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「ようやく順番が回ってきたな…」
ようやくゲート使用の出番が回って来た。
ゲートは古代の遺物で、世界各地散らばっている。
多くはゲートのある場所に街や国を作るのだが、ゲート周りに、強力な魔物が住み着いていたり、よく分からない場所、例えば海の中とかに存在するものもある。
使用するには一度行ったことのある場所でないと使えない。
逆に言うと、誰も行ったことのないゲートの場所まで行ければ、その周りは自分がほぼ自由に開発や探検ができる、というわけだ。
それを夢見てソロやパーティーで探しに行く冒険者も少なくない。
最も、帰って来れるのは半分位で、成果を出せるのはほんの一握りの冒険者だけだが。
「お前ら、離れんなよ?」
「わーってるよ」
「こいつに吹き飛ばされなければね」
この二人、いわゆる犬猿の仲になっている。まぁ、片方は狩猟犬で、もう片方は小猿のようだが。
今はイクサとアイリスの間にリュウが入る形だ。
リュウがゲート前に行くと、
「ギルド、ブルームーン」
と言った。すると、ゲートの間に、透明な膜のようなものが出来る。
「よし、行くか」
「おうよ」
「ちょ、ちょっとまってよっ!」
三人はゲートの膜を通る。
中を通ると、どこか霧がかった光景で、何も見えない。
「離れんじゃねーぞ」
リュウの後をイクサとアイリスが追う。
少し歩くと、霧が晴れてきて、目の前に薄ぼんやりとだが、建物のようなシルエットが浮かび上がる。
「もうすぐだ」
すると、膜の中に入った感触が再び体を包む。
霧が晴れたその先は―――
◇
「おぉ…」
さながら、雲の中に浮かぶ城、と言ったところだろうか。
城の高さは大体百五十m位だろうか?かなりデカイ。
また、城は横にも広がっているので、2日3日では全部をまわりきれないだろう。
城は、王城とかにありそうな豪華な感じでは無く、古城と言った方がしっくりくる外観だ。
それが雲に包まれて現れたのだ。
ラピ○タと言っても過言ではないだろう。
イクサはそんな幻想的な光景に目を奪われる。
「まっ、私が居た里に比べれば対した事ないわね」
アイリスの言葉に仕返しをしない位に目を奪われていた。
それもそうだろう。元々、VRゲームはやらないイクサ。
初めてのVRゲームでこんな光景を見れば、誰しも口を開けてしまうだろう。
「どうだ?すげぇだろ」
誇らしげに胸を張るリュウ。
イクサが驚くのを見たくて、ここまでどのような場所かを言わないでいた。
元々、イクサが楽しむように整えた所だ。そうでなければ困る。
「すげぇ、すげぇや!」
どこかネジが外れたようにはしゃぐイクサ。
「俺のブルームーンが所有する天空城へようこそ」
清々しいくらいの笑顔で、リュウはそう言い放った。
◇
ギルド「ブルームーン」
∞・ワールドの発売日から活動している古参のギルドだ。
所属する人数は約百五十名。古参のギルドにしてはかなりの少人数だ。多いところでは千名を越えるギルドもある。その殆どはトップギルドだが。
ブルームーンは最近までは目立った行動はしてこなかったが、ここ最近になって活動方針が変わる。目立たない活動から目立つ活動へ。
その前にランキングの話をしよう。ギルドのランキングには二種類ある。一つはギルドの世界に対しての貢献度。もう一つはギルド同士での戦闘によるランキング。ブルームーンは前者に関しては対した事はないが、後者では、何と、トップギルドの仲間入りをしてる。
今までのランキングとしては中堅の辺りだったが、方針が変わってから破竹の勢いでランキングの順位が上がっていく。
これには訳がある。まず、メンバーの能力を完全に秘匿するため、外との関わりを殆ど経つことだ。メンバーも、ギルドが出来てから三ヶ月位から殆ど変化がなかったらしい。それによってどのギルドも対策が出来なかった。
そして、何よりも大きかったのは、参謀の存在だ。いや、この場合は軍師と呼ぶのが適切か。
その軍師の奇策が殆どのギルドに対して多大な被害を与える。約百五十名だけでここまで勝ち残れたのはその存在のおかげだろう。
そんな軍師様は、横で誇らしげにしているが。
で、ランキングが30位以内に入った特典で、ここの天空城が手に入ったようだ。因みに落っこちたギルドは天空城を失っている。
軍師様のお陰で、ギルド戦は混迷しているとか。今までの定石やらなんやらが意味を無くしたり、地雷扱いされていたスキルが息を吹き返したりして大変らしい。
これが、ギルド「ブルームーン」に対しての周りが分かっている範囲の情報。(アイリス談)
「ふーん、なるほどなぁ」
ここに来るまでの間、かなりの奇異の視線を感じたのはそれが原因か。
「なるほど、じゃないでしょ!この人はすごいんだから!」
顔を赤くしたアイリスが言う。
「今までの戦略を覆して進攻戦、防衛戦ともに負けなしなのよ!?しかもそれの問い合わせで私たちは大変なんだから!」
尊敬なのか怒りなのか分からないが、テンションMAXなアイリス。
ハッキリ言ってウザイ。
「ほら落ち着けって。大きく息を吸って」
「はぁー、ふぅー」
「後はずっと息を止めてろ」
「…出来るかっ!」
そんな感じでアイリスをからかっているとリュウが、
「ほれ着いたぞ」
と、遠くの方を見てそう言った。
同じ方を見ると、ピクニックとかである、石材で出来た小さな吹き抜けの小屋が見えた。
「明らかに城じゃないだろ」
「あそこには色んな所に通じる魔方陣があるんだ。それを使って城に行く」
昔流行ったゲームで言うと、旅の○みたいなものか。
そんなこんなでその小屋に到着。
中は少し寂れた様子で、雑草とかも所々見受けられる。
そんな小屋の真ん中に魔方陣があった。
魔方陣は複雑な幾何学模様が、入り組んだ迷路のように絡み合っていて、何がなんだか全くわからない。
リュウが魔方陣の上まで行ったのでついていく。
すると、リュウが手元に展開しているであろうメニューを操作して、
「んじゃ、城内にレッツゴーだ」