その4
ちょっと長めになります
「ふん、ふふ~ん!」
「あれ、かれんが鼻歌歌うの珍しいね?」
「あ、おはよー理央ちゃーんっ!」
「うん、おはよう。てか早く支度しなよ。もうすぐ一時間目始まるよ。」
theおかっぱヘアーの美少女がわたしに向かって話しかけてきます。彼女は幼稚園からの友達の理央ちゃんです。クールだけど、優しいわたしの親友です。
「えへへー、なんとー!今日はお兄ちゃんの誕生日なんです!」
お兄ちゃんのお誕生日パーティーは夜からなんですけど、でもやっぱり朝から楽しみです!
早くお兄ちゃんの喜ぶ顔がみたいの一言に尽きます!という訳でわたしは朝から鼻歌を歌うくらいにハイテンションなんです!
「話聞いてる?……は?お兄ちゃん?」
理央ちゃんは怪訝そうな顔をしてわたしを見てきます。
「あんた、一人っ子だよね?」
「そうだよ?」
…どうしたんでしょう?理央ちゃんにはお兄ちゃんと言えば通じると思ったのですが。それに昨日この話を彼女に相談したと思ったんですけど…?
「かれん………」
なんか理央ちゃんが言いたそうな顔をしてます。しかもなんか、かわいそうな子を見るような一線引いた視線をこちらに浴びせてます…。
心当たりが無さすぎて怖いです、え、ほんとになんでそんな目で見るの!?
「はーい皆さーん席について下さいねー!…ほらほらかれんさんも席ついてー…って、ランドセルすら片付けてないの!?」
あ、もう一時間目が始まるようです。…理央ちゃんの冷たい視線がとっても気になりますが席につくことにしました。なんだか背中がとってもかさばってる気がしますがそれは置いておきましょう。
後で問いただしてみます、覚悟してくださいね、理央ちゃん!
「またね……ゆっくり寝なさいね。じゃあ。」
「うん!また明日ね!」
そう言って理央ちゃんは道路の右側を曲がりました。スタスタと歩く様は小学四年生とは思えないくらいにかっこいいです!……なんかわたし、大切なこと忘れているような気がします。うーん…なんでしたっけ?
………はっ!問いただすの忘れてました。
「りおちゃ……」
時既に遅し、理央ちゃんは居ません。
流石は理央ちゃんです。わたしと別れて数秒しかたっていないのに、もう話しかけるのを戸惑う位に遠くまで歩いています。……あれ?もしかして走ってる?
「ただいまー!!」
わたしは玄関の扉が壊れるのも覚悟で思い切り扉を開きました!なんてったって今日はお兄ちゃんの誕生日です!ド派手に登場してやりますとも!!…まぁわたしは主役ではないんですけどね。気持ちの持ちようですよ!
「おかえりー、…どうしたの?そんなに張り切って?」
お母さんが玄関まできて出迎えて来てくれました。
「今日は特別な日なんだもん!…例えわたしが主役ではなくてもね!」
キラーンと効果音が出てきそうな位、わたしの笑顔は素晴らしかったと思います。
「はぁ?寝言は寝てから言うもんよ。そんなことより早くお風呂入ってきなさい、沸いてるから。」
…え、何でしょう。今日は皆冷たいです。
なんかわたしがちょっとおかしい、みたいな扱いをしてきます。
もう、失礼しちゃいます!これはお兄ちゃんに愚痴を聞いてもらうべきです!
お兄ちゃんに会うにはまずお風呂に入りましょうかね。…え?今日だけ格好つけたって遅いですって?
そんなことありませんよ、これも気持ちの持ちようなんですからね!
「ふぁー!いい湯だったー!」
只今わたしは牛乳を片手にテレビのリモコンを操ってます。風呂上がりの牛乳は欠かせません、これはわたしとお兄ちゃん共通の習慣なんですからね!
「はぁ…テレビなんて見てないで早く座りなさい、ご飯できてるから。」
お母さんが呆れたような目でわたしを見てきます。仮にも娘にそんな目を向けてはいけませんよ!…それより
「え?お兄ちゃん待たなくていいの?お父さんもおばさんもおじさんも、誰も来てないじゃん?」
「…なにいってるの?」
「だからー、主役のお兄ちゃんがまだいないのに、わたしとお母さんだけで済ませるなんてありえんって!」
もー、お母さんはわかってないなーとプリプリ怒っていると、お母さんは真剣な顔をして
「かれん、あんたにはお兄ちゃんはいないよ?」
と言ってきました。そんなことはわたしもわかっています。
「そりゃ、血は繋がってないけどね?小さい頃からの名残だよー」
なぜこうもいちいち確認するのでしょう。こんなこと聞かなくてもわかってるはずなのに
「かれん、悪いことは言わないから寝なさい」
な、なんという鬼畜でしょうか!?お兄ちゃんに会う前に寝るとは…!しかも今日は誕生日ですよ!?
「ちょ、まって、まだお兄ちゃんに会って…」
「だから、お兄ちゃんなんていないのよ?」
……何故でしょう?
「またまたぁー!どーしたのお母さん?…取り合えずお兄ちゃんの家に行ってくるからちょっと待ってて!」
「ちょ、待ちなさい。どこに行くわけ?」
「お隣さん!」
……とても嫌な予感がします。
お母さんが何か言っていますが聞こえないフリです。わたしは急いで玄関の方へ向かい、そこらへんに置いてあるクロックスを履き玄関の扉を開けました。お兄ちゃんの家、わたしの左手にある家―
「はぁ…言ったでしょう?」
お母さんが呆れた顔して面倒くさそうに靴を履いて外に出てきました。
「うちの家はお隣さんなんて居ないのよ?」
わたしの家の隣は空き地でした。
「…み……ふく」
「え?服?」
「雪見…大福は?……昨日のは…誰が食べたの?」
「ああ、雪見大福ね。ごめんね、今日も買うの忘れちゃって!やんなっちゃうわー、年かしらー?」
「…え?昨日はお兄ちゃんが…」
「あんたまだそんなこと言ってるの?なんだっけ厨ニ病だっけ?やめてよー小学四年生で厨ニ病とか笑えないわ。」
「ちがっ…!」
「昨日はお母さん雪見大福買うの忘れちゃってホームランバー食べたでしょ?ポケ*ン見ながら」
「ひとりで?」
「そうだけど…え、やめてよお母さんお化けとか見えないから」
それなら昨日買ったお兄ちゃんへのプレゼントは?
わたしは急いで家の中に入って自分の部屋に向かいました。…確か引き出しの二段目にメッセージカードと一緒に入れたはずです。
急いで引き出しを開けてみるとそこには
――――花柄のポーチ。
違います、わたしが買ったのはこんなのではありません。最悪の場合は打ち消して、部屋中を漁ります。お母さんがびっくりしてますけど、そんなこと構いません、早く、早く見付けなくては
今見付けなくてはお兄ちゃんが消えてしまいそうで
結局、夜中まで探しても見つかりませんでした。
それはお兄ちゃんへのプレゼントだけでなく、お兄ちゃんから貰ったもの、全てです。
お兄ちゃんがわたしに似合うと言って買ってくれた白いワンピースも
ツインテールが似合うからと買ってくれた、髪を結ぶためのゴムも
お兄ちゃんのお古の分厚い辞書も
毎日のように見返していた、あのアルバムも
なにもかも、わたしの知らない違うものへと変化していました。
白いワンピースは白いカーディガンに
ゴムはシュシュに
分厚い辞書は電子辞書に
アルバムに至っては、存在すらありません。
気持ちが悪いです、こんな知らないものに囲まれて。こんなもの知りません、見たこともありません。
なんで、なんで?どうしてですか?
どうして急に居なくなるのですか?
昨日言いましたよね?
待ってるって
あれは…嘘だったのですか?
実は皆グルでドッキリでした…とか、ならないですかね?
嫌です、いや、嫌
お兄ちゃんが居ないなんて理解できない
もう、いやです。
悲しいくらいわたしってボキャブラリー無いんですね、いや、しか言えません
お兄ちゃん、会いたいです…
過去編終わりです!
次回からは異世界に戻ります
その3を書き加えたので、それを見ないと一部訳がわからないかもしれません。すみません。
因みに書き加えた言葉は
「わかった、じゃあ待ってる」
です。