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とりあえず説明回
ドアの中から出てきたのは、馬鹿を連れた女性だった。
「お?」
つい声が出してしまった。
その女性は豪勢なドレスを身に纏い、指輪やネックレスといった装飾品を身に付けていた。顔も万人が「美しい」と評価するだろう顔立ちで、髪はライトグリーンで腰辺りまである。
まぁ、そこまではプレイヤーの中でも当てはまる者は居るだろう。
―――背中から生える翅がなければだが。
改めてその顔を見ると、微笑んでいるのだが、どこか申し訳なさそうな雰囲気があった。
そんな時だった。
「なんだぁ?」
目の前に文字が浮かんで来て、それにはこう書いてあった。
――――――――――――――――
名前 シャルアニール
種族 妖精
職業 『GM』 『妖精女王』
――――――――――――――――
と現れた。
この世界、∞・ワールドに存在する「リバガルド」という世界において「妖精」は、人前に現れる事はなく、存在すら定かではなかった。だが、渡り人が現れた事で、それを補助するようにして「妖精」も現れるようになった。
もちろん、この世界の人間(全ての種族)は、こぞって捕獲、又は取り込もうとするが、どれも失敗する。
これは、このゲーム内においてGMという立場を、全ての妖精に与えてあるため、物理的にも、魔法的にも無理があった。
それに、居場所を突き止めたくても、ワープ(転移魔法)とは違う原理なのか追跡は出来なかった。もちろんプレイヤーはGMの権限を使っているのだろうと知っている。知らないのはこの世界に生きる人間(NPC)だけだ。
因みに、この世界に生きている生物は、全てAIが操っている。鳥一羽においてもAIを1体使っているらしい。
少し話がそれだが、この「妖精」はプレイヤーが例えどんなに課金したとしてもなることが出来ない種族なのだ。
「今回の件は申し訳ありませんでした」
開口一番、シャルアニールは謝罪を口にして頭を下げる。
隣の馬鹿はどこかきょどった感じだったが、シャルアニールが頭を下げたのを見て、渋々といった体で頭を下げる。
…イラッ。
「我々の手違いでイクサ様のプレイに対し、多大な迷惑を…」
サラリーマンとかで良くありそうな感じの、ペコペコ頭を下げるシャルアニールに対し、アイリスは、拗ねた子供のような反応をしている。
…殴りたい、あの顔…。
「…つきましてはお詫びとしまして
「野郎ぶっ殺してやらぁ!!」
なんなんださっきからこいつのの反応は!自分は悪くないみたいな顔しやがって!だったらてめぇがあんときに出てくんじゃねぇよ!ただでさえ死ぬほど恐ろしい思いをしたんだぞこっちは!
心の怒りを糧として恐ろしい速度で飛びかかるイクサ。
もちろんそれを見越していたリュウは、後ろから羽交い締めにする。
「放せリュウ!アイツ殺せない!」
「殺しちゃダメに決まってんだろ…」
リュウの表情は見えないが、困ったような笑顔を浮かべているはずだろう。だが知ったこっちゃない。アイツにはお灸を据えねばならん。
必死にもがくが、かなりの力の差があるようで全く緩む気配がない。
その間、アイリスはシャルアニールの後ろに隠れ、今にも泣きそうな表情をしている。
「だって仕方ないじゃない!まさか初めて案内するプレイヤーがこんなキチガイなんて聞いてないもん!」
「初めて分からんなら、何故先輩とかを呼ばねぇんだよ!何の為の先輩だ!」
イクサに怒鳴られ顔を隠すアイリス。
俺だってハジメテはあった。もちろん色々あったさ…
どこか遠い目をするイクサ。少しは怒りが消えてきたのが分かったリュウはイクサを放す。
「えー、こほん。お詫びに関してなんですが…、チュートリアルを最初から行わせて貰います。本来ならやり直しは不可能なのですが、こちらの不手際で途中で終わってしまい、バグが発生してしまったのでもう一度やり直してもらいたいのですが…」
チラッと横目でリュウん見るシャルアニール。
「わかってるよ。俺も横で居られンだろな?」
「はい。今さら特例が一つ増えようが構いませんし、よろしくお願いします」
それにまた問題が起こるのは嫌ですからね。と呟き、シャルアニールとリュウは苦笑いになる。
「それでは場所はここで。椅子も調度四人分あるようですし、座りながらやりましょうか」
◇
「まず、キャラの構成から説明しましょうか」
∞・ワールドにおいて、プレイヤーは種族、ステータス、職業、スキル、称号から成り立っている。
種族はそのまんまで、人間ならオールラウンダーな存在。エルフは遠距離からの攻撃と、風の魔法が得意。魔族であれば、魔法一般が得意だ。
他にも種類がいるがそれは追い追いで。
ステータスは、体力、力、防御力、魔力、知力、持久力、器用から成り立っている。
体力は、文字どおり体力。HPとも言う。もちろんゼロになればデスルーラだ。
力は腕力、脚力等全てをひっくるめての力だ。力が足りなければ、武器や防具が装備出来ても重くて動けなくなる。逆に力の値が高いと、例えばダンプカーとかも余裕で持てる位力強くなる。また、速く動きたい時も力が必要。
防御力は、敵の攻撃力を抑え、ダメージを負うのを抑えるものだ。
魔力は、魔法を使うにあたって減ってゆき、無くなれば魔法が使えなくなる。魔力が完全に無くなると、魔力欠乏症になり、気分が悪くなったり、最悪戦闘中に気絶する恐れがあるので、魔力管理はとても重要。
知力は、物事に対しての物覚えが良くなったり、魔法の威力も上がる。
持久力は、足りないと直ぐに走れなくなったり、剣とかを持ち続ける事が出来なくなる。これもかなり重要。
器用は、物を作るときや、鍛冶をするにあたっては必要なもの。
このステータス、どれが特化しててもあまり意味がない。力が強くても、持久力が無くて、剣や盾が持てない上に、動けないとそのまま的になるし、仮に前衛だから魔力は要らないといって高くしないと、罠や敵の特殊な攻撃で魔力を失い、気絶してやられる。ということもあるので一極化はダメ。絶対。
次に職業。
これは下位職、中位職、上位職といった具合に段階があり、一つの職業の習熟度をカンストして次の職業が現れたり、複数の職業をカンストして初めて次の職業が現れたりする。職業は、その職業にあった武器や魔法に補正が付いたり、ステータスにもある程度の補正が付く。自分の進む道が決まっているならそれだけを選んだり、決まらないならコロコロ変えたりすることも可能だ。
だが、習熟度をカンストすることによって、他の職業であってもカンストした職業の特性等を、ある程度引き継ぐ事が出来る。例えば「魔法使い」であれば、魔力の回復速度が五%上がる、とかが有るため、多くの職業をカンストするために頑張る廃人達がいる。
しかし、そう簡単にもいくわけも無く、下位職、中位職、上位職の段階で一つの職業をカンストすると、同じ段階の職業の習熟度が上がり難くなる仕組みとなっている。そのため、必要なものだけを選んで上げて、他を諦めるスタンスを取る必要が有るため、最初の職業とはかなり重要なものとなってある。
次はスキル。
スキルは正直、職業に似たシステムが取り組まれている。
スキルにも、上位、下位があり、習熟度や条件によって取得出来るかがきまる。
スキルを取得すると、そのスキルにあった行動に補正がかかる。
更にステータスにもある程度補正が付くため、沢山のスキルを取得しようとする人も出るだろう。
もちろん、取ろうとすれば全てのスキルが取得出来るが、その分育つのが遅くなってゆく。
スキルは条件を満たした瞬間に有効化される、という事は無いので、自分が上げたいスキルを上げてから別のを育てるのも可能だ。
最後に称号。
これはMMOにおいては、達成した行動を分かりやすくしたり、称号を手に入れてアイテムを手に入れたりしていたが、∞・ワールドでは違う。
それは、称号を手に入れると、ステータスに補正も付き、他にも色々特典がある。
例えば、称号でしか手に入らない職業やスキルであったり、店に行った際に安くなったりもする。
なので多くのプレイヤーが称号取得に向けて頑張っている。とのことだ。
――――――――――――――――――
「ここまで何か分からないことは?」
「少し休ませてやってくれ。イクサはあまり頭の出来が悪いんだ」
頭が痛い…。ポンコツの機械みたいな煙が口から出てきそうな位痛い。
筋肉式修理術が効けば良いのに、そう上手くいかないのが世の定め。
殴ったら余計悪くなるとかは言わない方向で。
あの時はとにかく戦いたいの精神でてきとうにやり過ごしたけど、かなり重要だったみたいだな、キャラ作り。
実はここまでくるのに、同じ話を二度してもらっている。
「では、イクサさんのキャラクターを作りましょうか」
◇
数十分後…。
「出来たッ!」
キャラ制作画面を持ってはしゃぐイクサ。
それとは反対に、燃え尽きたように座る三人の姿が。
「なんで…なんで地雷スキルを取りにいこうとすんだよ…」
「まさかここまでかかるとは…。正直予想してませんでした…」
「もう帰りたいよう…」
ステータスの振り方や、数多にある中スキルの中で、地雷スキルと呼ばれる要らない子を取ろうとするイクサを止めたりしてかなりの時間を要してしまった。
イクサのキャラクターは―――
――――――――――――――
名前 イクサ
種族 人間
職業 「剣士」
称号 「トラブルメイカー」 「妖精の天敵」
ステータス
体力 12+5+3 力 12+5+3 防御力 12+3 魔力 10 知力 10 持久力 14+5+3 器用 10
ボーナス 0
スキル
「隠れる」Lv1 「身体強化」Lv1 「持久力増加」Lv1
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ステータスは、最初ボーナスポイントが10点貰ってあり、リュウのアドバイスでこうなった。+~は職業とスキルの補正だ。
スキルは3つだけ最初っから持てる事になっていて、戦闘に関してのスキルは簡単に手に入るから必要がない。俺のスタイルはヒット&ヒットだから戦闘の持続と、姿を隠すという事が致命的なまでに出来ないからこうなった。「隠れる」意味なくね?と思ったけどリュウが「隠れるの後の隠蔽を取るためには必要」だって言っていた。「隠蔽」はステータスとかも隠す事が出来るから役に立つらしい。
称号についてなんだけど…。「トラブルメイカー」は良いとして「妖精の天敵」とか何だよ?
別に何もしてないし、付く意味が分からん。
で、効果については、「トラブルメイカー」は事件や事故等が自分を中心にして起こる事が多くなる。むしろ色んな事件をおこしてやるぜ!
「妖精の天敵」は妖精の友好度が下がる。
わりとどうでもいい。
少し回復したのかシャルアニールが、のそりと身動ぎする。
「次は…容姿についてですが…自分で出来ますか?」
どこか心配そうな目を向けながら、GM用の仮想コンソールを操作するシャルアニール。
何かそこはかとなく馬鹿にされているが仕方ない。
学校の成績は下から数えた方が圧倒的に早いレベルだからな。
「大丈夫だ、問題ない」
問題しかなさそうな事を言って、容姿の制作に入る。
◇
約十分後~
「完成っと」
画面にある完了ボタンを押す。
すると、イクサの体が光って一瞬見えなくなる。
光が収まると、日本人とは明らかにかけ離れた姿が現れる。
雪のように白い髪。少しつり上がったり、赤く光る相手を威圧するような目。口元を三日月のように歪ませれば、その間から覗く八重歯。
相手に恐怖を与える為に生まれました、と言わんばかりの姿が、そこにはあった。
◇
「なんでそうなった…」
「これは…」
「ひぃ!?」
リュウは頭を押さえ、シャルアニールはどこか真剣な考えこむ。アイリスはそんなシャルアニールの後ろに隠れる。
いったいなんだ?こんなイカス姿のどこにそんな表情を見せる要素があるというんだ。
「…もういいや。もう決めちまったことだ」
「こればっかりは…ダメですね」
「(ガタガタ)」
「えっ?何か問題あんの?」
「それに関しては後で説明すんよ」
リュウは席を立つ。
「とりあえず、こっちの用はすんだ。助かったぜ」
「いえ…。あ、あと一つ」
「あん?」
シャルアニールは、後ろに隠れていたアイリスの肩に手を置いて、
「イクサさんのサポートとして、この子を付けようと思います。可愛がってあげてくださいね?」
シャルアニール以外の表情が凍りついた。
かなりぐだりました。
前回も書いた気がしますが、必ず書き直します。
正直職業要らない気がしてきてしまった…