8話 孫呉の人々
共に旅をして、それなりにお互いを知る機会が出来たことは大変喜ばしいことだ。
そう、良くわかったことがある。
「…なあ」
「言うな、孫策」
しかし中には、特に知りたくもなかったこともあった。
視線の先にはあやと祁央。
二人の距離は年頃の異性として適切ではないと言い切れるほどに近い。
つまり、傍目には熱愛度の高い恋人か、はたまた仲のいい夫婦のような光景に見えるわけだ。
だが、何故か二人を見る孫策と周喩の目には諦めや胡乱気な色はなく、どころか憐憫や同情の色が浮かぶ。
感情の向かう先はあやではない。
「あや、待て!まだ髪に寝癖が!」
「もういいって!適当に結ぶから」
「なら食事は!ちゃんと取ったのか!?」
「食べた~!」
ばたばたと祁央から逃れるように走り去るあやには、口うるさい母親に対するような情は見えても、男女間の恋慕は見えない。
そうはいっても、あやの行動の根底には揺るぎない信頼があり、途切れない絆を確信しているからこそ、あやは祁央に甘え放題。
そして信頼されている故だと知っている祁央はあやを甘やかし放題。
これが二人の在り方なのだろう。
しかし、会話の内容を聞けばまるで祁央は保護者。
玄鳥の村で寄り添う姿を見た時から、孫策たちは二人はきっとそういう仲なのだろうと思っていた。
いたのだが、その考えは旅の初日で改めさせられた。
今となっては、そんな考えを持っていた過去の自分に呆れる始末だ。
「…哀れな」
ぽつりと漏れた言葉が指すのは祁央。
孫策と周喩にとって彼を示す言葉といえば今はそれだった。
もう直ぐ呉の都に着くという頃になって、やっと孫策が聞いた。
「で、なんであやはそんな格好をしてるんだ?」
「…あー、思いやり?」
疑問符つきで答えたあやはいつも通り祁央の操る馬の前に座っている。
孫策は首を傾げ、周喩は片眉を上げて理解を示した。
「よくわかんねーけど…。ま、似合ってるし、いいんじゃねーの?」
それでいいのか、とは言われた本人であるあやが思う事。
大雑把だと思っていた孫策はあやが思っていたより更に大雑把な男だった。
そんなことも旅の間に知ったことの一つだったが、悪く言えば雑な孫策の結論を咎める必要はなく、注意を促す必要もない。
孫策の隣には周喩がいるからそれでいい。
孫策の足りない所を補うのが周瑜の役目。
あや自身かなり大雑把に二人の関係をそう理解していたので、孫策の結論には肯定の意を乗せて、にっこりと笑って礼を言っておく。
孫策はとにかく器が大きい。
確かにこれなら一国どころか、この大陸全てを飲み込める度量かもしれない。
そう思わせるものが、彼にはある。
この部分だけを見れば、きっと孫策は曹操をも凌ぐだろう。
実際に曹操の傍に居たあやが思うのだ。
間違いはない。
「あや、君の配慮はありがたいが、それはやめておいた方が」
大概の物事を飲み込んでしまう孫策の了承を受けて、逆に難色を口にしたのは周瑜。
「え、なんで?」
「いや、君は一応女性なわけだし」
周喩は時々迂闊だ。
「…『一応』、なんだ?ふうん」
「あっはっはっはは!周瑜、今のはお前が悪い!」
この一言については言及すべきかとあやは半眼になったが、珍しい周喩の失言も孫策が豪快に笑って済ませてしまった。
周瑜がうっかり失態するのは、心の壁を剥がした相手に対する、彼特有の習性なのだとは孫策は言わないでおく。
孫策に免じて周瑜の発言は水に流そうと肩を竦めたあやだったが、孫策の声に反応はしたのはなにもあやたちだけではなかった。
聞き覚えのある快活な笑声に、両脇に立ち並んだ店や家の者があや達一行に目を向ける。
中からは「孫策様!?」や「周喩様!」などの声も聞こえてくるが、人の目に晒されることに慣れている四人の意識には上らない。
人間とは良くも悪くも環境に慣れる生き物だった。
呉の首都、建業は魏の都とはまた違った賑わいを見せていた。
壮麗な文化を誇るのが魏なら、実用に富んだ活気を見せるのが呉の都。
―東京と大阪みたいなものかな。
あやはそれとなく都の様子を観察して、そんな感想に行き着いた。
何というか、商魂逞しい、地に足の着いた生活をしている人が多い気がする。
これも孫策の人柄だろうか。
国って上に立つ人に似るのかな?
そんなことを思う。
ぐるりと見回してみると一際目立つ建物が見えた。
多分、あれが目的地に違いない。
さすがに魏ほどの規模はないが、あやからすればまた無駄に大きいように見える。
だが、それも土地柄だろうと最近は思えるようになってきた。
何せ大陸はデカイ。
日本と違ってそこら中に土地があるのだから、大きくたって問題はない。
段々と近くなってくるにつれて、巨大化していく呉の城を見て、あやはそれでもため息をついた。
微かに薫る水の匂いが長江に接した都の成り立ちを思わせる。
あや達の旅路は南回りの陸路だったため、いまだにその偉大なる大河を目にしてはいない。
けれど、きっとそれも自分には想像もできないスケールなのだろう。
孫策と周喩が城の前で馬を止める。
なぜか簡単に門を潜ることは出来なかった。
君主である孫策が、である。
城門はこのホームグラウンド的な雰囲気の中で唯一違和感を抱かせるように、堅く閉ざされている。
最も固く守られるべき君主の住居であるというのに門番もいない。
祁央は二人に倣って愛馬の黒駒の足を止めた。
どう開門を促すのだろうと見ていると孫策が叫ぶ。
「おーい、今帰ったぞ!!」
それでいいのか、と思わずあやは本日二度目になる突っ込み。
「…何というか、本当にアットホームな展開ね」
力の抜けるような孫策の行動とは裏腹に、城の中は静まり返って物音一つしない。
多くの人の手によって運営されているはずの城が無人だなんてことはないのだから、静寂は一種異様な雰囲気を齎した。
あやは不安げに城門を見上げる。
「お~い、開けてくれよー」
一応気配はあるのだ。
しかも強烈な感情を放っている人物の。
周喩もその気配に気付いたのだろう。
解決に向けて孫策に行動を促す。
「策、謝れ」
「は?何言ってんだ、周喩」
「いいから!今すぐ謝れ!」
「お、おう?わかったよ」
周喩の迫力に押されて、孫策が訳がわからずもこくこくと頷く。
君主が意味もわからず簡単に謝るのはどうなんだろうと思わないでもなかったが、あやは身に感じる怒りの気配に大人しく口を閉ざしていた。
触らぬ神に祟りなし、だ。
「あ~……俺が悪かった!だから開けてくれ!」
孫策の声が城の前に響いたあとには、やはりしんとした静黙。
何となく孫策も状況が読めてきたようで、必死さが出てきた。
「権!尚香!頼むよ、開けてくれ!!」
「……すいません、兄上。私にはどうにもならない状況でして」
「ちょっと権兄様!そんなだから策兄様が調子に乗るのよ!!」
「しょ、尚香、落ち着け…」
扉の向こう側から聞こえてくる弱々しく答える声と怒っているとわかる女性の声。
「尚香、権をそう責めるな。俺が悪かったって!」
「当たり前じゃない!策兄様の他の誰が悪かったって言うの!?」
「うおっと!しまった、よけいに怒らせちまったぞ」
「もう!!策兄様、本当になにもわかってない!!」
つまり、何だ、これは兄弟喧嘩というヤツだろうか。
聞き覚えのある名前がバンバン出てくる。
呉と言えば孫一族。
孫一族といえば父、孫堅。
その息子、孫策。
そして弟、孫権。
妹、孫尚香。
後の世でも有名どころといっていいだろう。
壮大な喧嘩だな、と思ったあやは決して間違っていないはずだ。
わかってしまえば冷静になる。
呉ではよくあることなのか、通行人は特に気にした様子もない。
むしろ微笑ましいとでも言うように戻って来た日常に頬を緩ませて通り過ぎるのみ。
いいのだろうか、一国の君主がこんなに威厳がなくて。
あやと祁央はどこか遠い目をしてフレンドリーすぎる呉のあり方を受け入れようと努力を重ねた。
出来ることはそれ以外になにもない。
蚊帳の外、というのだ、この状況は。
「…どれだけ心配したと思ってるのよ、馬鹿兄様」
「兄上、私も今回は兄上が悪いと思います」
「…策、君の負けだ」
孫策が弱ったように頭を掻いて三人の言葉に答えた。
「ああ、わかってる」
城門のあっちとこっちで繰り広げられていた兄弟喧嘩はやはり愛情の元に成り立っていたようで、史実が間違っていなければ妹であるはずの尚香の滲んだ声と、権と呼ばれた弟の指摘と、ついでに幼馴染からの駄目押しに孫策が折れた。
「本当に悪かったと思ってるよ、でもちゃんと帰ってきただろう?」
「ずっと大変だったんだから!」
「ああ、お前たちには感謝してる」
「兄上、私たちは家族でしょう?私とてまだ未熟者ではありますが、兄上を出来る限りお助けしたいと思っているのですよ」
「そうよ!なのに、何で何も言ってくれなかったの?どうして勝手に一人で行ってしまったの!?何で支えさせてくれないの!」
「ご、ごめんな、権、尚香」
なんともまあ、孫策はほとんど出奔同様に国を留守にしたらしい。
その間、大変だったのはこの二人。
反対に言えば、孫策は後を任せられる彼らがいたからこそ城を抜け出たのだろう。
そう思うと、あやと孫策は甘え方が豪快でやはり似たもの同士だと祁央は結論する。
当然、自分勝手な肉親の甘えで苦労を見た弟妹の正論に孫策が反論あるはずもなく、情けない顔を下げて謝り倒すしかない。
「扉を開けてくれよ。これじゃあお前たちの顔が見れない。ちゃんと謝れない」
置いてきぼりを食らっていたあやと祁央を余所に、感動的な場面が目の前で繰り広げられている。
孫策の言葉に喧々囂々の声がなくなった後、目の前の大きな扉が重そうな音を立てて開いた。
やっとの開門だ。
ゆっくりと扉に隠されていた城内の様子が明らかになる。
あやと祁央は目を丸くした。
ずらりと並んだ人々。
城中の人間全員が集まっているのではないかと思えるほどの人数。
この人数の前で堂々と兄弟喧嘩を恥ずかし気もなくやっていた彼らの常識は測りかねたが、孫策の姿を見た途端にわあっと歓声を上げた人々に、孫策がどれだけ慕われているのかはわかった。
人々の先頭にいるのが多分孫策の弟妹。
その後ろに控えた立派な身形の人々は国を支える武将たちだろう。
彼らは一斉に頭を下げて孫策の帰還を歓迎した。
「「「お帰りなさいませ」」」
すごいところにきてしまった。
あやと祁央は無言で目線を合わせる。
「兄様!」
叫んで孫策に飛びついてきたのは女性。
この時代の女性にしては短めの髪だが、出るところは出ているので女性に間違いはないだろう。
ちょっと羨ましく思ったあやには、短髪時代に女だと見抜いてくれる人など一人もいなかった。
「兄上」
女性とは違ってゆっくりと近づいてきた青年は、落ち着いた雰囲気でありながらも嬉びを隠そうともせずに満面の笑みを浮かべている。
何やかやとやっていたが、二人とも結局は嬉しさが勝っているようだ。
―家族っていいな。
あやは自分にもいた、懐いてくれていた妹を思い出す。
二つ違いの彼女と別れた時、中学二年生になったばかりだった妹も、数えてみればもう高校を卒業する年だ。
「で、兄様。この人たち誰よ」
懐かしさに目を細めていたら、突然矛先が向いてあやはぎくりと固まった。
「おおっと、忘れてた!あや、祁央。これが妹の尚香と弟の権だ!」
「よろしくお願いします」
その紹介に頭を下げたのは権と呼ばれた青年だけで、尚香は胡乱な目つきで二人を嘗め回している。
「で、尚香、権。こっちがあやと祁央。旅先からの同行者だ」
「よろしく」
挨拶は基本。
にっこりと笑顔で敵意を持たないことを示す大切なやり取りだ。
家でも学校でも叩き込まれてきた常識は今も健在。
けれど、その合間も目線を外さない者がいた。
変な名前、と呟きながらも尚香はあやをじっと見つめている。
ひょえ、ばれた?
美少女に見られるのは居心地が悪い。
身じろぎをしてあやが焦っていると、尚香がやっとあやから視線を外しおもむろに孫策に問いかけた。
「…兄様、少し見ない間に変な趣味にでも走ったの?」
「は?」
周喩と祁央以外の目が点になる。
予測がついていた周喩はやはりと天を仰ぎため息を吐いた。
先程あやの怒りを買いかけた一言の後に続くはずだった言葉。
『いや、君は一応女性なわけだし。本末転倒な誤解を招きかねない』
しかも惑わされて、いらない悩みを抱え込む人間が続出しそうだから、その企みはやめておいた方がいい。
周喩はそう言いたかった。
「こんな美少年連れて帰ってくるなんて」
…成功!
あやはほっとため息をついた。
「…って、安心してる場合じゃないじゃん!違うよ、そんな変な誤解を招かないためにこうしてるのに、何でそんな結論に行き着いちゃうわけ!?」
突然大声を出したあやに尚香が一つ後退る。
あや自身はいつも動きやすい服を好んでいたからそう違和感はないのだが、今回は意図的に服装から何から見た目は完全に男。
というよりは少年。
外見だけで判断するなら仕上がりは完璧と言ってもいい。
「孫策さま」
「周喩さま!」
新たな女性の声が加わって、遠くから孫策と周喩を呼ぶ。
「あ、大喬、小喬」
尚香の声にあやはぎくりと振り返る。
そう、この人たちがいるからわざわざこんな格好をしている。
「お帰りなさいませ」
「長旅お疲れさまです」
花のようだ。
「江東の花の二喬」とはよく言ったもので、これを美女と言わずして何とすると言いたくなるような娘が二人。
孫策と周瑜の嫁である。
仲のいい幼馴染である孫策と周瑜は、近隣でも美人と誉れ高かった姉妹をそれぞれ妻に迎えた。
孫策は姉の大喬を、周瑜は妹の小喬を。
尚香もそうだが、呉はちょっと女性のレベルが高い。
見た目的な意味で。
あや以外に興味のない祁央だって一応人の美醜はわかる。
なぜこんな美しい妻がいてあやになびくのか、心底疑問でならない。
少年の格好が違和感なく嵌っているあやの後頭部を眺めて祁央は少々ため息を吐いた。
あやは尚香から大喬に入れ変わっただけで状況的にはまるで変わらない視線を受けて、やはりドキドキと息を詰まらせている。
女の勘という物は結構侮れないものだ。
あやだって女だからよくわかる。
男装がバレませんように!
だが、大喬はあやを疑って見ていたのではなかったようで、不思議そうに首を傾けて直ぐに孫策に目線を移す。
あの日、置手紙をしたためて城から消えた人数は三。
「孫策さま、播瑠は?」
「……播瑠、は」
孫策が一瞬詰まるのを見てあやはつい口を挟んだ。
「故郷に帰りました」
「故郷に?」
「はい、彼の故郷です」
「そう、なの?…残念だけど。それならよかったわ」
大喬が少し戸惑い気味に、けれど優しげに笑った。
あやが女の身ながらちょっと見蕩れてしまうような、柔らかな慈愛。
「前に帰り道がわからないと寂しそうに言っていたから、本当によかった」
ああ、呉に、ここに、播瑠はいたのだ。
ここで暮らして、重ねてきた時間がある。
築いていた関係が、あったのだ。
それを嬉しく思うのと、悲しく思うのと、あやは複雑に渦巻く胸中を隠して言葉を重ねる。
「僕は彼に頼まれて、彼の代わりに孫策様に遣わされました」
真実半分。嘘半分。
一番バレない誤魔化し方だと以前誰かから聞いた。
「播瑠に?あなたは播瑠の知り合いなの?」
「はい。…同郷の縁があります」
「では、あなたが彼に帰り道を教えてくれたのね。じゃあ、お礼を言わなくちゃ」
「い、いえ、とんでも御座いません」
無邪気に笑う大喬の言葉が痛かった。
礼を言われるようなことなど、何もしていない。
むしろ、彼にとっては「害」ですらあっただろう。
「とにかく孫策さまと周喩さまの帰還と、新しい仲間が増えたことを喜ばないと!」
「そうね!」
大喬と小喬が笑いあう。
尚香も二人の様子に苦笑して、やっとあやに幾分か和らげた目を向けてくれた。
「ごめんなさい、さっきは失礼なことを」
「いえ、気にしないで下さい」
美人に謝られると何もかもそれでよくなってしまうのは何でだろう。
あやは尚香に好意しかない。
だって、きれいなのだ。
嫌われたくはない。
「名前はあやだったわね。播瑠と同郷だから名前も不思議な響きなのね」
そうだった。
あや、なんて名乗ったら日本では一発で女の名だとばれる。
変なところで救われた。
「だが、同郷にしても顔形がまったく似ていないが…」
最もな突っ込みにぎくりとあやが振り返れば、なかなか立派な青年の姿。
先程孫策が『権』と紹介してくれたから、多分これが若くして死ぬ孫策の後を継いで呉を率いることになる弟の孫権。
未来がわかっているということは中々見えるものも多い。
あやはことさらゆったりと答えてみせた。
「同じところでも生まれた場所が違いますから」
「ほう」
考え込むように孫権が腕組みをする。
孫策よりも堂に入っている気がするのはあやと祁央の気のせいではないだろう。
それってどうなのよ、孫策。
しかし、孫策の器の大きさが稀なる才能同士の衝突を避けているのだろうと納得も出来た。
孫策あってこその呉がここにある。
孫権の少しだけ細められた目に浮かぶものは先ほどまでの尚香によく似ている。
疑いの目を向けられているのだろうか。
あやはここは引いてはいけない所だと本能で感じ取って、孫権の目を見返す。
あれ?
見返して気付く。
「目が、青い」
あやのつい漏らしてしまった声に祁央が反応して孫権の顔を見た。
「本当だ」
孫権がぐいっと眉を持ち上げて、尚香が気まずそうに孫権を見上げた。
他の者もあやと祁央の言葉に固まっている。
この異相を言われるのを孫権が嫌っていることを誰もが知っていた。
唯一、細かいことを気にしない孫策だけが高らかに笑い声を上げてあやたちの言葉に答えた。
「そうだ、権の目は綺麗だろう!」
「まあ、そうだね。…うん、きれい。海の色だ」
あっさりと肯定されて面食らう。
衒いのないとわかるあやの素直な意見と、見上げる目は素直に感嘆を表していた。
孫策がそうだろうそうだろうと、あやの言葉に満足そうに頷く。
言われた本人は気まずそうに顔をあやから逸らした。
好奇の目なら慣れたものなのに。
尚香たち呉の面々には彼が照れ隠しにそうしたのだとわかった。
「まさかこんな所で見られるとは思わなかったな」
「お前は他にも見たことがあるのか?」
青い目を。
つい、驚いて聞いてしまった。
「おかしな事を聞くね。播瑠は同郷だと言ったのに」
不愛想で何かと遠巻きにされていた彼。
孫権は一方的に親近感を持っていた播瑠の顔を思い出す。
そういえば、あまり親しくもない彼にそんなものを抱いていたのは、彼と共通する異相があったからだ。
彼の目も青かった。
「故郷では珍しくないんだよ。青や緑や…どうにかしようものなら赤とか紫とか金色とか。カラコンあるし自由自在に変えられたんだ。髪の色だって多種多様だよ」
確かにあやが孫権を見る目には珍しさよりも懐かしさがある。
故郷を思い出しているのかもしれない。
変わった少年だ。
「さて、立ち話はこれくらいにして」
皆があやの話に興味を持ち始めたのを感じて、周喩が手を叩いて注目を集める。
「あや、祁央殿、君たちに紹介したい者はまだたくさんいるんだ。とりあえず移動しよう」
こうしてあやと祁央は呉の城に踏み込んだ。




