40話 九地大介
あるアパートの2階中央。俺は気を引き締め、周りの部下と目配せをする。頷き合うとインターフォンを押した。
ピンポーンと間の抜けた音が響くと同時に、何か大きな物が倒れるような音がする。
そしてしばらくすると、コネッキングを通して部下から通信が来た。
「ホシが逃げました! 現在数人で追跡中ですっ!」
「──チッ!」
裏の窓から飛び降りたのか、あそこも張らせていたはずだが。いや、今は考えるだけ無駄だ。
「すぐに向かう! 位置情報を送れ!」
「はいっ!」
すぐさま届いた情報を元に動く。
サイレンを鳴らし車を走らせ、ホシを囲むように追跡する。相手は1人だが油断をする訳にはいかない、この化け物だらけの世の中で油断をすると足元をすくわれる。
犯人を上手く誘導させ、数台の車でホシの行く手を遮る。足で追っていた部下達とで完全に取り囲んだ状態だ。俺は車から出て1枚の紙を見せた。
「根倉壮治! 逮捕状が届いているっ! 速やかに投降しろ!」
日が落ち月明かりが注ぐ中、車のライトがホシを照らす。もう逃げ場は無い。
だがホシは一瞬歪んだ笑みをしたかと思うと──。
「……消えた、だと!?」
一瞬にしてホシの姿が消えた。
「チッ!! 探せ! まだ辺りにいるはずだ! 絶対に逃がすなっ!」
咄嗟に指示を出しながら考える。
一瞬で移動した?
ただ姿を消したか?
どちらにしても厄介だ。
移動したならどこに行った? 姿を消したならいつまで続く?
こうなるなら少しでもWORLD SIMの資料に目を通しておけばっ!
クソッ!! 完全にやられた!
根倉壮治。
放火被害のあったフェイスパーティの構成員からの情報を元にすると、フェイスパーティの構成員でNo.2と言われている人物だ。
大黒 駿を契約書スキルにて死に追いやり、高江美唯菜を誘拐するよう命令を下した張本人でもある。
他にも殺人教唆や薬など色々とやっていたことが分かっている。今回の放火事件にも強い関わりがあるのは間違いない。
奴を捕まえることで事件は大きく進むはずだったのだ。
「クソッ!!」
集中捜査は夜が明けるまで続いた。がしかし、結局ホシは見当たらず姿をくらましてしまった。
今頃どこか人目のないところで潜んでいることだろう。
クソッ! 街中に厳重監視体制を引いたが、こうなっては簡単には見つからないだろう。だがやっと掴んだ手がかりだ、そう簡単に逃してたまるものか。
「警部補。コーヒーです、眠気覚ましにどうぞ」
「あ、あぁ。助かる」
部下が淹れたコーヒーを片手に地図を見る。まだ、まだこの地域に潜んでいるはずだ。今捕まえないと、次は今回みたいに易々と身柄を掴めないだろう。今回で仕留めるのだ。
「警部補。高江美唯菜の件ですが」
「こんな時になんだ?」
「ホシが狙っていた理由が未だに掴めていません。また、身辺を洗いましたがこれといった何かはありませんでした」
「……今はそれよりもホシを追うことに専念しろ。全ては捕まえたら分かる」
「はっ!!」
とは言ったものの、それは不自然だ。ホシの居所やフェイスパーティの立ち位置……そういった重要な情報は手に入るにも関わらず、犯行動機や高江美唯菜個人についての有益な情報は手に入らない。
ただの見当違いな可能性も否定出来ないが、そうでないとすると明らかにおかしいだろう。
これは一度接触してみてもいいかもしれないな。ホシがまだ高江美唯菜を狙っている可能性もある。
……仕方ないか。
俺はコネッキングからある人物に電話をかけた。
✩ ✩ ✩
「ずいぶん急な呼び出しね。私も暇じゃないんだけど」
険のある言い方に少し苦笑いをする。
人ひとり居ない寂れたバーに俺ともう一人、長い黒髪に狐の耳を生やした女だ。相変わらず昔から変わらない。
「そういうな、俺とお前の仲じゃないか。フェイスパーティ、現リーダー…………葉名梨子」
今は教師もやっているんだったか?
葉名は視線で酒を頼み、俺達は盃を交わす。
こうするのは何時ぶりだろうか、昔はツルんでいた4人で良くやったものだ。
「……それで、一体何のよう?」
それなりに酒が回ってきた頃、葉名が本題へと話を進めた。
「分かっているだろう? 今起きてる騒動のことだ」
放火事件の被害者、その大半がフェイスパーティの構成員だということ。
高校での乱闘時、大黒駿に高江美唯菜を誘拐させようと指示をしたのはフェイスパーティのNo.2根倉壮治だ。
ここまでくると関係がないと言い逃れは出来ないだろう。
「根倉壮治のことね。ここまでするとは少し予想外だけど」
「お前が指示したのか?」
「いいえ、全て彼の独断ね。といっても行動を起こすのは予想していたけど」
「ならどうして」
伝えてくれなかった! と言いかけて止めた。
それは警察である俺達の領分だ。それに俺達の繋がりを示唆する言動は避けたい。
……それが少なからず被害があったとしても。
「なんにしても今回の件で、私は表に出る訳にはいかないのよ」
「……理由があるのか?」
「瞳」
っ!?
たったそれだけで俺は察した。
……そうか、掴めたか。
「ならどうして高校での時に高江美唯菜を助けたんだ」
「あの状況では助けない方が不自然よ。……それに私は教師だから、助けるのは当たり前」
「……そうか」
「……そうよ」
しかし、それならこれ以上聞くわけにはいかないな。警察が下手に関わると俺達の目的が遠ざかる可能性がある。
「根倉のことは私の方でも探しておくわ、見つけたら情報を送る」
「あぁ」
高江美唯菜の件も聞いておきたいが、葉名が喋らない以上は俺が関わるとマズいのだろう。
俺が言えることは瞳の事だけだ。
「瞳のこと、頼んだ。俺に出来ることがあったら言ってくれ、何でもする」
「心配いらないわ、私が必ず掴んでみせる」
そう言って葉名は店を出ていった。
俺は財布から煙草を一本取り出し咥える。最近は禁煙していたのだが、今日ばかりはいいだろう。
指先から火を出し煙草に付けて吸い込む。肺に広がる煙を味わいながら大きく息をした。
煙草独特の臭いが店内に広がり、煙の行く先をボーっと眺める。
見つけたのは1枚の紙切れ。そこには今日頼んだ酒代が書かれていた。
「あのやろうっ、伝票擦り付けて出ていきやがった!」
トリア「ふう……4章が終わったわ。5章では現実世界が舞台よ、ミーナがクラスメイトと会うわ……一体どうなるのかしら。心配が絶えないわね。また5章で会いましょう」




