その3
過去編です!
わたしとお兄ちゃんは幼馴染みでした。わたしが産まれた時には既にお兄ちゃんは8才で、家が隣同士だったこともあって、わたしの面倒をよく見てくれていました。
「こんにちはー、かーれん!遊びに来たよー!
あ、あれはお兄ちゃんですね!身内贔屓とかでなくとってもかっこいいです。
「だぁっ!」
「おー偉い偉い。僕のことお迎えに来てくれたのかなー?」
勿論ですとも、兄を出迎えずにいては妹を名乗れませんからね!
「あぃっ!」
「んー、今日もかわいいなぁ…今日は何してあそぼっか?」
お兄ちゃんとなら何でもウェルカムです!
「にぃーたぁとっ!!」
「…えっ、今かれん僕のこと呼んでくれたの…っ!?」
「あぃっ!にーたぁー!しゅきしゅっきぃ!」
「ぅっ…かわいいっ!僕もだよっ!」
そういってお兄ちゃんはわたしをぎゅうぎゅう抱き締めてきました。わたしも嬉しくなってぎゅっと抱き締め返します。
「…もぅ、まーた玄関でそんなことやってー。はやく上がりなさいな二人とも」
そう言って母が言ってくるまで基本二人は玄関から動きません。
わたしはお兄ちゃんにとってもなつきました。とっても優しくて、かっこよくて、頭もよくて、でも怒るときはきちんと怒る。まさに完璧なお兄ちゃんです、自信をもってそう言えます!
こんなお兄ちゃんは当然ながら学校でも好かれていたようで、年を重ねるごとにお兄ちゃんは他の人とも遊ぶようになりました。けれど、お兄ちゃんはどんな日でも時間を作って会いに来てくれました。……流石に台風の日に来たのはかなりびっくりしましたが。
そんな生活がずっと続くと思ってました。
ですが大切なものはある日突然、何の前振りもなく失われるのです。
あれは確か、わたしが小学四年生の頃でした――
「ただいまー、…あれ、お兄ちゃん来てたの?」
わたしの家のリビングでくつろいでるのは予想外の人物でした。はい、こたつに座って雪見大福を食べているお兄ちゃんのことです。高校三年生で色々大変な時期だから暫くは会えない、と、昨日母お母さんが言っていたと思うのですが…
「おかえりー、うん居るけど?」
そういいながら彼はわたしに向かっておいでおいでと手招きしてきました。勿論わたしは彼の膝の上に乗ります。
会えないと思ったのに会えて嬉しいので、この際お母さんの話は聞かなかったことにしようと思ってます。
「雪見大福いる?じゃあ、あーんして?」
いります、とてもいります。雪見大福はわたしの好きな食べ物best30の中に入る位に好きです!
…え?best30は微妙じゃないかって?そんなことありませんよ。
「……いらないの?」
「いるっ!」
考え事をしていたら口を開けるのを忘れていたみたいです。
冷たくて美味しい雪見大福をもぐもぐしながら、わたしは彼の膝の上でテレビを見るのに熱中してました。なので聞こえてませんよ、彼が「一口で一個食べるとは思わなかった…」と若干引きぎみき呟いているのは。
「そういえば、かれんは何で帰りが遅かったの?」
おおっ!ピカチ*ウが十万ボルトを相手にお見舞いしました、あともう一匹倒したらジム戦勝利です!
「えっと……今日は…友達と……」
ジムリーダーなんか長々と話してます、早くポケ*ン出して!戦わせて!
「友達と?」
「……………」
おぉ、やっとです、やっとジムリーダーさんがモン*ターボールを手にしました!さて!誰が出てくるのでしょうっ!
――――プツッ
うわぁあぁああ!?
テレビの電源が切れました!何故っ!?
わたわた慌てながらわたしは早く電源をつけようとリモコンを探します。
「かれんー?」
彼がなんか話しかけてきます。でも一旦無視します。何故なら早くテレビの続きが見たいから!
「かれんが探してるのは、これだよね?」
ちらっと彼のことを見てみると、
………なんですと!?
彼が持ってるのは正しくわたしが探してたものです。リモコンです!
「そ、それっ!ちょ、はやく貸して!」
リモコンが見つかれば早いものです、何チャンネルでやってるのかは既に把握済みなんですからっ!
さぁ、それを貸してください、さぁっ!!
「うん、貸してあげるよ。でもその前に、人と話すときは目を見て話すこと!僕との話よりそのテレビの方が大事なの?そんなことないよね?」
…あ、やばい、これはお兄ちゃん怒ってます。
ここはこのあとの平穏のためにもテレビは諦めましょうかね。
うぅっ、折角これ見るために走って帰ってきたのに…!絶対このDVDはお兄ちゃんに買わせるもんね!
「…かれんちゃん?」
はぅっ、いつも呼び捨ての人にちゃん付けされると、なんかこう、ぞわってします。
「はぃい!」
「うん、こっち向いたねいいこいいこ…さっきもこっち向いて話してくれたらよかったのにね?」
わたしの頭を撫で撫でしながら、見るのも戸惑う位に綺麗な笑みをこちらに向けています。…こわいです。
「あぁ、泣かないで?…泣かせたいわけじゃないからね?僕はそんな趣味じゃないよ?」
「いや、泣いてないよお兄ちゃん。」
「そうかな?目がうるうるしてるよ?」
「そ、それは…!」
…それはテレビが消されたからです。
とは言えません。
「それは?」
「……う、……えっと…」
わたしが言葉に詰まっていると、お兄ちゃんはふっと笑いました。
「ごめんね、ついからかっちゃった。これで許して?」
そう言うとお兄ちゃんはわたしの頬に、唇を優しくくっつけてきました。
「わっ!?」
こんなこと幼稚園以来されてなかったのでわたしは驚きました。
「ところで、今日は何で遅かったの?」
お兄ちゃんはあっさりと何も無かったかのように話を戻してきました。
…え、無かったことにされちゃうんですか?べ、別にいいですけどね?それならこっちにだって考えはあります!
「ないしょー」
そっけなくわたしが言うと、彼は少し困った顔をして笑いました。
「そっかー、かれんも隠し事するお年頃かぁ…」
…なんか、そんな悲しい顔をされると悪いことをしたような気持ちになってしまいます。
「…でも、明日になったらわかるよ。それまでのお楽しみだからね!」
わたしがそう言うと、お兄ちゃんはふわっと笑いました。
「わかった、じゃあ待ってる」
やっぱりこの笑いかたが好きです!
「…じゃあ僕はそろそろ帰るね」
すっと立ち上がり、玄関の方へ彼は向かいました。
わたしは彼に背中を預けていたので急にもたれ掛かる場所が無くなって、空気が直接触れて寒いです。
「うん、気を付けてね!」
「ふふ、わかってる、おやすみ。」
「おやすみー!」
そう言って彼は隣の家に帰っていきました。
明日は実は彼の誕生日なんです。そのために今日は少し遠くのお店まで行って来ました。小学四年生のお小遣いで買ったものなんて鷹が知れてますか、それでも一生懸命考えて、好みのものを買ったつもりです!
早く明日にならないかな?
早くお兄ちゃんの喜ぶ顔がみたいな…
そんなことを考えていた矢先
悲劇は起こりました。
本当は1話で終わらせようと思ったのですが、長いのでもう1話程続きそうです…!