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VRMMO バーチャルってなんだっけ?  作者: 肉うどん
10章 現実世界
113/114

99話 夕食

ちょうど一ヶ月あいてしまいました。

大変お待たせしました(;>_<;)


 ホテル二階の大会場ではビュッフェ形式で夕食が宿泊客に提供されている。

 時間は午後の7時から9時半までであるが、9時を超えて食べにくる客は少ないだろう。現在は約8時半、会場はある程度賑わいを見せていた。


 「トリアさん。案外量少ないんですね、山盛り入れてそうだけど」

 「マキ……一体私をどういった目で見ているのかしら。ビュッフェなのだからあたりまえよ、私もマナーくらい心得てるわ」


 心外そうにトリアが小盛りの皿をテーブルに置くと、真紀も笑いながら自分が盛り付けた皿をテーブルの上に置いた。

 肩を並べて座る二人は以前よりも親しげに感じられる。けれど二人が対面に目を向けると揃って苦笑を浮かべざるを得なかった。


 「はい、かなと。あーん」

 「あ~ん」


 奏のよそった夕食を美唯菜が食べさせる。桃色に彩られた空間にはトリアと真紀ですら立ち入れない。

 トリアと真紀が奏達と合流してからずっとコレである。ついこないだまでの二人とは大違いだ。


 「一体何があったんだろう」

 「それは藪ってものよ。あらマキ、大きな海老ね。そんなものあったかしら?」

 「私たちも"あーん"します?」


 口をもぐもぐと動かしながらトリアが真紀の皿を見れば、真紀は大海老を箸で掴んで冗談交じりに笑う。

 そんな真紀にトリアは「やめておくわ」と言って席を立つ。真紀と同じ大海老を取ってくるようだ。そして入れ替わるように根元が乙成を連れてやってきた。


 「隣いいかな?」

 「右はトリアさんのとこだから左なら」

 「ありがと」


 根元が真紀の横に座れば、当然その横に乙成が座ろうとして真紀と目を合わせた。このテーブルは六人テーブルである、佐鳥を真ん中に根元が左を座れば、その横は真紀が座っているのだ。

 視線を絡め合う乙成と真紀。その目にはそれぞれ『そこをどけ』と『ふざけんな』が焼き付いていた。


 「向かい空いてますけど」

 「俺は瑞輝の隣がいいのだ」

 「諦めてください」

 「……ふむ」


 真紀のコネッキングに映ったのは100000の文字。その横に受け取るか受け取らないかが書かれていた。乙成は10万円で真紀の座る場所を買おうというのだ、高い買い物である。

 そんな乙成に真紀は大きく溜息を零すと、席を立って乙成を見据えた。


 「それじゃ私はあっちの席に──」

 「あぁぁああ! ボク急に相馬くんの横に座りたくなったなぁ!」


 突然の裏切りに根元が慌てて立ち上がる。真紀が自分の取り分けた皿を持つ前に根元は奏達の元へと向かった。しかしそこは死地である、自分達の空間を作り出している奏達を間近で見れば、吐きそうな顔をして椅子を少し横にずらしたのだった。


 「ふむ、残念だが瑞輝の正面で我慢するとしようか」

 「うげっ」


 乙成が真紀の横に座ると、真紀が小さく声を漏らす。そんな声にお構いなしと乙成は真紀の横でふんぞり返ると、視線を根元へと向けて使いの者に夕食を用意させた。

 意外なことに取り分けた皿は周りと変わらないものだったが、よく見れば根元の皿と全く同じである。隣で真紀が「うわぁ」と引いていた。


 「あら、一人増えたのね」

 「トリアさん。おかえりなさい」

 「ええ、早く食べるわよ」

 「うん、そうだね!」


 トリアが帰ってくるまで待っていた真紀は、トリアが席につくなりフォークを握る。トリアもそれに習ってフォークを手に取ると、自分のよそった料理に手を付けた。


 「相馬くん、もうすっかり元に戻ったんだね。ていうか悪化してるけど」

 「ん? あぁ、瑞輝のおかげだ。ありがとう」

 「んんんっ? うん。どういたしまして」


 乙成が何かを喋りかけてくる前に根元が奏に話を振ったが、奏の瑞輝呼びに戸惑いを隠せない。しかし美唯菜の様子が変化することはなく、奏もそれが当然のようにしている。本当に仲直りだけじゃなかったようだ。


 「かなと、あーん」

 「ん。あ~ん。そういや瑞輝、前に言ってた領地経営はどんな感じ?」

 「結構いい感じだよ。見せれるようになるまでにはもうちょっとかかるけど、なかなか面白い機能も見つけてね」

 「ほぉ? それは楽しみだ」


 本当に楽しみなのか子供のような笑顔を根元に向ける。根元もそれに歯を見せながら笑うとお互いのWORLDについて語るのだった。

 ゲームの話で食が進み、根元がふと奏の後ろを見れば、美唯菜がトリアや真紀と楽しそうにしていた。これは眼中に無いというよりも、信用や信頼、そういった類いのものである。チラチラとこちらを確認する仕草すら見受けられない。

 そんな以前とは全く違う様子に『ほんとに何があったのさ』と若干呆けながらも、根元は奏に肩を寄せて小声で触れる。


 「で。一体何をしたのさ? 明らか雰囲気変わってるんだけど二人とも」

 「そうか? まあ……オーバリンクして、告った」

 「……ま?」

 「ま」


 元々付き合っているようなものだと根元は思っていたのだが、本人たちの意識の差でここまで変わってくるのかと根元は唖然として口を開ける。

 というよりもあの喧嘩の中からどういう流れでオーバリンクすることになったのか、それも告白まで。美唯菜が奏に騙されてないかと一瞬脳裏を過ぎったが、オーバリンクしているならそれはあり得なかった。


 「正式にお付き合いを?」

 「いや、好きだと伝えただけだけど」

 「じゃあ両想いじゃん」

 「まぁ、そうなるな」


 意味がわからない、煮え切らない。じゃあ付き合えよ! っと根元は口に出かかった言葉を飲み込んだ。

 そもそもオーバリンクなんて裸を見られるよりも恥ずかしいものである、自分のすべてを曝け出しているようなものだ。その時点でもう二人の気持ちは分かりきっているようなものだろう。根元ですら奏とオーバリンクなんて出来やしない、心を覗かれるということはそういうことだ。


 「まあ美唯菜と仲直りできて良かったよ」


 奏が美唯菜を見ると、美唯菜もそれに気付き微笑み合う。その様子に根元はなんとも言えない表情を作り首を振る、視線の先で真紀と目が合えばお互い苦笑いを浮かべるのだった。


 「おい佐鳥。俺の瑞輝と仲が良さそうだが一体どういう関係だ」


 そんな二人を見て乙成が隣から苦言を投げる。そんな言葉に一瞬ポカンとした真紀だったが、何を思ったか満面の笑みで言葉を返した。


 「どういうって、下着を選んであげた仲ですよ」

 「なっ!? なななんだとっ! 瑞輝っ、これはどういうことだ!」


 動揺して根元を問い詰める乙成を見て、真紀は口を手で隠し声を殺しながら笑う。根元はただただ迷惑被る。


 「マキ……あなた案外性格悪いわよね」

 「え、そそそそんなことないよ」


 と言っても説得力はあまり無い。身振り手振りで否定しても口がニヤけていてはトリアも白い目で見るだろう。

 乙成は根元に問いただす言葉を一旦止めると、トリアへと顔を向けた。


 「こいつ性格悪いぞ」

 「なっ! 何言ってるんですか! 冗談は顔だけにしてくださいよ!」


 指を差す乙成に真紀は驚いて声を上げる。完璧に食が止まる真紀の横で、トリアの箸は変わらず進んでいた。


 「ふんっ! ならば佐鳥は自分の性格が良いとでもいうつもりか?」

 「……確かに良くはないと思うけど」


 乙成と真紀の問答はどこか遠慮がなく、身近な人同士の言い合いのように見える。そんな風に根元は感じたのだが、二人の言い合いに美唯菜が口を膨らませた。


 「まきちゃ、やさしいもん」


 ハムスターのように顔をふくらませる猫の獣人は強い口調で乙成に対抗する。一同呆気にとられる中、トリアがこっそり写真を撮った。

 奏はそのほっぺを突きながら、美唯菜の皿からおかずを一つとって美唯菜の口に入れる。もぐもぐと口を動かしながらも頬は膨らませたままだ。


 「そうだな。乙成先輩が悪い」

 「そうね。マキは優しいわ」


 奏が美唯菜に同意すると、トリアもそれにならう。さっきトリアが言った発言は無かったことにするらしい。

 モシャモシャとおかずを口に入れながら言うと説得力は皆無だが。


 「なんと俺がアウェイか」


 そういう乙成は心底驚いた様子で大袈裟にのけぞった。しかしこれは当然のことなのだ、美唯菜がカラスを白色だと言えばカラスは白色になるのだ。という謎理論で奏とトリアが美唯菜の言葉を否定することはない。

 根元が箸を置くと鼻が高そうな真紀に苦笑いを向けた。


 「真紀りん、この人と知り合いだったの?」

 「あーまあ」

 「なんだ知らないのか。こいつとは家が隣同士だ」


 根元の問いに口籠る真紀の横で、乙成が何食わぬ顔でそう言った。

 グレープジュースを飲む乙成は天を仰ぐ真紀を見て首を傾げる。なぜ乙成の隣に住めるという名誉を喜ばないのか。


 「そうだったのね、道理で仲がいいと思ったわ」

 「よ、良くないよっ」

 「それには同意する。俺が仲良くしたいのは瑞輝だけだ」


 そんな二人を見て『仲が悪そうだとは思わないんだけどなぁ』と心の中で喋りながらも、根元は乙成を真紀に押し付ける方法を密かに考える。


 「にしてもこの人が隣って疲れない?」

 「ふっ、この俺がこの女ごときに疲れるなど──」

 「疲れるよ」


 乙成の声を遮って真紀が小さく頬づえを付いた。横目で乙成を見ながら嫌な顔を隠さない。

 直球で言う真紀なのだが、乙成に狼狽える様子はない。むしろ口を緩めて笑っていた。


 「俺の輝きに当てられ続けたせいだろうな」

 「それ恥ずかしくないの?」

 「どこがだ?」


 真紀はため息を吐いて首を振った。乙成には真紀が言う意味が理解できないのだ、なぜなら自分の輝きに絶対的な自信を持っているからである。


 「ねぇミーナ。あちらの席の黒い液体がかかっているのはカレーというものかしら?」

 「うん。おいしーよ」


 周りの席を見渡しながらトリアが聞くと、美唯菜は頷いてトリアの視線の先に向いた。海鮮カレーだろうか、その皿には海の幸がふんだんに使われていた。


 「いっしょ、たべる?」

 「ええ! さっそく持ってくるわ」


 美唯菜はそれを見て少し食べたくなるが、自分のお皿にはまだ取り分けた料理が残っている。美唯菜はトリアと半分こすることに決めた。

 トリアは既に空になった自分の皿をとって立ち上がる。食に関してのトリアの行動は早いのだ。


 「持ってきたわよ!」


 ドンッと置かれたカレーはトリアにしては並盛りであった。美唯菜はそれですごく助かるのだが、トリアは満足するのかと思いトリアの方を向くと、横で高江美蓮がひらひらと手を振っていた。


 「ママ」


 どうやらトリアのカレーを盛りすぎないようにしたのは美蓮だったようである。いやそもそもトリアがどの量のカレーを入れようとしていたのか美唯菜には知らないが。


 「うふふっ、楽しそうだからつい来ちゃったわ」


 美蓮はそう言って口許に片手を持ってくる。トリアは隣に美蓮がいて少し嬉しそうで、美唯菜まで嬉しくなってくる。


 「ままも、たべる?」

 「あらあら」


 一緒に食べよ、という美唯菜に美蓮は少し困った顔で首を傾げた。

 椅子は六席、もう座る場所もないのだ。かといってここで立ちながら食べるわけにはいかないだろう。美唯菜の申し出は嬉しいけど、ここは断ろう、そう言おうとした所で美蓮よりさきに乙成が席を立った。


 「用事を思い出した。では麗しの瑞輝ヒメ、さらばだ」


 無駄にカッコつけて乙成は会場の出口へと歩いていく。突然のことに驚く一同だが、その間に黒服の男が乙成の残した皿を片付けていった。


 「……あっ、私代わるね」

 「え、えぇ」


 暫く言葉を失っていた真紀がハッと気付いてまだ温かい隣の椅子へとずれた。一泊遅れてトリアがそれに倣うと美蓮が「あらあら」と出口を見ながら空いた椅子に座った。


 「なんだか悪いことをしてしまったかしら」

 「多分乙成が自分から席を譲るなんてないから本当に用事だったんだと思います」

 「あらあら、そうだったのね」


 いつの間にか用意していたスプーンを片手に美蓮は真紀の話を聞く。その横でトリアが無心にカレーを頬張り、美唯菜が魚介類をたっぷりスプーンに入れてカレーを一口飲み込んだ。


 「おいし」

 「僕にも一口」

 「ん」

 「あむっ。ん、うまい」


 多少行儀が悪いがそれを咎めるものは誰もいない。周りの席のクラスメイトが『またやってるよ』と思うだけであった。

 トリアは口に含んだカレーを飲み込むと、手を止めて美蓮に顔を向けた。


 「それで、母さんはこれからどうするのかしら? 部屋に戻るの?」

 「んーそうねぇ。また温泉にでも行こうかしら」


 ここの温泉の効能はとてもいいのだ。美肌に健康に体型維持に、美蓮の好きな単語勢揃いである。これは是非とも堪能し尽くしたい。


 「なら私も行こうかしらね」

 「あらあら無理しなくてもいいのよ。折角の機会だもの、皆と遊んでらっしゃいな」

 「あら私が行きたいから行くのよ。母さんは嫌、かしら?」

 「……ズルいわ、トリア」


 いつの間にそんなことを覚えてきたのかしら、と美蓮は頬に手を当てる。そしてトリアの横で真紀が頬を染めて絶句していた。トリアのそんな姿なんて美唯菜の前ですら見たことがなかったのだ。


 「トリアさん可愛い」

 「でしょ」

 「なっ、なによ二人とも」


 ボソッと呟く真紀の声を拾って美唯菜が大きく頷く。そんな二人にトリアが噛み付けば美蓮が「あらあら」と笑う。


 「美唯菜はどうするの? 一緒に入る?」

 「んー」


 美蓮が美唯菜に聞くと、美唯菜は片手を顎に持ってきて考える。

 一緒に入るのも捨てがたいけど、折角のお泊りだしお部屋でお喋りとか、いつもと違う所で遊ぶのって特別感あるし……。そんな美唯菜の悩みに真紀がおずおずと手を上げた。


 「あ、あの、実はみんなで遊ぼうってクラスの皆も誘ってるんだ」

 「へやに、のこるね」


 声が窄みながらも言い切った真紀に美唯菜が即返事した。

 パァッと顔が明るくなる真紀に微笑む美唯菜。真紀が遊ぼうと誘ってくれるなら温泉よりも優先したい。


 「ボクはもっかい風呂かなぁ。田中君たちもまた行くみたいだし」

 「なら僕も風呂だな。一人で部屋にいるのもなんだし」


 瑞輝が呟くように言うと奏が適当に話を返す。部屋に誰かがいれば残る事も考えるが、そうじゃないなら考える余地もない。長い物には巻かれるのだ。

 そうやって話していくこと暫く、和やかなムードが奏たちのテーブルを支配していた。



 「うふふっ、そしたら私は行くわね」

 「うん」

 「あっ、スプーン私が持っていきます」

 「あら、ありがとうね」


 カレーが空になる前に美蓮が席を立つ。

 美唯菜が返事をすると、美蓮は真紀にスプーンを預けて微笑んだ。


 「カレーごちそうさま。トリア、また温泉でね」

 「ええ、また」


 手を振って美蓮が立ち去れば、見送ったトリア達は再び会話に花を咲かせる。

 周りの席に座っていたクラスメイトはそれを少し嬉しそうに見ると席を立って自分達の部屋に帰っていった。

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