14話 みいなの学校
早朝、ベットから出て一番に向かいの家を見る。
「おはよう」
今は寝ているはずの奏に向かって声を出すと、背伸びをして部屋から出る。
トリアを呼ぼうかと迷ったけど、まだ両親に話していないから止めておこう。また今度ちゃんとトリアの事も話して一緒に朝ご飯を食べたいな。
時間は午前5時、顔を洗ってからシャワーを浴びる。
スッキリしたまま着替えてリビングに行き、まずはお弁当の用意。
弁当の中身は玉子焼きに唐揚げとハンバーグ、ぜんぶ奏の好きなおかずだね。
食べてもらえるかな? でもちょっと不安だけど。
お弁当を詰めると次は朝食の用意をする。
朝食は弁当の残り物とお味噌汁でいいかな。
リビングのテーブルに朝食が並ぶ頃にはママとパパが起きてくる頃で、先に立体テレビを付けてニュースに変えておく。
「おはよー、美唯菜も毎日朝食ありがとうね」
「おは、すきで、やってる……から」
ママがリビングに入るとすぐに挨拶をして、テーブルにお茶を出しておく。
「本当に出来た娘ねー! 奏くんに渡したくなくなっちゃうわ」
「じゃあ、うばって、もらお」
ママはパパの分のお茶を用意して椅子に座る。私も椅子に座ってニュースを見ながらパパを待つことにした。
「ニヤケているわよ」
「そう?」
「ホントに奏くんが好きなのねー」
「……うん」
顔が熱くなっていくのを感じてプイっと顔を逸らした。だって恥ずかしいし。
「おはよう、何の話をしてたんだい?」
パパがやって来ていつもの場所に座る、いつもパパは真ん中なのだ。そのうち奏がその場所に座ったり……。
「おはよう」
「おはよー、美唯菜が奏くんの事が大好きだって話よ」
「そうか、美唯菜は奏君のことが昔から好きだからなー。パパちょっとジェラシー感じる」
なに? 今日はいつもより攻めてきてるね、ほら早くご飯食べるよ。
「いただき」
「いただきます」
「いただきます」
黙々とご飯を食べながらニュースを観る。ニュースの内容はどれも同じで宝石店が襲われたとか、傷害事件が多発しているといった報道だ。警察とオルディネが動いているけど手が回っていないみたい。物騒な世の中になったね。
隣で両親が笑って「両親公認ね」とか言ってるけど反応はしないよ、2人とも面白がってるだけなんだから。
「ね、姉ちゃん! まえ! 前の家が焼けてる!」
──ダンっ!!
弟が入ってくるなりすぐに私はリビングを出る。
玄関を勢いよく開けて……脱力した。奏の隣の家が燃えていた。
不謹慎だけど良かった、奏の家は何も起きていなかった。というか弟よ、奏の家じゃないのに私を名指ししなくても。
事態は家が完全に崩壊した事で終わった。
奇跡的というか火は燃え移る事はなく、消防車が来て鎮火された。中には人の入った謎カプセルだけが残っていた。
どういう仕組みなのかは分からないけれど謎カプセルは傷一つ、燃え跡すらなかった。中の人は無事で警察の人に囲まれながら家をみて崩れ落ちていた、その後救急車に乗って野次馬と警察だけが残った。
私は家に戻ると、食べかけのご飯を食べにリビングへ行く。
「あ、悪い。いらないと思って姉ちゃんの分も食ったわ」
「……そう」
こ、この弟はッ。奏の前でお腹が鳴ったらどうするんだ!
「ごめんってー。この前、銭湯に行った時に撮ったこの奏の半裸写真で手を打ってくれよー」
弟の蓮はポケットから1枚の写真を取り出して一瞬だけ見せてくる。
ふむ、奏の写真が朝食で手に入るのね。……どうして蓮は奏の半裸写真を撮っていたんだろう。
「はやく、ちょーだい」
「……姉ちゃん素直過ぎるだろ」
蓮から写真を貰うと、部屋に戻って棚に隠してある奏写真アルバムに大切に保管する。そろそろこのアルバムも埋まってしまいそうだ。え? へん? ……知ってる。でも止められないのです。
アルバムを厳重保管してからカバンを持ってリビングへ戻る。
「ん? 美唯菜は外から行くのか」
「うん、かなとが、そとから、て」
「奏くんが居れば安心だが、気をつけるんだぞ」
「うん」
謎カプセルによる移動は持っているカバン等も適応内だから、ゲーム内だと混雑しているからって言ってた。私はゲーム内だと奏と一緒に登校できなくなるから現実世界で登校できて嬉しかったり。
「姉ちゃんは外から行くのかー、俺はカプセルで行くから2人っきりかもなッ!!」
「からか……ないで」
「姉ちゃん顔真っ赤だぞー」
「うる、さい!」
蓮は笑いながらリビングから出ていく。全くもう!
行ってきー! っと蓮の声が響いて、パパとママと私は各々返事をする。
そのすぐ後にパパも謎カプセルで仕事に行った。ママは家を守っているから皆の見送り役です。
「わたしも、いってきます」
「はいはい、行ってらっしゃい」
私も時間だからリビングで見送りされて家を出た。
★
玄関のドアを開くと、向かいの家のドアも同じタイミングで開いた。こんな小さなことで私は幸せになれる。
「おはよう」
「おは」
よー。
最後だけ声が掠れてしまって出なかったけれど、今日もちゃんと言えた。
一緒に歩いていくと奏は私を見て少し不思議そうな顔をした。どうしたんだろう?
「そういえばみぃは尻尾どうしているんだ?」
尻尾? そっか、今日は出していないもんね。
とりあえず周りを確認してからスカートをめくる。私の尻尾は少し長めだからこうやって隠しているの。
「スパッツ、かくし、てる」
触っても、いいよ?
奏はすぐに私の手を掴んで、めくったスカートを戻された。
「スカートの中を安易に見せてはいけません」
「かなとなら、いい」
見られるのが奏なら何も問題はない。むしろ……なんてね。
「それでも他の人が見ていたら嫌だろ?」
「いないの、かくにん、した……よ?」
「確認してもダメ」
むぅ、見るのは奏だけなのに。
「だめ?」
「ダメ」
「……しゅん」
ダメだったかぁ。奏に嫌われてないかな? そんな事で嫌われたりしないと思ってるけど……イヤなことしちゃったのかな?
奏は私の頭をポフッと撫でてくれる。気遣ってくれているんだなと思うと嬉しくなる。私って単純だなぁ。
奏の近くにどんどんよってしまう。そこで私は奏に翼が無いことに気付いた。仕舞えるのかな?
「かなとこ、そ。せなかの」
「あぁこれか」
奏が背中を出すと、背中に生えていたちっちゃい翼が大きくなった。
「大きさが自由自在なんだ」
私はとりあえず奏の手を取ってしまう。
「かなと、ダメ」
もう片手で服を戻して辺りを見回す。ダメだよ、誰かにでも見られたりしたら。
「そとで、服、ぬがない」
「周りに誰もいないのに?」
「いなくても」
「上半身ていうか、背中だけでも?」
ダメなのはダメ! だって、だって。
「ほかの人、見られたく……ない」
そんな事したら皆が奏に釘付けになっちゃうよ。それとなんかモヤモヤするし。
奏もこんな気持ちだったのかな。でもイジワルした奏も悪いんだよ。
「……ごめん」
「よろし」
即答した。奏の謝罪を許さない訳がない。反省した奏は少し可愛かった。
「みち、いないね」
「そうだな」
昨日まではこんなこと無かったのに、やっぱり凄いな。
奏と二人っきりで登校するのはいつもの事だけど、誰もいない道を2人で歩くのは新鮮な感じ。
世界に私達二人しかいなくても、私はきっと幸せなんだろうな。
トリア「ガーン!?」
★赤ねこ
赤い猫。可愛い。ふさふさ。