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15話 みいなの学校その2


 「ありさ。きいて?」


 バス停のベンチで一緒に座ると、私は首の[コネッキング]に触って聴いて欲しい歌を見せる。私の好きな歌手、ARISAありさの新曲だ。


 「ARISAってみぃの好きな歌手だったよな」

 「そう。いい、歌……だから」


 そういうと奏は自分のコネッキングにタッチする、私も自分のコネッキングをタッチするとお互いのタッチした指をひっつける。これで直接リンク完了だ、これで奏と私は繋がっ……けほんっ。


 これで私が曲を流すと奏にも届くようになる。イヤホンいらずだね。

 奏が聴き入っているみたいで嬉しい。この穏やかな音色はいつ聴いても心地よくて、私の心に染み込んでいくんだ。

 私もついつい聴き入ってしまってバスが来たことに気付くのが遅れてしまった。


 「かなと、ばす」


 とっさに奏の手を掴んでバスの中に入る。ホッとした後に顔が赤くなっていくのを感じる。なんでだろう、これはちょっと恥ずかしいな。


 後ろから2番目の窓際に座る。隣に座る奏に寄りかかるのはいつもの事なのだ。眠たそうにしてるけどいつも心臓は鳴り止まない、だけど近づけるチャンスだから。ごめんね、眠たいのもあるんだよ?


 「お、おはよー」


 (まぶた)を少し開けて見てみると、奏の男友達の根元(ねのもと)がそのまま女性にしたような人がいた。


 「おはよう、相馬くん!」


 あぁ、これは確定なのかな? あのゲームで性別とかも変えれたんだ。奏がもし性別変えるなら私は男になれば問題ないね。


 「え? おはようございます」

 「あの、えっと……流石にその反応は傷つくな」


 苦笑する根元くんかっこ(かり)を見て困っている奏、あまり敵は増やしたくないけど仕方ないな。


 「ねのもと、みずき」


 私が呟くと根元はこっちを向いて笑顔になった。


 「おはよう、高江(たかえ)さん」


 私は手を少し上げて挨拶すると、奏は繋がったみたい。


 「根元?」

 「そうだよ」


 奏は少し驚いて根元の胸を凝視する。そんなに巨乳がいいか! むぅっと奏を見ても気付いてくれない。そっか根元は敵なんだね。


 「…………偽乳か」

 「本物だよ!」

 「顔も手術して削ったんだな」

 「削ってないから!?」


 顔は知らないけど偽乳なのはうなずける。こんなに大きいならきっと付けているんだ。

 奏が根元と話しているうちに奏の膝の上に乗る。まさか今さっき私が起きたと思っていないよね……いや今は確認しないといけない事があるの。


 「ひゃっ!! た、高江さん!?」


 男が胸を揉まれたくらいでそんな声出さない。でもこの胸は……悔しながら本物だね。それでも、それでも!


 「それで、この胸……おか、しい」


 悔しいから揉み続けようと思ったけど、これ以上は私の心が悲鳴をあげちゃう。


 「まけ、た、もと、おとこに」

 「今は女だよん」


 勝ち誇る根元に恨めしい目を向ける。

 奏は大きい方がいいのかな? 仲良く話してたりすると嫉妬してしまうな。


 「やっぱり男のほうが良かったかな?」

 「うん」


 即答してしまった。でも胸は暴力だ、根元は男のままじゃないと奏を盗りかねない。


 「いや、別にそれでもいいんじゃないの」

 「……そっか」


 ダメ! だって奏は私の、わたしの。


 「私の。かなと」


 盗られたくないもの。重いって思われるかもだけど、それでもダメ。奏が私から離れたらきっと立ち直れない。


 「はいはい、とったりしないから高江さんは安心してていいよ」

 「しんよー、なし」


 そんなに顔を赤くしておいて信じれるわけないよね。乙女の顔してるよ?

 根元は凄くいい人だけど、これは危険人物指定しておかないと。


 「ふみゃ!」


 か、奏!? いきなり耳を噛まないで。そこ結構敏感な所だから!


 「あぁ、ごめん。ついつい」


 ついかー、ついなら仕方ないなぁ。

 もう奏ったらぁ。いいよ、耳噛んでも。優しくしてね。


 「ついでもダメでしょ! ほら高江さんがノックダウンしてるから止めいっ!」

 「はみほたへはぁ(かみごたえが)」

 「かな、とー」




    ☆




 学校の校舎3階の廊下、私を隠すように歩く二人。


 「……だいじょ、ぶ」


 そう言って私は二人の前を歩く。突き刺さる視線が痛くて足が震えそうになるのをグッと堪える、守ってもらうばかりは辞めたんだ。


 つい握った手を奏は握り返してくれて、ほんとにそれだけで勇気が湧いてくる。ありがとう、もう大丈夫だから。


 教室に入ると廊下まで聞こえていた喧騒が嘘のように静寂に包まれたが、それも一瞬のこと。聞こえてくる舌打ちの音は挨拶の声にかき消された。


 村田さんを筆頭に一部の女子が睨んでくるのを奏は隠すように動くけど、今日の私はひと味違うの。私は奏の袖を掴んでとめる、逃げないから。

 睨み返しはしない、睨みを受けながらただ見るだけ。怒りをあらわにする村田さんはその目を深くしてくる、きっと私の反応が気に食わないのだろうな。


 その瞬間、村田さんは大きく咳き込んで目を逸らした。何があったのかと思ったけど根元くんの片手には[幻惑のカード]が見えていた、確かこのカードは。


 「幻惑のカード、半径1メートルを5秒間自分の想像した幻を見せる! 3000円!」


 そうそれ。えっと確か半径1メートル以下の人に幻を見せる訳じゃなくて、1メートル以下の視覚的情報を変えるカードってトリアが言ってた。……私持ってないけど。


 根元くんは一瞬だけ私の方に向かって片目を瞑った。きっと村田さんからだと私が違ったように見えたんだね。ありがとう、根元。……私の変な幻見せてないよね。


 「はいはい、そろそろチャイムが鳴るから席に着けよ」


 ──ッ?!

 とっさに奏にしがみつく、奏は自然に私を抱き寄せてくれた。教室に現れたのはエネミーなのかな? 黒いドロドロとした大きな物体っぽい。

 あまりの衝撃に今までの空気が嘘のように静まり返った。


 「え? 横山先生だよな! 先生が人型ですら無くなってる!」

 「おう、俺は異形型の宙族だからな。知ってるか? この体で物に触ると汚れるんだぜ」


 静寂に包まれた教室の中、クラスの男子の発言で担任の横山先生だとわかる。

 まさか人ですらないなんて、ご飯とかどうしているのかな。


 「ほらお前らさっさと席につけよ。全員欠席にするぞ」


 先生の声でそれぞれ席についていく、みんなが座った所でチャイムが鳴り授業が始まる。


 「先に今年の修学旅行の話をするぞー、とりあえず──」


 先生から配られたプリントを見ながら話を聞く。

 修学旅行は海外へ行く予定だったけど、場所が変わるか延期……最悪中止にもなるかもしれないらしい。

 新型VRMMOの登場で今は世界中が混乱状態になっているみたいで、学校側も迂闊なことは出来ないみたい。なんか実感が無いなぁ。

 修学旅行が無くなるのは嫌だけど、別にそこまで嫌でもないんだよね。クラスに友達なんて呼べる人なんていないし……根元(ねのもと)は論外だよ、敵だ。


 ……私の友達というよりも(かなと)の友達っていう感じだし、仲良くしてもらっているって思ってしまう。

 なんにしてもそんな状態だから修学旅行にはあまり期待していない。もし修学旅行が無くなったら奏と二人で旅行を誘ってみようかな?


 授業はクラスメイトのブーイング以外何事もなく進んで休み時間になる。

 先生の所に皆が集まっていく中で奏が私の所に来てくれる。隣の席の根元くんは先生の所に行ってるからそこに座った。

 なにか喋るわけじゃないけどなかなか楽しい時間だったり。

 賑やかな先生の所をボーっと見る奏を私は見てすごす。私がジッと見てるから恥ずかしくて見返せない所が奏の可愛いところ。








      ☆








 「おい! まだ分からんのか!」


 今日の朝方に起きた数件に及ぶ放火の犯人を追っているが、まだ特定すら出来ていない。イラつきを隠さずに怒鳴ったりしたがそれで分かるなら苦労はしないだろう。


 だがこうでもしないとやっていられない、犯人を特定するための物があまりにも無さ過ぎるのだ。全ての放火場所に火種となった物が無いことから、ゲーム内のスキルや魔法、または何らかのカードによるものだと推測は出来る。(げん)に雲を刺すような火柱が放火予想時刻に目撃されている……だがそれだけだ。

 火を放てる人などもうどこにでもいる、容疑者になりうる人は山ほどいるだろう。それこそ隣の家の住人が犯人の可能性だってある。


 ……ふぅ、さてここで情報を整理しようか。

 初めに犯行は5時過ぎから7時までの時間で行われた。

 被害は数件に及び、けが人は出たが重体者は運良く出なかった。

 次に火事の原因となる物が見当たらない。

 そして火柱が目撃されていたにも関わらず燃え広がることが無かった。その際の消火活動は遅れていた。


 分かることといえば犯人は火を操っているだろうこと。隣家に燃え移らないようにその火を制御できる可能性があるということ。

 まだサービスが始まって24時間も経っていないというのに末恐ろしいことだ。この先一体どんな怪物が生まれてくるのやら。


 まだ1日目なのだ、今なら今回の様なことが出来る人は少ないだろう。

 今は手当り次第に探すしかない。



★レインボーねこ


虹色の猫。可愛い。光に反射して光る。さらさら。

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