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48話



 「まき、ちゃん……まきちゃん!」


 真紀ちゃんがどんどん冷たくなっていく。どれだけ抱きしめても温かくならない。涙は意味をなさない、涙を流しても事態は解決しない。

 どうすればいい! どうしたら真紀ちゃんが助かるの?! はやくしないと!!


 「……貴女の想い。確かに受け取ったわ、佐鳥さん」


 ふと気づくとトリアが真紀ちゃんの側で優しく微笑んでいた。そして素早くカードを出現させ、真紀ちゃんに当てる。


 「『最上級の癒し』を」


 瞬間、真紀ちゃんを中心に緑色の光が沸き起こり、溶けるように傷口へと吸い込まれていった。

 黄緑色の心地よい風が辺りを包み込み、やがて消えると傷口は塞がっていた。


 「これでも流した血は戻らないわ。油断は禁物よ」


 それでも顔色はさっきよりずっと良くなってる。

 トリアのおかげで真紀ちゃんは息を吹き返した、ひとまず安心。でもこれ以上真紀ちゃんを傷つけさせるわけにはいかない。


 「ミーナ。ミーナはここにいてちょうだい。あの男の目的はミーナだと言ったのよ、これ以上ミーナが危険な目に合わせるわけにはいかないわ」

 「で、でも」

 「分かってちょうだい。それに私やミーナ以上に(はらわた)が煮えくり返っている人もいるみたいだから」


 私とトリアを囲むように結界が張られる。

 トリアの傷はもうすでに完治している。私も傷一つない。だけど外には行かせないかのように張られる結界は奏の意志のように感じた。


 「それにミーナには佐鳥さんの傍にいてあげないとね」

 「そう、だね。うん」


 奏の方を見ると辺りに黄色い稲妻みたいなものが駆け巡っている。

 いつもは隠している翼を広げて、その近くに青白い光が浮かんでる。表情は無く、あれは相当怒ってるなーと呑気に思ってしまった。





          ★






 現実での動作を確認するために魔法『サンダー』を発動させる。VR世界と同じなのを確認し、ショックを発動させる。

 手元に電気が走るのを確認すると男──根倉といったか、根倉を視界に据える。遠慮はしない。


 「くっひゃひゃ! そんなに怒ってどうしたんだい? ってそりゃ愛しの彼女が狙われてんだからなぁ、当たり前といっちゃ当たり前かぁ」


 そうじゃない。

 僕が怒っているのは自分自身にだ。

 こうなるまで何も動けなかった。佐鳥が命を賭けて状況を打開させなければみぃは今頃……。自分の無力さに腹が立つ。


 「少年、もう一度言う。離れていろ。ヤツが満身創痍でも何が起きるかわからん」


 隣で銃弾を込めている九地さんが顔を合わせずに言う。

 僕の状態を見ればそうなるか……。それでもまだ僕は冷静だ。

 それに。


 「言ったはずです。黙って見ているほど心に余裕は無いと『魔力玉』『魔力剣』『ショック』」


 生み出した魔力玉を剣の形に変え、魔法の『ショック』で電気を通す。さしずめ雷の剣といった所だろう。

 僕は魔力付与を足に追加で掛けると根倉の元に走る。みぃを狙った代償を支払ってもらう!


 「向かってくるなら間違って殺しても文句言えねぇぞ! [筋力強化][柔軟性強化][俊敏強化][苦痛軽減][反の……チッ」


 近づいて斬る。

 斬ったつもりだが間一髪避けられたようだ。片手を伸ばしキーを唱える。


 「『サンダー』」


 手のひらから噴出される電は、腕をクロスすることで防がれた。

 多少焦げているがそれだけだ。

 切り返しにもう一太刀。


 「なっ!」


 当たると思ったが根倉は足を上げて靴で抑えてきた。

 ……切れない!


 ──パンッ


 剣と足の硬直を割るように銃声が鳴った。根倉を狙った弾丸。だがしかし根倉は間合いを取るように飛び下がり、掠めるだけで終わった。


 「少年。あまり無闇に飛び出さないでくれ、心臓に悪い」

 「……あの靴は」

 「耐刃性だろう。といってもその剣みたいなやつでも防げるのかは知らなかったが」


 多分防弾も兼ねているだろうな。根倉の肩や脇からは血が流れているが、他に撃たれたところもあったはずだ。

 それに根倉は腕を使っていた(・・・・・)。動かないはずの腕を無理矢理動かしているのか?


 「『インパクト』」

 「なっ!」


 ほぼ直感で剣を盾のように向ける。

 魔力剣から伝わる衝撃を後ろに逃がし、突進してくる根倉をまた剣で受け止める。


 「クヒッ喋ってる余裕があるのかぁ」


 予想以上に蹴りが速く重い。

 このままだと!


 ──パリンッ!!


 くそっ! 剣が壊れた!

 がら空きになってしまった所を根倉はすかさず回し蹴りを放つ。


 「『バレット──加速』」


 九地さんの銃弾がピンポイントで根倉の足を穿つ。

 一瞬鈍くなった足撃を一歩引いて躱し、右手に魔力付与を施す。握り拳を作り、一歩前に踏み込み拳を前に突き出した。


 突き出した拳は顔面にクリーンヒットし、根倉を大きく吹き飛ばした。

 魔力付与により加速された足は、吹き飛ぶ根倉に追いつき追い打ちをかける。


 「そこまでだ、少年」


 腹に拳が届く寸前、見ると根倉は気を失って倒れていた。


 「それ以上は過剰防衛だ。ただでさえ静止の声を聞かずに根倉と対峙したというのに闘志満々での能力行使、これ以上すると俺は少年を捕まえないといけなくなる」


 九地さんは根倉の元へ歩いていき、ポケットから手錠を取り出す。

 その手錠は銀色ではなく、黒色に染められていた。


 「17時04分。銃刀法違反及び殺人未遂、加害的能力使用の現行犯で逮捕する」


 カチャリ!! と音が鳴り根倉の手首が拘束される。

 瞬間、体を包み込むように黒いモヤが出来て吸い込まれていった。


 「今のは?」

 「対能力者用手錠だ、ゲームで手に入れた能力の封印が出来る。犯罪軽度で能力封印の重度は変わるが、こいつは1級……全ての能力がロックされる。安心していい」


 ……終わったのか。

 九地さんはコネッキングで誰かと話しだす、きっと事後処理があるんだろう。


 僕は根倉を見て少しやりきれない気分になった。確かにこれ以上すると根倉は命の危険に晒されるだろうし、別段殴り合いたいわけじゃないんだけど……。ただ、なんていうか……悔しい。

 トリアを見て、みぃを見て、佐鳥を見て、僕は己の弱さを感じた。九地さんが割って入ることがなければ最悪の事態だってありえた、自分の力を過信していたのかもしれない。

 今度こそとは思うけど、今度なんてない方がいいに決まっている。それでも今度があったなら──。


 「かなと」


 ふと気づくと隣にみぃがいた。僕の手を強く握っている。


 「まきちゃん」


 あぁそうだな。

 今はあれこれ考える場合じゃない。

 佐鳥の傷は塞がったみたいだが、危険な状態なのは変わらない。早く病院へ連れていかないと。


 「病院の手配はした。じきに救急車が来るだろう」


 九地さんの通話が終わったみたいで佐鳥の近くに寄る。

 塞がれた傷口を見るとトリアに顔を向ける。


 「何をしたかは知らないが傷が塞がっている。細菌など感染症の危険性はあるのか?」

 「いえ、ないわ。これは[そういう]ものよ」

 「なら一先(ひとま)ずは安心だな」


 僕は手を握り返すと、みぃの手の震えはようやく止まった。

 ……ダメだな。手の震えすらさっき気付くなんて。


 救急車はもうすぐ来るだろう。佐鳥のことも安心していいだろう。なら僕は自分を悔やむよりも重要で優先すべきことがあるはずだ。


 僕はみぃを優しく抱きしめ、ゆっくり頭を撫でる。


 「頑張ったな」

 「……うん」


 怖かったのに、辛かったのに、みぃは精一杯頑張ったもんな。

 みぃが今ここにいることを肌で感じる。本当に無事でよかった。

 

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