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29話


 「……かなと、これなに?」


 奏がVRゲームを中断して現実世界に戻ってすぐの事だった。


 目の前で流されるのは、奏と女プレイヤーである[名無し]が手を繋いで走っていく所であった。

 所詮浮気現場である。といっても奏と美唯菜は付き合っていないのだが……。


 「……せーざ」

 「はいっ!」


 高速で謎カプセルから出て正座をする奏。滝のように冷や汗が流れ震え出す。震え出すのは決して正座をして足が痺れたからではないはずである。

 もう昼食どころではなくなっていた。


 「さて、詳しく聞かせてもらおうじゃないの」


 腕を組み見下ろすように言うのはトリアだ。美唯菜の横で奏を睨んでいる、それはもう物凄く睨んでいる。


 決してやましい関係ではないのだが、その時に手を繋ぐ必要があったかを考えると無かったのは否めないのであった。


 「まず始めに聞くことがあるわ」

 「このひと、誰?」


 さながら犯罪者のようである。

 冷や汗が止まらない奏は震えながら声を出した。


 「な、名無しさんです」

 「どういう、関係?」

 「ゲーム中に知り合った人です。フレンド登録しています」

 「それじゃあ伝わらないわ。具体的に」


 だがしかし、奏にとってこれが全てであった。フレンド登録して仲良くしたいと思っているが、別にやましい気持ちはないのだ。……少しくらいは仕方ない、なんだって男の子なのだから。


 「一緒にパーティーを組んでクエストをこなしました。仲はいいですが、やましい事は何一つありません。です。はい」

 「手を繋いでいながらも……かしら?」

 「返す言葉もございません。申し訳ございませんでした。ですが男女の関係などでは決してございませんので──」


 「…………ふふっ」


 平謝りして弁解、その最中に美唯菜は堪えきれずに笑い出す。

 実は奏がフレンド登録していると言った所で、美唯菜はもう奏を疑っていなかったのだ。

 それは感なのだが、長年近くにいるからか精度は抜群である。


 「……ははっ」

 「……ふふっ」


 そして途中から美唯菜の疑いが晴れたことを雰囲気で察した奏は、美唯菜の笑いに釣られて笑い出した。


 一人置いていかれたトリアはもちろん混乱中である。

 「えっ? え?」と目をパチくりしている。色々考えた問い詰める練習は途中で意味が無くなってしまった。


 「えっと、ミーナ? いいの?」

 「うん」

 「じゃあ判決は?」


 これはもちろん無罪だろう。疑いは常に晴れたのだから。

 美唯菜は笑顔を作って言う。


 「ギルティ」

 「…………え……」


 有罪であった。


 「手、つなぐ、罪」

 「確かに有罪ね」


 うんうん頷くトリア。

 マジかよ……っと顔に出てる奏。


 「罰は決まっているのかしら」

 「うん」


 罰まで決まっているという。手を繋ぐだけで罰が下されるのだ、その理不尽極まりない言葉に奏は辛そうである。一体どんな罰なのか、奏が悲壮感を漂わせるがそんな事はお構い無しに美唯菜は口を開く。


 「……あさって、一緒、に……きてほしい」

 「……へ? あっうん、全然いいよ」


 一体何のことだろう。奏の中に疑問が出てくる。

 罰かどうかは分からないお願いに少し拍子抜けして間は空いたが、それでも奏が美唯菜の頼みを断るわけがなかった。

 どこに行くのかは奏にとってさほど重要ではなかったのだ。


 トリアは元々美唯菜が許す気でいたのを察してため息を付いた。まったくもう……という思いがダダ漏れである。


 「じゃ、ごはん……たべよ?」

 「あぁ久しぶりに何か作るよ」


 奏は詳しく説明を求めずに美唯菜の言葉に賛同する。

 話は後でも構わない。


 瞬間で空気が緩くなるのは、奏と美唯菜の2人だからこそ出来ること。トリアは美唯菜が許すならそれでいいのである、何気に食事というのが始めてでありドキドキしているのは美唯菜だけが気付いていた。


 奏は先に部屋から出ていき、台所へと直行する。


 「トリア、わくわく?」

 「……そうね、食という物がどういったものなのかは気になるわね」


 残った2人は雑談しながらゆっくりリビングへと歩いていく。


 「私も、わくわく」

 「あら? どうしてかしら? ミーナはいつも食事をしているのよね」

 「トリアと、一緒、ごはん」

 「ミーナ……私もよ!」


 相変わらず美唯菜とトリアのラブラブも健在である。

 珍しくトリアから美唯菜に抱きつき好意を体で現す。美唯菜も100%返すように抱き返し、辺りは桃色の空気に包まれていく。もちろん桃色の空気はトリアの体から滲み出ている、物理的に。


 奏はというと、炊飯器から米を全てフライパンに入れてチャーハンを作っていた。

 前に美唯菜から聴いたARISA(ありさ)の新曲を口ずさみながら、大量の米を片手で炒めていく。


 出来上がる頃には、美唯菜とトリアがお皿を出したり色々と手伝っていた。

 ほとんどトリアはまじまじとチャーハンを見て、「これが炒飯ね、この目で見たのは初めてだわ」と感動していたのだが。


 美唯菜がお茶にスプーンなど大部分をテーブルに用意し、テキパキと動いていく。それは勝手知りたる妻のよう。

 テーブルに全てが整うと準備完了である。ドキドキした様子で座るトリアに美唯菜はご満悦だ。


 「いただきます」

 「いただき」

 「い、いただきますわ」


 恐る恐るチャーハンを口に運ぶトリアだが、一口食べたところで目が変わる。パクパクとチャーハンを口に運びあっという間に平らげてしまった。


 「おかわりを所望するわ!」


 2人ともトリアを見て呆気にとられ瞬きを数回。さすがの美唯菜もここまでの予想は出来ないだろう、食というものは人を変えるのである。


 しかし困ったことに奏はおかわりなど全く想定していなかった。フライパンは常に空であり、残りのチャーハンは奏と美唯菜の皿の上だ。


 短い沈黙の後、美唯菜は自分の皿からチャーハンをトリアに分けていく。


 「わたしの、ぶん……少し、あげる」


 少しと言っている割には半分程度の量をトリアの皿に入れた。トリアは今更自分が食べ過ぎだということに気がついて赤面中である。なお、食べないという選択肢はない模様。


 「それじゃあ僕の分も少し」

 「それはいらないわ」


 即答だった。


 奏は無言で美唯菜の皿にチャーハンを足していく。美唯菜が半分入れた時に入れすぎじゃないかと心配していた。

 美唯菜は奏の好意を無言で受け入れる。美唯菜も比較的少食とはいえ、半分も無くなると少し足らない。


 今度はトリアもゆっくりチャーハンを口に運ぶ、さっきの自分はがっつき過ぎたと戒めながら食べている。


 「かなと?」

 「んー?」

 「あさって、ね」

 「うん」


 美唯菜はカードから地図を召喚し奏見せた。地図から駅近くの喫茶店が映し出される。


 「ここにいく……の」

 「ここには何があるんだ?」

 「くらすで、ぱーてぃ」

 「ほぅ?」


 あれだけの事をしながら平気でパーティーに誘うのか。奏は声のトーンが無意識に下がる、パーティーを潰してやろうかと脳裏をよぎったが。


 「ミーナ、それじゃあ説明不足よ」


 美唯菜は皆と仲良くなれるかなーとか呑気に考えていた。もう不安は吹っ切って楽しもうといった具合である。

 美唯菜の中ではもう謝罪と祝いの事はパーティーとして変換されていたのだ。


 トリアはその事を悟り奏に説明する。

 チュートリアルのお姉さんをやっていただけあって、説明は物凄く上手だ。


 あらかた事情を理解した奏は、美唯菜をみて少し心配をする。もし次何かあれば美唯菜は、家族を抜いて自分とトリアしか信用出来なくなるだろうと。

 昨日の学校騒動の件があるからして、そんな事はないだろうが奏にとって重要なことであった。


 「まぁなんにせよ、みぃが行くなら僕は行くよ。みぃの意見を尊重する」

 「……うん。ありがと、かなと」


 あとは自分が美唯菜を守ればいいだけの話だ、何も問題は無い。

 トリアも同じ気持ちで、2人アイコンタクトをする。

 そしてそれを見た美唯菜は目を光らせる。


 「かなと、うわき?」

 「え? 違う違う!」

 「そうよ! なんで私が!」

 「あせってる……あや、しい」

 「違うわよ! 私にはミーナがいるもの!」

 「……トリア!」

 「……ミーナ!」


 茶番である。

 抱き合う美唯菜とトリアを見て、奏はコソッと写真を撮った。


 いい笑顔が撮れたと思い永久保存した奏は、もう重症である。

 しかし美唯菜も同じことをしているから問題はない、問題はないのだ。

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