25話
「はい、依頼の達成を確認しました。それでは手続きをしますね」
北のギルド。受付嬢のしおりさんが、渡したギルドカードに依頼の達成を書き込んだ。
「冒険ポイント以外の報酬はプレゼント欄に入っていますので、そこから確認してくださいね」
さっそくしおりさんの言う通りメニューからプレゼント欄を見てみる。リーフ草が5本入りを3つ、合計15本のリーフ草が手に入った。
「ソウくん。次はこのリーフ草を納品する随時クエストがあるからそれを受けよう」
「わかった」
クエスト板まで行き、随時クエストを剥がす。
クエストの内容はリーフ草の納品。報酬はリーフ草1つにつき冒険ポイント1と10Gだ。
クエスト報酬は名無しさんと分配されているから、名無しさんにも合計15本のリーフ草があるはずだ。
再度受付にいくと、しおりさんはいないらしく違う受付嬢が来てくれた。この受付嬢はNPCである。
「はい、確認いたします。リーフ草の納品ですね。それではギルドカードの提示をお願い致します」
しおりさんを探してみると奥の方で他の受付嬢にペコペコと頭を下げていた。ゲームの中なのに大変だな。
「……はい、受理いたしました。この依頼は今すぐに納品することが出来ますが、どうなされますか?」
「お願いします」
名無しさんは今の依頼報酬分のリーフ草だけじゃなく、元からあったであろうリーフ草も出していた。
「これは元からこの依頼用に溜めていた分だからね」
「ならいいんだけど」
もし気を使って、違う用途で使うはずの物を出していたらいけないからな。
名無しさんなら充分やりかねない。
「それではリーフ草53本の納品を確認いたしました。再度ギルドカードの提示をお願い致します」
名無しさん結構持っていたんだな。なんか悪いことしているような気がする。
「冒険ポイントは同じ分入るし、本当にソウさんは気にしなくてもいいからね」
まぁ気にしすぎかもしれないよな。
それじゃあ次は何の依頼を受けようか。
「依頼達成の更新が完了致しました。ソウ様。大変申し訳ございませんが、少々お時間を頂いても宜しいでしょうか」
ん? 僕何かしたかな。
何かをした覚えはないんだけど。
「それはソウさんだけですか?」
「申し訳ございません。同伴はお控え下さいませ」
どうやら本当に僕が何かしたのかも知れない。
「分かりました。それじゃあ、ごめんだけと名無しさんは少し待っていてくれる?」
「うん、出来たら後で内容を聞かせてくれると嬉しい」
「……それではソウ様、こちらへおいでくださいませ」
そういって受付嬢は窓口の横の専用扉を開けて僕を呼んだ。
手を振る名無しさんを背に、扉をくぐって前を歩く受付嬢の後を追っていく。
中は少し広い空間があって、その奥に通路があった。この通路はきっと関係者以外立ち入り禁止みたいな場所なのだろう、数々の木箱が積み立てられていたりしてザッ裏側って感じがする。
「こちらへどうぞ」
通路を少し歩くと応接室と書かれた扉があり、そこに案内される。
応接室にはテーブルとソファがあり、窓にはカーテンが敷かれていた。
「御足労ありがとう、座ってくれるかい?」
中で座っていた中年の男性が言う。
NPCの男に促されるように対面のソファに座ると、受付嬢がどこから出してきたのか僕と男にお茶を出していた。
受付嬢はそのあとに男の後ろに立つ。
「さて、それじゃあ先に自己紹介をするね。私はハルジオン北支部のギルド、その責任者をやっているピーツだ。よろしくお願いするよ」
「どうもソウです。よろしくお願いします」
「さっそくだが本題に入らせてもらうよ」
ピーツさんが自己紹介をしたことにより、ピーツさんの頭の上に名前が表示される。
ピーツさんはさっきまでのニコニコした表情を抑え、真剣な顔に変わった。
「……紫光狼・アーデルベルトを倒したのは君だね」
「なっ!?」
どうしてそれを。いやNPCだから分かるという理由かな、それとも何かあったのか。
「すまないね。レセプ……この受付嬢がギルドカードの確認時に発見してね。ああ、討伐記録の確認は受付嬢の権利としてはあるんだ。だがあまり気のいい話ではないだろう?」
「それはまぁ……そうですね」
ギルドカードは倒した敵を記録する機能があるのだ、そして受付嬢はそれを見ることが出来ると。
ということは、しおりさんは見たのだろうか。あまり悪目立ちはしたくないんだけど。
「本当は依頼受注時に確認をしないといけないんだ。あれはエネミーだけじゃなくて対人でも記録に残るからね。場合によっては依頼受注を拒否しないといけない」
確かにそうだ。ギルド側としても危ない奴に依頼を任せれないからな。もしかしたら、捕まえられるなんて事もあるのかもしれない。
僕はユウタくん達をPKしちゃったわけだけど、それはどうなんだろう。
「安心しておくれよ、仕掛けた側と仕掛けられた側は判別できる。君が白なのは分かっているさ」
「それは安心ですね」
「そのギルドカード確認はしおりくん……新人の受付嬢がしているべきだったんだけどねぇ、いやそれはどうでもいいか」
どうでも良くないよ、見てないならそれがいい。といってもそのうち知られるだろうけど。
「話が逸れてしまったね。それでギルドGランクの君がソロでワールドエネミーを倒したということについて話をさせて欲しいんだ」
ソロかどうかまで分かるのか。ほとんど行動が筒抜けじゃないか。
「話とは?」
「……世界中を渡り歩くワールドエネミー。その力は強大で、一介の冒険者が倒せる相手じゃないんだ。だけどそれをGランクの君が倒してしまった」
空になったリーフ茶を受付嬢のレセプさんが入れてくれる。リーフ茶美味しい。
「上がワールドエネミーを倒した者を探せとうるさくてね。無論これを無視するわけにはいかないんだ。だけど報告したのがGランクだと都合が悪いんだよね」
つまりギルド最低ランクのGだと外聞が悪いと。ってそれもそうか、誰がGランクの駆け出しがワールドエネミーを倒せると思うのか。
「だからといって虚偽の報告をするわけにもいかないし、特例としてソウくん……君のランクを上げることにしたんだ」
「それで、呼び出したのはその為ですか?」
「あらかたそうだね。でももう一つ」
もう一つ?
「この報告に君の名前を出していいかどうかの確認だね。どうしても嫌というなら、名前を出さないで報告も出来るわけだけど」
「そんな事が出来るんですか?」
「もちろんこちらとしては、名前は出して置きたいところなんだけどね。どうだろう? 名前を出していいなら、報酬は弾むしさっき言ったランクアップもする。決して悪い話じゃないと思うけど」
【サブクエスト『ピーツの紹介』が発生しました。依頼を受けますか?】
サブクエスト。それは何かの条件で発生するクエストのことだ。中には一度しか起きないクエストもあるらしい、公式サイトに書いてた。
ランクアップは魅力だな、でもサブクエストが発生した時点で答えは決まっている。
「分かりました、名前は出して頂いてもかまいません」
「ありがたいな。まぁこれは上に報告するだけで、広まったりはしないだろうから気構えなくても大丈夫さ」
その上が広めたりしない限りは……だよな。
「さっ、そうと決まればランクを上げようか。レセプくん」
「はい。ソウ様、ギルドカードをお願い致します」
言われた通りメニューからギルドカードを出すと、受付嬢のレセプさんが何かを書き込んでいく。
「ソウくんにはDランクまで上がってもらう。3ランクの超特進だね」
Dランクか、なんか低い気がするんだけど。
「微妙な顔してるね、Dランクといったら1人前といえるギルドランクだよ」
そうなのか。まぁランクが上がるのなら文句はないのだけども。
「ランクアップが完了致しました」
レセプさんがギルドカードを返してくれる。
一瞬光に包まれたギルドカードは灰色から橙色へと変わり、ランクを示すDという文字が浮かび上がっていた。
「さて、すまないね。こんなところにまで呼び出して」
「いえ、ランクも上げてもらって感謝はすれど文句は無いですよ」
「そう言ってもらえると、こちらとしても助かるよ」
ワールドエネミーを倒したことが上とやらに知られるくらい問題はないだろう。……多分。
「それで報告には付いていけばいいんですか?」
「いや、報告自体はこっちで勝手にさせてもらうよ。目的は君の名前を出していいのかというのと、それに伴うランクアップだからね」
また飲み干してしまったリーフ茶を、レセプさんが淹れなおしてくれる。
「一応報酬は報告が終わった後に出させてもらうよ。あぁこれは信用がどうとかじゃないからね」
「いえ、分かっていますよ」
「そうかい、話が早くて助かるよ」
「一番の報酬はもう頂いてますからね」
ランクが上がると行ける所が増える、これは大きいアドバンテージだ。
「ハハハッ!! それもそうかもね。それじゃあ報告が済んだらまた呼ばせてもらうよ」
「はい」
「色々とすまないね。レセプくん、窓口まで送ってあげてくれるかい?」
「かしこまりました」
レセプさんは応接室のドアを開けてくれる。
僕は席を立って、ピーツさんに頭を下げ部屋を出る。
レセプさんも部屋を出ると、ピーツさんに一礼してドアを閉めた。
「こちらです」
レセプさんはすぐに僕を先導して前を歩いてくれた。そういえば少し聞きたいことがあったんだった。
「私達受付嬢は皆様の情報を意味なく吹聴することは致しません。先程のことも、討伐記録のことも」
考えてること読まれた。言う前に聞いたいことを言ってくれて助かるんだけども。
それとも始めから言うつもりだったのかも知れないな。
「新人受付嬢のしおりにも充分に言い聞かせておりますゆえ、ご安心くださいませ」
「ギルドの信用性にも関わりますもんね」
「ご理解頂きありがとうございます」
案外受付嬢は結構厳しい職業なのかもしれない。
あとはプレイヤーであるしおりさんがどこまで信用があるかだけど、これはもう信用するしかないな。
大丈夫だとは思うけど、会ってその日で大丈夫とは言いきれないし。まぁその時はその時だ。
「規律を破るとそれ相応の罰則がありますから、その点も含めてご信用下さいませ」
窓口を出ると名無しさんが待ってくれていた。
掲示板を読んでいたらしく目の前に立っても気付かなかった。そこまで掲示板に集中するのは凄い、『集中』のスキル取れるんじゃないだろうか。
「お待たせ名無しさん」
「え? おわっ! ソウさん、おかえり」
声をかけてここまで驚くとは……本当に集中スキルを取っていそうだ。
「どうだった? あっ、言えないなら大丈夫だけど」
「大丈夫、依頼を受けながら言うよ」
名無しさんにはワールドエネミーの事もバレてるし、言っても問題は無い。言いふらされるならバレてる時点で終わりだし、そこまで信用ができない訳でもない。
でもDランクに上がった事は、今は言わないでおこう。名無しさんが変に気を使いそうだ。
名無しさんと一緒に依頼を選ぶ僕。ゲームを楽しんでいるこの時の自分は、のちに起こる最悪を予想もしていなかった。だがもう遅い、もうどうする事も出来ないのだった。
☆
「……かなと、コレなに?」
みぃが投影したのは、僕が名無しさんと一緒にいる動画。ユウタくんの騒動から手を繋ぐように引っ張られていた所もバッチリである。
…………どうやって弁解しよう。