相馬調とVR
世界中を湧かせた五感体験型VRMMOゲーム[WORLD]。
そして世界中を揺るがした三作品、[WORLD FANTASY]、[WORLD CREATURE]、[WORLD CIM]。
これらは同ゲーム会社から発売された。しかし何故世界中を混乱させるであろうはずの三作品を、国が販売中止や販売規制をさせなかったのか。
それはしなかったではなく、出来なかったが正しいからである。
世界に影響力のあるゲーム会社、そんな意味の分からない会社は存在していた。
それこそ絶頂期の石油輸出機構と肩を並べるほど。圧力を掛けられるほどの国は圧倒的に少なかった。
そして一つの国がそれを受け入れると、他の国も受け入れざるをえない。国一つが超常を操る集団になりうるからだ。
そんな会社[イコジン]はコネッキングの開発を初めとして、ホテル経営や飲食業など幅広く活動しており、ほとんどの会社は[イコジン]との契約がされている。
そのため従業員は数多くいるのだが、中でも異彩を放っているのは三種類のWORLDを制作、運営をするチーム[PROJECT WORLD]である。
エリート揃いと言われるそのチームは、末端の末端でさえも他の会社から喉から手が出るほどの人材だ。もちろんそれはWORLDシステムの機密性を考慮しなくてもである。
だがしかしチームそのものの存在は周知の事実であるが、人員などの詳細は最重要機密であり一部を除き知る者はいない。
「相馬室長。G地点の空間補正による数値が予定値より大幅に下がっている件なのですが」
「はい、聞いています。ちょうどG地点への干渉パーセンテージを30%から5%引き上げるよう先程の会議で決まったところです」
「分かりました。ですが空間断裂を起こすリスクを考慮するとすぐには上げることが出来ませんが」
「それに関しては──」
相馬 調。
一人の子を持ちながらも室長と呼ばれたその人は、ゲームシステムを支える柱のような存在だ。
ゲームの開発当時から色々と問題があったのだが、その手腕で解決へと導いてきた。最も会社に貢献している内の1人であろう。
「室長、もう休憩の時間ですがご一緒しませんか?」
「すいませんが昼過ぎまでに片付けておきたいタスクが残っていますので」
チーム内での評判は良好。素っ気ない態度と口調で接しているのにも関わらず、クールビューティだのそこがいいだの言われたい放題だったりする。
といってもさっき誘いを断ったのは本当に仕事が残っていたからではあるが。
それでも面倒見のいい彼女は、チーム全員を見渡して何かと世話を焼いていたりする。エリート揃いの職場に、世話を焼かせるだけの隙などあるかどうかは甚だ疑問なのだが。
「あぁ~! つかれたー!」
「お疲れさま、はいコーヒー」
「ありがとー……唯人、なんか今日はご機嫌だねー」
少し遅れての休憩中、机に突っ伏した調に唯人と呼ばれた男が缶コーヒーを片手にやってくる。砂糖たっぷりのやつだ。
調は貰った缶コーヒーを開けながら唯人に聞いた。いつもより声のトーンが明るく、何かあったなと思ったのだ。
「それがねー、初めて娘にお弁当を貰っちゃってねー! ほら! もう感動しちゃって、こんな感動は娘が──」
地雷だった。
この手の話が長いことは昔馴染みのである経験から予想が付いている。
「もったいなくて保存したかったけど、それならあげないって言われてね。それで食べてみたら、ものすっごく美味しいんだよ! これはパパへの──」
凄まじい勢いで娘の弁当について語る唯人に調はもうお腹いっぱいである。
半分くらい聞き流しながら調は、そういえばうちの息子から弁当貰ったことないなぁ……今度お願いしてみようかなとかをぼんやりと考えていた。
「そういえば奏くん、もうアーデルベルトを倒したんだって?」
「そうなんだよー! 小さい時からファンタジー系のVRゲームをさせておいて正解だったね」
「……調、それは」
「内情を知る者の特権だね!」
イカサマである。
といっても幼い頃からVRゲームをしている子供なんて珍しくない。ギリギリセーフ、ギリギリセーフである。
「体術もしっかり教えておいてよかった」
「ハルジオンの街周辺に倒しやすいワールドエネミーを配置したのも、責任者の調なら簡単なこと……っと」
「ししし知らないなぁ! なななんのことかなぁ」
ワールドエネミーは自由にフィールドを動くが、その初期位置は決められている。
もちろん室長の調からしたら、初期位置を都合の良いように決めることなど造作もないことだ。
「まぁ実際に倒すのを手伝ったわけじゃなさそうだけど、下手すると懲戒免職だから気をつけなよ」
「分かってるよ、そこはちゃんと守ってる。それに唯人だって娘が友達といつでも遊べるようにAI増やしていたでしょ?」
「それはシステム上仕方ないことだって」
「はいはい、わかったわかったー。それじゃあ仕事に戻るとするよー」
そう言った調は、さっきまでの緩い顔を固く引き締める。完璧仕事モードだ。
唯人はそれをみて手を振り返事をする。いつみてもオンオフの差が激しいと心の中で思いながら。
それでもチームメンバーでこの事を知っている人は少ないだろう。なにせ仕事が終わるとすぐに帰る上に、オフの状態でもメンバーによっては仕事中と変わらない場合もあるのだから。
「室長、問い合わせの件ですが──」
「室長。週末の──」
「しつ──」
仕事に戻った調は大忙しである。
それでも並の職員なら目を回し卒倒する現場を冷静に……それでいて的確に片付けていくのだ。
「XX-2にてハッキングが仕掛けられています。これより逆探知および防衛に入ります」
「ついでにKN-9からのもお願い。途中のタスクは私に回して」
エリート揃いのチームでも休む暇なんて皆無だ、むしろ仕事が追い付かないなんてザラである。
「瑞国の力場が安定しません。重力崩壊の危険性が──」
「WORLD CIMの特別取り引きによる契約書が──」
「警察からの──」
「室長、擬似空間にて会議の──」
そのうえ室長である調は他よりも仕事量が多い。そんな鬼のような忙しさの中、顔色一つ変えずに対処する調は本当に人間なのかと疑われるほどだ。
もっともWORLDのスタッフは他から見たら全員人間かと疑われるレベルなのだが……。それくらいでなければ三つの世界を管理、現実世界の対処など出来るわけもないのである。
「お疲れさまです。お先に失礼します」
夕方。夜勤でシステムを見守る人達が出勤してきたことにより、仕事から解放された調はすぐに部屋をでる。
そしてそのまま隣の部屋へ向かい自然に扉を開けた。
その部屋は出社や退社用の職員専用謎カプセルが置かれてある部屋だ。
基本的に外からの出入りはしない為、こうして移動用の謎カプセルが設置されているのである。
謎カプセルを使い、家までネットを伝って移動する。
調の部屋へと着くと、謎カプセルを開けて背伸び。今日も一日疲れたと独り愚痴り、晩御飯の用意をするために部屋を出る。
「おかえり。母さん」
扉を開けてすぐに奏と目が合い、おかえりを言ってくれる。
一日の疲れを癒すような、心が満たされていく感覚。
この瞬間の為に働いているかもしれない……等と調は思いながら、ギュッと奏を抱きしめた。
「ただいまぁー! 奏ぉ!」
「ちょっ、いきなりくっつくなって! あーもう、分かったからおかえりおかえり」




