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∞・ワールド  作者: B・D
5/11

5

扉を抜けると、そこは雪国だった




―――何て事は無く、ファンタジーなゲームに良くある感じの、街並みが目に入ってくる。



「おお…、すげぇ…」


見渡すと、沢山の人間が居て、犬耳が生えたり、翼や尻尾があったりする人もちらほらと見える。

後ろを見ると、いかにも転移出来そうな、ゲートと呼べそうな建築物が立っていた。おそらくあそこから俺は出てきたのだろう。




だけどそんな事は関係ない。重要な事じゃない。

大事な事は―――



「剣だ!剣がある!!」

スゲー!本物だ!本物じゃないけど本物だ!片刃の物や長剣、大剣なんかある!向こうではあんなもの現実的ではないけど実際ナイフとかで十分だし、でもそういうのも実際に触れてみたかったけど正直剣なんて使い方分かるわけないし―――


頭の中で妄想の世界に飛び出し、ゲート前で棒立ちしているイクサを多くもないが、少なくもない人数が、「なんだこいつ?」「ああ、来たばっかりなのかな?」と、冷ややかな目で見たり、どこか懐かしそうなものを見る人が居るなか、そんな人に話しかける人がいた。


「やぁ君、大丈夫かい?」

「うぇい!?はい!いくらでも殺れます!」

「(何か不穏な気配がしたけど…まあいいか)君はもしかして、渡りびとかい?」

「はあ?」

話を聞くと、渡りびととは、この世界とは違う所から来た人間とのことらしい。なんで俺か分かったのか聞くと、渡りびとは、変人が多く、街の中で、ナイフを自分に当てたり、「ハーレム王に、俺はなる!!」とか良く分からない事をする人がいるそうで、そんな気配を俺に感じたらしい。

余りに酷い話だ。ただ、人と話したり(物理)、思いきって体を動かしたい(例・一騎当千)とか思っているがそこまで酷くないはずだ。


「あー、多分そうだと思う」

「そうか。じゃああらためて、フルスの街にようこそ!」


ふーん、ここフルスって言うのか。にしても本当人多いなぁ。

―――と、そこで気づく。今話している男の姿について。


といっても、良くファンタジーに居そうな兵士の姿なのだが、頭に鉄のヘルメット、鉄の鎧を着ている。足の装備がないのは速度重視か。

で、腰に長剣を携えている。そう、長剣、である。


(うぉー!?触ってみたい振り回したい切りつけたい!でも上手く動けないしどうやって剣を手に入れるのか…)


目を輝かせながら夢の中に突撃するイクサ。兵士さんは放置され居心地が悪くなっている。


※イクサはジョブが剣士なので、所持品に「木の剣」 威力1 レア1 の所謂初期装備を持っています。装備画面で装備していないため手元にはありません。


(――だったら剣を使える相手と戦えば良いじゃないか!)

常人ならば、使い方を乞うところだが、そうじゃないのがイクサクオリティ。戦闘を通して学ぼうとする。


「おっちゃん強そうだね!一戦交えない?」

「は?いや、俺にはゲートの監視が…。それ以前何で戦わにゃ――」

「そうか!後の先とかそういうの好きなんだな!ならこっちからいくぜ?」

「え、ちょ、ま――」

顎に強い衝撃を受け、意識が飛んでゆく中、三日月のように口を曲げ、誰もが恐怖するであろう笑顔を浮かべ、拳を振り抜いた男。

それが彼にとって、ここでの最後の記憶となる。


薄れゆく意識の中、

(あぁ、こいつに関わらなければ良かった…)

彼の人生において、最大の後悔で、ここから彼の地獄が始まる。















「なんでこんなことをしたんだい?」

「つい興奮してやった。反省も後悔もしていない」

「…はぁ」


現在、牢屋の中で両手足を手錠みたいなので繋がれた状態で居るイクサ。

大体畳四畳程の広さで、一つある窓には鉄格子。入口も鉄格子で覆われていた。

今話している奴は、最初に俺が殴り飛ばした奴だ。だが、どこにもケガをしている様子はない。何らかの方法で治したのだろう。


にしても、楽しかったなぁ。ついにやけてしまう。



「おまえ、何をした!?」

「え?殴った」


近くにいた兵士が、気絶した兵士を介抱する。

イクサは余りの手応えの無さに呆然となり、棒立ちになる。

(いくらなんでも脆すぎじゃないか?)

正確には油断していた上に、顎に拳をもらい、しかもクリティカル判定だったから気絶扱いになったのが真相で、ステータス的には勝てる訳はないのだ。


「全員、奴を囲め!」


気がつくと周りは兵士に取り囲まれ、既に剣を抜いている。

その向こうでは、遠巻きにこちらを見る人で溢れていた。


「まあいい、さっきのは呆気なかったが、今度は楽しめそうだ」

口元を歪め、何時でも動けるよう体勢を変える。

少しずつ、少しずつ包囲網を狭めていく兵士。

イクサは周りを見回し、どこから抜けられるか穴を探る。

人数は八人。これぐらいなら余裕か。さらに笑みを深める。


「どうした、来ないならこっちから、いくぜっ!」


体を反転させ、右の方にいた兵士に向かって走るイクサ。

こちらに来るとは思っていなかったのか、顔を見なくても動揺しているのが分かる。


「う、うわぁ!?」

手に持っていた長剣を上段から切り下ろす…為か、腕を上に持っていく。

(そんな見え見えの攻撃、当たるかよ!)


近づいたイクサに対し、切りかかる兵士。

だが、腕を下ろし始めた時点で、その剣の圏内には既にイクサは居なく、

横に体勢をずらし、拳を握りしめる。


「吹き飛べやぁ!!」

全体重を拳に乗せ、兵士の鼻先に叩き込む。

声も出ずそのまま吹き飛ぶように転がり、起き上がる事はなかった。


「貴様ぁ!許さんぞ!」

今ので完全に怒りの沸点を越えたのだろう。三人の兵士が斬りかかって来た。


まず最初に一番早く斬りかかって来た兵士の、剣の横ぶりを、刃の無い部分に腕を合わせ、太刀筋を反らす。

少ししゃがみ、足に力を入れて前にいる兵士を飛び越すように飛び上がる。

その勢いのまま膝蹴りを入れ、倒れかかる兵士を足場に、その後ろにいた二人の兵士に襲いかかる。


この二人もイクサの行動に度肝を抜かれたのか、一瞬立ち止まってしまう。それは戦闘においては悪手だ。

飛びかかるイクサは二人の喉辺りな腕を回し、そのまま地面に落ちる。

もちろん、二人の兵士を下にする形で、だ。

その二人はそのままダウン。瞬く間に半分の仲間をやられた部隊の隊長は、


「このままでは不味い…。ガーディアンを呼ぶぞ!」

と、叫び、近くの兵士に何かを手渡した。

それを使うと、地面が輝きだし、良く見ると地面に魔方陣のようなものが浮かび上がっていた。


「スゲー!さすがファンタジー!」


一層明るく輝くと、地面から三体の鎧が上がってくる。


(強そう…、だが、どこか無防備だ。隙しかない)

三体の鎧が召喚されると、残りの兵士は逃げられないよう、ガーディアンごとイクサを囲む。

その間、ガーディアンはゆっくりとこちらに近寄る。


(少し様子見か…。鎧の間を突くことが出来るもの…)

ここまで考えて、さっき倒した兵士の存在を思い出す。

(後で返せば問題ないよな?)


ガーディアンからは目を離さず、兵士から長剣を拝借し、構える。


一秒、

二秒、

―――十秒。


(おせぇ、動きがトロすぎる!!)

いっそのこと、ゴーレムに名前変えれば良いだろと思いたくなるほど遅い。

余りにも遅いから自分からしかけに行く。


前傾姿勢で走り、ガーディアンの一体に、剣を上半身と下半身の鎧の間に突きいれる。


―――カーン

中をそのまま貫いて、奥の内側までなんの抵抗も無く突き刺さる。

中は空洞だった。しかも、そこからが問題だった。


(動きが…変わった?)

そう判断出来たのは、刺した剣を抜こうとした時だ。

明らかに怠慢な動きだったのが、即座に反応し、抜こうとした剣を体を傾ける事で抜けなくしたのだ。

そしてそのまま掴みかかろうとするガーディアン。


イクサは剣を抜くのを諦め、即座に距離を離す。

このまま少し呼吸を整える。

―――はずだった。


「おっ!?」

ガーディアンはそのまま追いかけ、掴みにかかる。

今の動きから、相手のスペックはかなり高い事が分かった。

ガーディアンの手を受け流そうとするが、余りの力強さに、呆気なく捕まってしまう。


「はっはぁ!どうかね、このガーディアンの力は!こいつは古代遺産の一つで、ステータスは恐ろしく高いものだ!だがそれだけではない。相手の動きを学習して、その先を行く事が出来る、素晴らしいものだ!人と違い疲れることもない。おまえみたいなバカにはもったいない代物だがな!」

と、隊長らしき人物がいい放つ。そこからは色々な罵倒、忙しい時に何て事を、とかいろいろ。


イクサはそんな罵倒は、ザルから流れ落ちる水のように聞き流していた。

途中までは聞いていたが、ある一言で考え込む。


(相手の動きを学習?しかも疲れない。てことはだ。…良いトレーニング相手になるんじゃね?)


ずっとそんな事を考えてながら、ガーディアンに担がれ連行されて行った。







「だから、俺はリュウに用があんの、分かる?」

「おまえみたいな危険な生物、外に出せるか!」

「そんなことよりおうどん食べたい」

「話を聞けぇ!」


そんな感じで適当におちょくる。

こいつの顔が赤くなって変顔しているのを見ているのが楽しい。


「第一、あの方がお前みたいなやつが知り合いな訳ないだろ!」


―――あの方?

もしかして何か偉いポジションにでも居るのだろうか?

そんな話は聞いてはいないが、後で聞けばいっか。


「仕方ない…。気は進まんが…」


何かを決めた兵士。

すると、



何故か世界が止まっていた。

言葉通り、兵士も、そして俺自身も体が動かせなかった。考える事は出来るみたいだが。


変わったのは、目の前に画面が浮かんでいる事だった。

それには、


『これから貴方は尋問される事になります。これは、プレイヤーに対し、多大な苦しみを与えます。ですが、今の貴方には三つの選択肢があります。このまま尋問を受けるか、尋問の場面を飛ばし、その後の状態になる事。最後は、表舞台から姿を消し、裏社会で生きる事です。


一つ目は、大きな苦しみを味わいますが、その苦しみに耐え、情報を話さない事が出来る可能性があります。

二つ目は、苦しみは味あわずにすみますが、情報は流してしまいます。

三つ目は、この場に盗賊が入ってきて、そのまま盗賊について行く事になります』


…これは、まぁ…親切なこった。

二番めは無いとして、一番目は好奇心で残して置くとして、三番目だ。

これは確かに助けられはするが、その盗賊ぶっ飛ばして逃げる事も出来るのではないのだろうか。


色々な可能性があるが、好奇心に勝てず一番目を選択。


『途中で止める事も出来ますが、本当によろしいのですか?』


本当に親切やな。まぁ、ここまでやらないと世間に叩かれるだろうし、仕方ないのかも知れないが。


「良し…、そこから出るんだ」


鍵を開けた鉄格子の扉をくぐる。


前と後ろで挟まれた状態で歩くイクサ。

と、通路の先から、焦った表情で走ってきた兵士が、俺たちのことを確認すると、助かった、みたいな表情をしてこちらに走って近づく。


「良かった!まだ、何かしたりしてませんよね!」

「ん?あぁ、そうだが」


肩で上下に動かし、膝に手を置く。

少し休み、先頭にいた兵士に耳打ちする。


「実は…」

「…何だと!?」


ありえない、といった表情をする兵士A。走って来た奴はBで。


「とにかくついてきて下さい。案内するんで」


兵士Bの後をついて行く事になった兵士Aとイクサ。

後ろにいたやつは気がつけばどっかに行っていた。




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