この腐った大地で息をするということは
銀の髪をなびかせて、顔が半分崩壊している人外に魔装弾を打ち込み、
「死にさらせよ!!」
と言って岩陰に隠れる。バケモノはオレの攻撃に当たったのだろう。多少は蹌踉めいた後、姿勢を低くして這いずりまわるように移動を開始した。
「くそ、仕留め損なった。そっちに行ったぞ」
「相変わらず、すぐに再生しやがる」
忌々しい。今回の相手は自己増殖細胞付与済みの被験食屍鬼かよ。面倒くさい相手だぜ。オレがそんなことを考えて舌打ちをしていると、
「脳味噌に埋め込まれた電極を引きずり出せよ!! そんなことも出来ないからお前は男女なんだよ!!」
とアフェールドの奴が、こっちを見てパッパラパーなことを言ってきやがったぜ。被験食屍鬼の相手も面倒くさいがこの脳筋の相手も、うざいわ!!
「うるさい!! この筋肉バカ!! お前みたいな脳筋野郎にとやかく言われる筋合いはない!」
オレは実験の影響で第二次性徴期が来なかっただけなの!! 本当だったら、もう既にダンディーな年齢なのっとオレたちが馬鹿な会話をしていると
「お、お願いします。見逃してください」
と被験食屍鬼が甲高い声で懇願するように言ってきた。いや、多分、殺さないでくれと泣きついてるんだろうけどね…
「だとよ。見逃すか?」
「馬鹿なことを言うなよ。実験体になったら最後だ。僕? お嬢ちゃん? ああ、もう、見た目もバケモノだから性別がわからないな」
実験される前は小柄な女性、もしくは子供だったんだろうな。鱗が生えて元人間だったとは思えなくなった胴体から伸びているその腕はとても大人のモノとは思えないほどに小さいからね。本当はできれば見逃してやりたいよ。でも、でもな……
「アベ、アブヴァヴァぁぁあああ!?」
「ああ、ついに意識まで持っていかれたね」
被験食屍鬼と呼ば荒れる実験体はどんどん人間であった遺伝子情報を書き換えていく。
「早く殺せよ!! キサマの甘さでもっと多くの人が死ぬことになるんだぞ!!」
「ああ、わかってるよ。本当にわかってる」
オレは装填可動式弩砲に魔装弾を装填し駆ける。
アレクトラル連邦共和国。世界の9割を支配し、統治するこの国は人類に選択を迫った。彼らが行う実験に参加して生きる意味のある新しい人類になるか。それとも、役に立たない旧人類として処分されるかを国民に選ばせたのだ。もちろん、多くの人は殺されたくない。
だから、実験に参加したさ。でも、ほとんどの人は実験に肉体が耐えれなくて亡くなった。所が、中にはもっとエグい失敗例がたくさん出てきたのだ。それが被験食屍鬼だ。奴らは人の成れの果てだ。人として扱われず駆除される。そんな存在だ。
「狂ってやがる。この世界の何もかもが」
オレは被験食屍鬼の屍を踏みつけながら、吐き捨てるようにそう言った。もちろん、オレにもわかっている。俺も含めてこの世界は狂っているのだ……