Prologue
『―――――――ください
―――――起きてください
――――早く起きてくださいッ』
無機質な音声が静まり返った室内でよく響いている。
「うぅん?・・・わぁったよ。起きっから、セプト、騒ぐのやめろ。」
騒ぎながらも携帯端末の画面から覗く少女は話が聞こえたようで、騒ぐのが止んだ。
Support・Experience・Program・Tester略してSEPT
それがカノジョの名前だ。
携帯端末には複数のアイコン、そしてカノジョが映し出されている。
『早く準備してください、本日の予定の書き換えが必要となります』
寝ぼけた頭にカノジョの声はよく響く。時刻はAM7:15頃、急ぐ必要はない。
ベットの隣にカノジョは居る。
携帯端末は充電器のコードが繋がれ、周りには棚から落ちてしまいそうなくらい山積みのゴミ達と一緒に置かれている。
イヤホンのコードが絡まっている。
一度はあるだろう?鞄の中にあったイヤホンのコードが熱烈なほど絡み合ったことが。
俺は取り敢えずそれをほどき、布団を除ける。結構苦戦した。
「・・・今日の天気は?」
『AM9:00頃から天気は一時崩れますが特に影響はないかと』
OK!そいつは素晴らしい。まぁ、日は射さないんだけどね。
「りょーかい。セプト、テレビ。」
『こちらもりょーかい、です』
カノジョは時折殺人的なまで素晴らしい笑顔を俺に向けてくる。こう、ふとした時に言われるので内心ドキッとしたりする。
画面の中の女の子に向かって、となると自分はもう戻ってこれないのではないかと感じる時がある。
大丈夫だよねぇ?戻ってこれるよねぇ?と考えるあたり、彼女の毒牙にかかってしまったらしい。
テレビ画面が光り、ニュース番組のアナウンサーと若干胡散臭い評論家達が会談をしている。
あくびと一緒に伸びをする。人はこの時に身長が伸びるそうだ。
寝ぼけたまま、細長く開いた目を擦る。
タンスからハンドタオルを取り出し、洗面台へと向かう。
足元のモノを踏まないように慎重に。
でなければ、現代のまきびしとも呼べる我がコレクション達は一度踏むと、連鎖的に次の一歩で踏んでしまう。何と恐ろしい。
ドアを開けると足に冷気が当たる。勿論廊下にエアコンを設置したりはする気はないため仕方のないのだが。
足が冷える。床と外気からのダブルコンボ、更には逃げ場がないときた。
靴下をはくことを何度も検討したが、なんかこう、むずむずして寝れないのだ。
廊下はいたってきれいだ。横のどっかの地名のような名前の書いてある段ボールは整理してここに置いたものだ。
放置プレイをしているわけではない、つもりだ。
洗面台のライトを点ける。水を出しながらお湯になるのを待つ。
ザァ―――という音に水を無駄にしている感覚はあるが、こんなクソ寒いのに冷水で顔を洗う気はない。
目は覚めるんだろうけどな。
顔を洗い、鏡の横の歯ブラシの手をかける。もう一本あったりはしない。
俺は彼女いない歴=年齢だ。あれ?目から水が・・・拭き残したかなハハハ。
片手で歯磨き粉のキャップを開け、歯ブラシに塗りつける。
歯磨き粉のCMのようにきれいに塗ることができる。そろそろCMオファー来ないかな。
我が城に戻ると携帯端末の充電コードを抜く。
昨日の夜から充電したため、残量も100%になっている。
寝間着として愛用しているジャージを布団の上に脱ぎ捨て、ハンガーを手に取り制服に着替える。
一か月もすれば手慣れたものである。
俺はまだ高校生だ。そして、なんかよくわからん携帯端末の中に同居人(美少女)がいる。
しかもこのお姫様と言ったらもうほんとに充電を喰う。
しかもインターネットで何処にでもつながっている。
というかオフラインにさせてくんない。きっとどっかのサーバから来てるんだろうが。
きっと情報社会のこのご時世、征服できそう。
本日の朝食はいつもと変わらずパンだ。俺は朝食はパン派だ。
いつもカノジョはどこからか、朝食らしきモノを持ってくる。
このカノジョはよく作りこまれている。
正直、こう言ったAI等に詳しいわけではないが、携帯端末標準装備のおしゃべりAIなど比ではない。
そもそも家の家電、俺のPCなど勝手に入り込むようなものが市販品なわけなく、ただのスパムメールとして処理すべきだった。
今では、男子高校生ならではの極秘ファイルもカノジョに晒された。こんなモノはやはり市販用ではない。
今でもあの極秘ファイル晒し事件は宇宙の彼方へ投げ捨てたいくらいの黒歴史だ。
カノジョが来たのは2ヶ月前。スパムメールを誤って開いてしまったことから始まった。
+ + +
俺がいつものようにメールボックスを開いてメールを押す時だ、くしゃみをして誤ってスパムメールをクリックした。
開いた瞬間、Support・Experience・Program・Testerとカノジョの名前が映し出され、ポリゴンが集まり、セプト爆誕!といった具合だ。
『初めまして、私は《Support・Experience・Program・Tester》、略してSEPTとお呼びいただいて結構です
あなたの情報を教えてください』
あの時は本当に驚いた。画面には無表情で俺を見つめる少女がいたのだから。
「え?えっとぉ、い、斉宮 武勇です。」
すると少女は
『これからよろしくお願いします!武勇様!』