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燕華の天女 河岸の覇  作者: 一集
第一章 魏編
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小咄 本命



特に何をしていたわけではない。

いや、仕事をしていた。

だが、一体どうしてこんな話になっているのだろうか。


「で、結局嬢の本命は誰なんじゃ?」


白父がいつもと変わらない表情で言った。

まごうことなきコイバナである。

傍から見れば、白父は名の通り白い髭と髪で顔など定かではないのだが、あやにはそれなりの付き合いの長さから推察することが出来た。


「いや、誰と言われても…てか、何でそんな話題?」


一応口に出していってみる。


「ワシの興味かのう?」

「…お茶目な爺ね。」


置いてあった白父の茶を啜る。

ワシの…と呟く白父の様子は無視。


「本命ね~?」

「おおう、そうじゃ、そうじゃ。」

「じゃあ先に白父から、どうぞ?」

「は?」

「だって、ずるいじゃない!こういうのって言い出した人からばらさなきゃなんないのよ!?」


少なくとも学校の中ではそうだった。

ギブアンドテイク。

少し意味は違うかもしれないが、対価は必要なもの。

教えて欲しいなら自分が喋ることは女子の間では暗黙の了解。


「嬢…ワシに本命がいるとでも?この年で?」

「恋は年でするもんじゃな~い!」

「…時々嬢がわからんのう」


さみしそうに白父が拳を振り上げたあやを見上げて言った。


あやは白父の様子を余所に出会った人々の顔を思い浮かべる。

たくさんの人と出会い、別れてきた。


だが本命と言われても思い浮かぶ顔はない。

さて、白父がそんな答えで納得してくれるものか。


顔なら断然夏侯惇。

実は右近も結構好み。


もし恋人にするなら祁央とか徐晃がいい。

結婚相手なら左近か曹仁か、そんなところだろう。


夏侯淵や張遼は出来たら同僚に一人ずつ欲しいところだ。

曹操は本当なら近づきたくない人種だが、出会ってしまったから仕方がない。


誰だったか、曹操を愛しているのかと聞かれたことがあったが、何ともその辺は複雑だ。

恋情ではない。


でも、そう。

関係を持てるか、と言われたらイエスだろう。

絶対にそんな事態にはならないだろうけども!


ゴンッと鈍い音がしてあやは驚いて意識を戻した。


「白父?」

「いやはや、嬢、できればそういったことは心の中に秘めておくべきだと思うのだがね。女性としての恥じらいが…」

「うっそ!どこから声に出てた!?」

「『顔ならやっぱり、惇でしょー?』って所から」


机にぶつけたらしいおでこを撫でながら、白父が妙に女子高生みたいな口調で再現する。


ってか、それってさいしょからじゃん。

じっとりとした目に怯みながらあやは口元に笑みを浮かべる努力をする。


「そんなわけで本命って言われてもまだいない訳でして。」

「…聞いていればよくわかった」


怪我の功名?

信じてはくれたようだ。

嬉しくない恥をかいたが。


白父が一つため息を付いて遠い昔の感覚を追うように目を細めてあやに語りだす。


「ワシの経験を言わせてもらえば恋とはもっと、相手が幸せそうに笑っているだけで嬉しくなったり、何をしていても相手のことが気になったり、少しの時間でも会いたいとか思うものぞ」


あやはこてっと首を傾げて白父の上げた恋の条件を当てはめてみる。


「あー、白父!いるわ、そんな相手!!」

「おお、それぞ恋!誰じゃ、誰じゃ!」


やっぱりこういう話は年齢関係なく盛り上がるものなんだな、と思いながらあやは満面の笑みで答える。


「呂布」


ゴンッとさっきより強めの音が響いたが、目の前の白父ではない。

白父も不思議そうに首を傾げている。


二人で目を合わせて入り口に顔を向けてみれば、額を押さえて蹲っている影。


「何やってんの、祁央」


丁度書類を持ってやってきたのだろう。

白父が事情を察して気の毒そうに祁央を見る。


一体どこから聞いてたのやら。

その動揺振りを見ると多分最後のくだり辺りだろう。


「い、いや。これを届けに…」


祁央は蹲って額を押さえたまま書類を差し出す。

白父が受け取ったと見るや否やよろよろと姿を消す。


「何、あれ?」

「恋の道化だ。」

「は?」


妙に生き生きとした白父の答えはあやには疑問符しか返せない。


「うむ、嬢はもうそれでよい。そのままで居れ。」

「ええ?」

「だがな、一つだけ言わせてもらうぞ。誤解を招く言動は慎むものじゃ!」

「誤解?」


呂布のことだろうか。

誰が誤解なんてするというのか。

事実話を聞いていた白父は正確に筋を掴んでいる。


あの呂布が貂蝉や右近と幸せそうに笑っているだけで嬉しくなるし、勉強はしているのかとか、村に馴染めたかとか、苛められてないかとか、何をしていても呂布のことが気になる。

少しの時間でも空きがあると様子を見に行っているのもそのせい。


「白父の言った状態にぴったりじゃない?」

「…だが恋ではないぞ、恋では。」

「あは、どっちかというと母情?」


暢気にもきゃははと笑うあやを見て白父はそっと涙を拭った。


哀れ祁央。

白父は祁央に心の中でエールを送る。


その日から嫌がっていた呂布との稽古を受ける祁央の姿が見られた。

祁央の言いようのない気迫に呂布が冷汗をかかされたが、その原因を知るものは少ない。


見物していたあやは無邪気に手を叩いて喜んでいたが、とりあえず祁央を応援しろという白父の命令だけは守っておいた。






次から2章です。

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