20話
今回の事は大変な騒ぎになっていたみたいだ。
葉名先生とみぃの監禁に加え、生徒間の大規模な抗争。瞬く間に警察に連絡が入り駆けつけたらしい。幸い大きな怪我をした人はいなかったけど、鎮圧に時間を取られすぎて僕とみぃの所まで手が回らなかったらしい。
といっても大黒や村田のことに関しては、第二倉庫に設置されていた監視カメラが証拠になってくれている。拉致監禁や害意ある傷害行為、それも魔法やそれに準じたものだから高校生であっても処罰の対象だ。
ただし、僕やみぃ以外の戦闘行為をした生徒は少々難しい問題になる。
まず、校舎や校庭にまで被害をもたらした生徒同士の抗争は二つのグループに分けられた。
村田の派閥に入り僕……つまり相馬奏を妨害し、美唯菜──みぃや葉名先生に危害を加えようとしたグループA。
そして僕を援護し、村田派閥から守ろうとしたグループB。
これだけなら村田のグループが悪く見えるのだが、先に手を出したのはグループBなのだった。その際の魔法使用は無かったが、それにより負傷者が出たことが問題であった。
また、グループBにも過剰防衛な所が多々見受けられた。
これによりグループBは正当防衛から逸脱してしまったのだ。
そしてグループAの目的は明らかであったが、その行動のどれもが未遂で終わっている。その為、言い訳し放題である。
知らないと言えばいい。たまたま階段で遊んでいたり、たまたま何かをしたらグループBが手を出してきた……正当防衛だと。
だけど、廊下や階段のカメラはグループAの攻撃的な所もしっかり撮っていた。グループAがグループBに害意を持って攻撃していたことは明らかであるし、隙あれば第二倉庫に向かおうとしていた事も明白だった。
また村田から送られてきた命令文のようなメッセージは、出来事を正しく語っていた。それでも言い訳したやつはいたらしいが。
何はともあれAグループとBグループの抗争は、Bグループが先に手を出し負傷者を出したが並々ならぬ理由があり、両グループ共に行き過ぎた傷害行為をしたことで喧嘩両成敗となった。個人が訴訟等を起こすならまた別の話だ。
それとは別にAグループは未遂であろうとも極めて危険な行為をした為、何かしらの罰はあるだろうが。
「協力感謝する、それでは気をつけて帰ってくれ」
そして今やっと事情聴取が終わったところである。緊急事態だからか学校側が貸出した多目的室での事情聴取だった。
僕で最後なのだが、気絶していた村田と大黒は先に警察に連れていかれていた。
「かなと」
「みぃ、またせたな」
「だいじょぶ、かえろ?」
「あぁ」
多目的室を出るとみぃが廊下で待ってくれていた。
その表情はいつもより緩んでいて……今回の事がキッカケで肩の荷が少しでも下りたのかもしれない。
二人で歩く帰り道は登校時と同じで誰もいない。根元もいるのかと思っていたけど、先に帰ったみたいだ。
行き帰りが二人っきりというのがなんだか嬉しい、いつも二人での下校になるけど今日は特別嬉しい気がした。
「今日は色々あったな」
「うん」
「いろんな種族もいたよな」
「よこやませんせー」
「あぁーあれはビックリした、全身ヘドロだったもんな」
「くさく、なかった」
「確かに、悪臭が全然しなかった」
右から引っ張られる感覚がして、何気なくみぃを見ると僕の制服の裾を掴んで見上げていた。
「きてくれて、ありがと」
「…………あぁ」
みぃの頭に手を乗せる。そのまま優しく撫でると、みぃは目を細めて気持ちよさそうにする。
本当に間に合って良かった、あと少しでも遅かったらと思うと背筋が凍る。
「かなとは、私の……ひーろー」
「それじゃあみぃは僕のお姫様だな」
「お、おひめさま」
下を向いて照れてるみぃが可愛い、写真を撮ってもいいだろうか。むしろ抱きしめてもいいだろうか、いやこの場合お姫様だっこでも。
「いいよ」
顔が夕日に染まりながらもみぃが手を伸ばしてくる。流石みぃ、以心伝心。
周りには誰もいないのだ、例え道の真ん中でも大丈夫。よし大丈夫、では失礼して……。
「んっ、かなと、おもく……ない?」
「いや、むしろ軽いくらいだよ」
みぃの手が首元に伸びてきて、吐息が顔に当たる。みぃを持ち上げている手の感触がやけに鮮明で。
あんなことがあってもみぃはここにいて。みぃを抱きしめる感触が、温もりが無事を教えてくれる。それがとてつもなく嬉しくて。
「かなと。恥ずか、しい」
「一緒だな、僕も恥ずかしい」
「んっ、一緒、ならいい」
きっと夕陽のように顔を赤く染めているのは、みぃだけじゃないはずだ。
お互い恥ずかしいけど、たまにはこういうのも悪くない……。僕はみぃと視線を合わせて笑いあった。
「あらあらあらー! 奏に美唯菜ちゃんじゃないのー! アツアツねぇ! 可愛いわねー! あっ良かったら美唯菜ちゃん、うちでご飯食べる? お姫様だっこ記念日ね! はっ、もしかしていつもしてたりするのー?!」
帰り道、みぃをお姫様だっこしていたら母親がいた。
そして僕達の顔が夕陽よりも赤く染まったのは言うまでもなかった。
☆
「どうして私を呼ばないのよ!」
みぃは僕の家でご飯を食べて、僕の部屋までいった所でトリアを呼んだ。それで今日の事をトリアに言うとめちゃくちゃ怒ったわけだ。
「……ごめん。トリアを、まきこみ、たく……なくて」
「巻き込みたくないって、私たち親友じゃない! ミーナが辛い目に遭ってるのを見てるだけなんて、知りもできないなんて……そんなのいやよ」
最初の勢いはどんどん萎んでいき、最後には呟くほどになった。
「ミーナが困っているなら力になりたいわ、助けになりたい。当たり前でしょ、親友だもの。それが力にすら見られないなんて悲しいじゃない」
「ちがう、違うの。トリア、たたかい、するため、ちがうから」
「そうね、確かに私はミーナと話がしたくて私のカードをあげたわよ。それは今も変わらないわ」
「うん」
「でもね……私を使えとは言わないから、もっと私を頼ってもいいのよ」
「たよ、る?」
「そうよ。ミーナが自分の指示で動く仲になりたくないって言ったように、私もそんな仲になりたくないわ。でも頼ったり頼られたりするのは友達として、親友として当然でしょ? 自分の身が危ないのに遠慮されるのは……とても悲しいわ」
トリアは涙を溜めながらみぃに言う。
カードからトリアが出てきた時は驚いたけど、トリアがみぃにそこまで言ってくれるのが、不謹慎かもしれないけど……正直嬉しい。そこまで言ってくれる友達なんて少ないだろうから。
「……ごめんね、トリア」
「本当よ! ちゃんと頼ってくれないとダメなんだから」
「うん、こんどから……ちゃんと頼る」
一件落着かな?
二人の問題だから口を挟むつもりは無かったけど、仲直りしたようで良かった。
「ミーナ!」
「トリアー!」
感極まったように抱きつく二人。そしてわんわん泣き出す。凄く百合百合しいんだけど、ここ僕の部屋だから勘違いされそう。
「そうだ、ミーナ。今から行ってきなさいよ」
「なにを…………いいの?」
「私なら構わないわ。二人で行きたかったんでしょう?」
一体何の話だろうか。
「天気も良いし、今がチャンスよ」
「……うん」
天気? 確かに今日は快晴だけど、それと関係があるのか?
「一体何の──」
「かなと。……でーと、しよ?」
「え、あっうん…………で、デート?! それは全然いいんだけど、というか凄く嬉しいんだけど今から!?」
今日の天気の話をしていたからには今からなんだろうけど、もう夜遅いし明日でも……。
「ちょっと察しなさいよ、鈍いわね」
って言われても察するって何をだよ。
「かなと、いや?」
「嫌じゃない! 全然! むしろ嬉しすぎて顔がニヤけるのを我慢してる」
「じゃ、いこ?」
「うん。行こう」
よし行こう! さてどこに行こうかな。
「みぃはどこか行きたい所あるか?」
「そら」
「空? あぁ、空な。って空かぁー! 連れて行きたいけど万が一落ちたら危険だしな」
みぃを抱っこするか背中に乗せるかして空を飛ぶ事は出来ると思うけど、流石に落ちる危険があるしな。……まぁ絶対に落とさないけど。
するとみぃは笑顔でポケットから二枚のカードを取り出した。
「みぃ、それは?」
「言っておやりなさい、ミーナ」
「ふゆうの、カード」
みぃは胸を張ってカードを見せつける。カードには浮遊っと書いていた。
「これは空を飛べるカードね、結構レアなのよ」
「……このカードで空を一緒に飛ぶわけだな」
確かにこれなら一緒に飛べるな、凄い楽しみだ。
「ミーナこのカード手に入れても使わなかったのよ」
「……はじめては、かなととがいい」
「は、はじっ」
初めてっていや意味は分かってるけど。凄い嬉しいけど!
「なに考えてるのよ、不潔だわ」
「い、いや僕はだな」
「かなとが、いいなら、私は…………それでも」
「……みぃ」
「……かなと」
「いいからさっさと行きなさい!」
トリアに怒られてしまった。
それじゃあ行く用意をしよう。といっても、みぃを助けに行った時に制服の背中の部分が破ってしまったからそのまま翼を広げるだけだけど。もう無意識で翼に魔力付与出来るようになっているな。
「そのカードの効果時間は5分だから気を付けなさいよ」
「うん」
窓を開けてみぃに手を伸ばす。
「行くか『天翔』」
「うん……『浮遊』」
繋いだ手を離さないように握りしめる。痛くないように気をつけて。
そして翼をはためかせ、みぃと空へ。
「……とんでる」
その言葉に僕も改めて実感した。頬をなでる風、宙に浮いた体、現実では考えられなかったことだ。
「みぃ、大丈夫?」
「んっ、よゆー」
目を輝かせて言うみぃ。ちょっとふらついてるけどそれはご愛嬌というものだ、握る手がつい強くなるのも仕方がない。
「みて?」
「ん?」
「うえ」
そう言われて見上げた先には雲一つ無い夜空……満天の星が輝いていた。
「きれい」
「……あぁ、綺麗だ」
空を飛んで見ているからか、家で見るより空が近く感じる。
「みぃは星座とか分かる?」
「ぜんぜん」
「僕もだ」
「一緒」
「一緒だな」
二人笑い合う。別に知らなくても星は綺麗で、僕らの心を掴むにはそれだけで充分だから。
「下も、すごい」
「本当だな、いつも通る道でも違うみたいだ」
「ほーせき、みたい」
上空から見下ろす夜景もとても幻想的で、家や街灯の灯りが宝石の様に煌びやかに見えた。
見る場所が変わるだけでこんなにも違って見れるのか。……いや、隣にみぃがいるからかもしれないな。
「そら、誰もいない、ね」
「そうだな」
「二人だけの……そら」
「……あぁ、僕とみぃだけの空だ」
二人だけの空。この見下ろす夜景も、空に浮かぶ数々の星も、今この瞬間だけは僕とみぃだけのもの。
見渡す風景の全てが輝いて見えて、隣で飛ぶみぃはとても魅力的で。
「かなと」
「なに?」
「ありがとう……大好き!」
その笑顔は夜空を照らす月よりも綺麗で輝いていた。
「……全く、妬かせるわね。2章はこれで終わりよ、次は仮想世界ね……私、仮想世界って言葉は好きじゃないのよ。だって私にとってあっちの世界は仮想じゃないもの。それじゃあまた3章で会いましょ?」




