資格うんぬんで離れられようか。


 そして私はあれだけしておいてまだ、美唯菜ちゃんの隣に居たいのだ。


 「もう二度と恐怖に負けて友達を裏切りたくない! 危険だっていうなら、私が美唯菜ちゃんを守るから!」


 私の力なんてたかが知れてるけど。

 でも何もしなかったり、逃げ回るよりずっとマシだ。私は私を信じてくれる美唯菜ちゃんの力になりたい!


 「なら、私も、まきちゃん……守る」


 「守ら、れて、ばかりは、いや……だから」

 「…………うん」


 もう守られる価値がとか言わない。これはきっとそういうことじゃないから。

 私のケジメがまだ付いていないとか、今更わたしがとか思っていても、全てを二つ返事で「許す」って言ってくれた彼女にこれ以上わたしが食い下がれる道理などない。


 そばに居たいって言うのは本当で、それは主従関係みたく上下があるようなものじゃなくて……隣で笑い合える友達として。


 全てをリセットして初めからやり直す。

 そこには過去に起きたこと、しでかしたこと、やられたこと、その全てに禍根を残さないこと。どちらも引け目を感じさせないし、どちらも引け目を感じない。

 私にはまだ難しいけれど、いつかそういう風になれたら。

 美唯菜ちゃんが望んだやり直しを、私も……


 「美唯菜ちゃん。改めて言うね」

 「…………なに?」


 少し離れて手を掴む。

 目を合わせて口を開ける。


 「私と……友達になってください!」


 少しの沈黙の後、美唯菜ちゃんの表情が大きく変わった。


 「わたしたち、もう、友達……でしょ?」


 歯を出して楽しそうに笑う姿に少し見惚れてしまって返事が遅れてしまった。


 「……うん、もちろん!」


 だけど肯定の言葉を口にすることに変わりはない。

 私達は過去に起こったことで悲しみや苦しみを抱えている。

 自己満足という名の罪悪感は息をするように沸き起こり、なくなることは無い。

 けれど少しづつでも無くしていけるように。私達がいつの日か本当の意味で友達だと言えるように。


 これが私たちのリスタート第一歩目だ。

 

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